The happiest me in the world 「お願いウソップー、1枚だけでいいのー。」 「馬鹿かお前は!1枚だろうが2枚だろうがバレたら殺されるのは確実だ!俺はまだ死にたくねえ!」 ウソップ工場に訪れた私はまたもウソップに頼み事を依頼したのだが。その内容は確かにウソップがこれだけ拒否するのも無理は無いと私自身でも分かっている。 「本人に直接頼みゃあいいだろ。お前らもうそういう仲なんだろ?」 「…そうだけど、こんな事頼める訳無いじゃん。」 「あなた自分の言ってること滅茶苦茶なの分かってます?」 「分かってるよ!」 少し軽蔑したような呆れたような目で私を見るウソップに思わず大きな声で返してしまう。 「恥ずかしいの…恋人同士だとしたって、そんな事頼めないよ。」 「確かにお前の言ってることは変態そのものだしな。さすがのサンジも引くかもしれなえな。」 「うう…」 前回に引き続き私がウソップに頼んだ内容というのが、サンジのワイシャツを1枚盗んで…いや、拝借して来て欲しいというものだった。確かにさすがに自分でも気持ち悪いと思う。 「諦めるしか無いか…」 「だーから、アイツに直接匂いでも何でも嗅がせてもらえって。でもお前のその欲求は最早中毒だな。」 「中毒…か。確かに。」 確かに私のサンジの匂いを嗅ぎたい欲求は変態の域を超えている。 だがこの船には他の仲間も居るわけで。いつでもサンジに抱きついて匂いを嗅いで、なんてそう簡単に出来ることでは無い。 むしろ以前よりも意識しすぎてしまってサンジと距離を取ってしまう自分が居た。 だから私はいつでもサンジの匂いを嗅げるように彼のワイシャツが1枚でも手元にあれば、と考えたのだが。 「すまんねウソップ、諦めきれなかったらまた来るわ。」 「サラッと何言ってんだお前は。もう来るな。来ないでください。お願いします。」 土下座するウソップにじゃ、と言いながらその場を後にすると私はうーん、と考えながら取り敢えず愛しの彼の元へ向かった。 最初はまさかサンジへの気持ちがこんなに膨らむと思っていなかった。 ただ彼の吸っている煙草の匂いが好きなだけだと自分でも思っていたのに。だけど私が好きだったのはサンジ本人の匂いで、そしてその本人の事もこんなに好きになってしまうとは。 「サンジー…」 ダイニングの扉を開け名前を呼ぶといつもはすぐに返ってくる返事が無い。 聞こえてないのかと思いキッチンに向かって足を動かしながらもう一度名前を呼んでみると、いつも居るはずの彼の姿が見当たらなかった。 「どこ行ったんだろ…」 いつものこの時間なら夕飯の仕込みをしてるはずなのだが。まあ実際会って「匂い嗅ぎに来ました!」とか言える訳ないし。 出直そうかと思い踵を返そうとした瞬間、ある物が私の目に入ってきた。 サンジがエプロンを掛ているポールハンガーに彼がいつも羽織っているジャケットが掛けられていた。 それを見た途端、私の中の抑えていたものが弾けた音がした気がした。 周囲を見回し誰も居ない事を確認すると、ゆっくりとそのジャケットに近づく。 本当に気持ち悪いな私、と思いながらも足は止まってくれない。ジャケットに恐る恐る手を伸ばし、それに触れた瞬間私の欲望は爆発してしまった。 両腕を広げると掛けられている彼の匂いを纏ったジャケットを抱きしめ、そして思い切りその匂いを吸い込む。 幸せ、と感じると同時に何故か物足りなさを感じた。 「あー、名無しちゃん?お取り込み中悪いんだが…」 唐突に聞こえてきたその声に、私は心臓が口から飛び出すかと思い体が動かなくなってしまった。 え、サンジは一体いつから居たのだろう?というか、どうする。この状況を何て説明する? 頭の中で言い訳を考えるので精一杯になってしまい、そして死ぬ程の恥ずかしさでサンジの方を振り向けないでいた。 意を決した私はそっとジャケットから腕を解くと俯きながら振り返り歩き出し、何も無かったようにサンジの横を通り過ぎようとした。 「おいおいおい。ちょっと待とうか。」 「お願い!何も聞かないで!」 私の腕を優しく掴み引き止めるサンジに懇願しながら数分前の自分に言ってやりたい。 変態め、だから言わんこっちゃない、と。 「ごめんなさい。ごめんなさい。違うの。」 恥ずかしすぎてサンジの顔が見れない。取り敢えず謝ることしか出来ない私は何て滑稽なのだろうか。 「何が違うんだ?」 「あの、えっと、」 「名無しちゃん。」 「聞かないでよ…分かってる癖に…」 両手で真っ赤になっているであろう自分の顔を覆いながら、私が何目的で"サンジの"ジャケットに抱きついていたのかを知っている癖に聞いてくるサンジを恨めしく思う。 「まあ何となく、というか分かるけどよ…俺が1番言いてえのは、」 ここまで気持ち悪い事すると思わなかったとか?もしかして私、振られる? "さすがのサンジも引くかもしれなえな" ウソップの言葉が頭の中を駆け巡る。私はなんて馬鹿なのだろうか。 サンジの次の言葉を聞く前に逃げてしまいたい。そう思った瞬間、彼の口からは予想外の言葉が発せられた。 「そんなモンで満足出来んのか?」 「……は、」 「こっちじゃなくて良いのか?」 こっち、とは?と覆っていた顔を上げると両手を広げるサンジの姿。あれ、こんな事前にもあったような。 ネクタイを少し緩め、ワイシャツの袖を捲って長い両手を広げる彼は私の理性を崩壊させるのには十分過ぎる程で。 いや、さっきの失態を見られた時点で理性も何も無いのだけれど。 「…気持ち悪いとか、思わないの?」 「思う訳無えだろ?」 「嘘だ…」 「むしろクソ嬉しすぎてどうにかなっちまいそうだ。」 「〜、嘘だ〜…」 「嘘なんかつかねえよ。で?名無しちゃんはどうしたいのかな?」 尚も悪戯な笑顔で両手を広げながら問いかけるサンジに私はこの人に完全に敵わないんだ、と思いながらその胸に飛び込んだ。 サンジの背中まで腕を回すと意外と硬い胸板に顔を押し付け思い切り彼の香りを吸い込む。好きすぎて、おかしくなりそうだ。 大好きなその匂いを吸い込むとクラ、とすると同時に私の首元に違和感を感じた。 柔らかい感触のそれはサンジの唇で、まるで吸血鬼のように吸い付いてくる唇に困惑する。 「?…!っ、ちょ、サンジ!?何してっ…」 「しばらくの間こうして抱きしめる事も出来なかったんだ。誰かさんが俺との距離を置いてたからな。俺にも名無しちゃんを堪能させてくれ。…ダメか?」 「だ、ダメじゃない、けど…っ、ん…くすぐったい…」 今まで感じたことの無い感触とくすぐったさから声が漏れてしまう。その瞬間サンジは動きを止めてゆっくりと顔を上げた。 「…いや、ダメだなこれ以上は。」 「え、サンジ?どうし…たの。」 「…止まらなくなっちまいそうだ。」 「え………えっ!!!?」 止まらなくなるの意味を理解するのに時間がかかりポカン、とした後やっとその意味が分かった私を見て笑うサンジ。 「サンジの…変態…」 「ほー?変態は本当に俺か?」 「う……!」 核心を突かれた私は何も言うことが出来ずただだ下唇を噛み締めてサンジを睨みつけた。 そんな私の頭にポン、と大きな手を乗せるとサンジは私の耳元で囁いた。 「…そんな顔しても誘ってるようにしか見えねえよ、名無しちゃん。」 その言葉に何か言い返そうとした瞬間、私の唇はサンジの唇によって塞がれた。 頭に乗せられた手は私の背中へと回され強く抱きしめられると私の顔は自然と再び彼の胸板へと押し付けられる。 「…クソ愛してる。」 そう囁くサンジの言葉を聞きながらこの大好きな匂いに包まれた私は今世界で1番幸せな女だろう、と感じざるを得なかった。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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