SHORT | ナノ



Kindness, suffering and happiness



貴方は私に人を好きになるって、どんな事かを教えてくれた。

その顔を見るだけで嬉しくて堪らなくて。
その大きな手を見ると触れたくなって。
その長い腕に抱きしめられると安心して。
その唇に触れるとドキドキが止まらなくて。

その全てが幸せを感じることが出来るのに。



「サンジくーん、蜜柑摘むから手伝ってくれる?」
「は〜いっ!!!よろこんで〜!!!」

「サンジ、コーヒー貰えるかしら。」
「は〜いっ!!今すぐお淹れしま〜す!!」

サンジが女の人に特段優しいというのは前々から分かっていた。ナミやロビン、もちろん私に対しても。
でも、サンジが他の女の人に優しくしているのを見ると心臓を誰かに握り締められているみたい。
この気持ちの正体は、なんですか?




「やきもち、じゃない?」
「やきもち?」
「ええ。名無しはサンジが自分以外の女性に優しくするのを見てると、そうなってしまうんでしょ?」
「うん...」

船内で唯一私とサンジが恋人同士になったのを見抜いたロビンに1人では解決出来ないと思い相談してみた。

そうか、やきもち、か。

「これは、どうしたら治まるの?」
「そうね、サンジに女性に対する態度を変えてもらう...とかかしら?」
「え、一生無理じゃない?それ。」
「ふふ、確実ね。あとは...名無しがサンジの事を好きで無くなれば、治まるかもしれないわね。」
「え...」

私が、サンジを好きじゃ無くなる?
それって...

「名無し貴女、サンジへの気持ちを無くせる?」
「...私は、サンジのことが好きで好きで、」
「でしょうね、見てて分かるわ。それじゃあ、少しサンジと話してみたら?」
「話すって、何を...?」
「名無しの今の気持ちを正直に話すの。」


恋って、楽しくて幸せな事だけじゃないんだ。苦しい事も、あるんだ。

何て話せばいいの?
ナミとロビンに優しくしないでって言うの?
少しだけ1人で考えてみたけれど、答えは出なかった。





「サンジって、優しいよね。」
「...何か欲しいものでもあるのか?」
「え、何でそうなるの!?」
「いや...いきなりそんな事言われちまうと、な?」

夕食後、キッチンで食器を洗うサンジの横に立って洗い終わったそれを拭いている時に私はサンジを褒めた。
遠回しに言った言葉が、言われた本人には私に何か企みでもあるかのような受け止め方をされてしまった。

「サンジは、優しすぎるよ。...女の人に。」
「そりゃあレディには優しくしねえと。」
「......」

黙り込んだ私を見かねて、食器を洗い終えたサンジはお皿を拭く私の手をそっと制止した。

「どうした?何かあったか?」
「......」
「話してくれねえと、分からねえよ?」
「サンジ私ね、何か最近...なんていうか、ここが、締め付けられるような、」
「ええ!?大丈夫か名無しちゃん!?今からチョッパーに診てもらって...!」

ここ、と胸に手を当てる私にサンジは慌て出して心から心配してくれる。こういう所も、好きなんだ。でも...


「違う、違うの。」
「え、」
「サンジ、私ね...サンジがナミやロビンに優しくしてるのを見ると、苦しくなるの。」
「あ...そ、そうだったのか...」
「私は...どうしたらいい?」

俯いていた顔を上げながら問うと、明らかに困ったサンジの表情があった。
その顔が私の心を更に押し潰す。


「サンジの事を、嫌いになるしか無い...?」
「っ、どうしてそうなるんだ...!?」
「だって!サンジは、女の人が好きでしょ!?全ての女の人に優しくするのが、それがサンジでしょ!?何で、私だけ...私だけがこんな好きなの...!?」
「名無しちゃん、」
「そんな顔するなら、私の事好きだなんて言わないでよ...!」

感情を爆発させてしまった私はこれ以上ここに居てはダメだ、とサンジの横を通り抜けてダイニングを後にしようとしたがそれは大きな手によって阻まれた。


「離して...!」
「離さねえよ。」
「私は、無理なのっ...もうやだこんな気持ち、」

優しいのに力強く掴まれた腕をそのまま引かれるといつものように私はサンジの胸の中に収められた。


「じゃあ俺も本当の気持ちを言わせてもらう。」
「何、サンジの、気持ちって、」
「#名前ちゃん#のそれは、君だけじゃねえって事だ。」
「え...?」

サンジの言いたいことが分からない。
私だけじゃないって、どういうこと?
大好きなサンジの匂いに包まれながら、サンジの言葉を待った。


「名無しちゃんに悪気が無えのは百も承知だ。だがルフィ達と楽しそうに遊んだり、食事を取り合ったりしてヤツらに触れてる名無しちゃんを見ると...俺だって苦しくなる。」
「え...」

確かにサンジはナミやロビンに目をハートにしたり優しくしたりする事は当たり前のようにしているが、2人に指一本でも触れているのは見た事が無い。
それに引き換え私は、仲間という間柄とはいえ異性に無意識に触れていたんだ。


「ご、ごめん。ごめんなさい、サンジ...」
「名無しちゃんが謝ることじゃねえよ。ただ、これだけは知っておいて欲しい。俺は、名無しちゃんが心の底から好きだ。どうしようも無えくらいに。」
「私だって、好きだもん...」
「いや、俺の方が好きだ。」
「私の方が、好き...」
「名無しちゃん、もういい...分かったから。」

その言葉を合図にするようにサンジは口元から煙草を抜き去ると私の後頭部を手の平で包み込むとそのまま私の唇をその唇で塞いだ。



キッチンの床にサンジの肩に頭を預けながら2人で座り込みながら、私達は他の仲間が入ってくるかもしれないこの状況でも繋いだ手を離さなかった。

「誰か来るかもしれないね、サンジ。そろそろ、」
「いや、もう少しこのまま...」
「...ま、前にさ、サンジ言ってたじゃん、その、」
「ん?」
「もう少し大人の階段登ってみたくないかって...」
「っ!!!?ど、どうしたんだ急に...っ、」

それがどういう事を意味しているかは分かっている。でも具体的何をするかはまだ知らない。自分でも何故こんな時にあの時のサンジの言葉を思い出してしまったのか分からない。
でも、多分...

「もっと、サンジに触れたくて...」
「っ!!!」
「え、...え!?サンジ、鼻血!!」
「す、すまねえ、だけど名無しちゃん、本当に唐突だな...」
「だ、だって、」

サンジの鼻血を布巾で拭きながら、自分でも段々と恥ずかしくなってきてしまった。
それでも感情は抑えきれなかった。


「大好きなんだもん...」
「っ!!!名無しちゃん、それ、反則だ...」


そう言って更に鼻血を吹き出すサンジが愛おしく感じてしまう私は、かなり重症みたいだ。


そして貴方の傍に居られるだけで、幸せなんだと思い知らされてしまう。





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