SHORT | ナノ



All because of summer



夏島って嫌い。というか夏って嫌い。
暑いし、汗かくし、日焼けするし。
良い事何も無い。


この夏島に着いて2日目。
THEビーチって感じの無人島で仲間達は浜辺で各自好きなことをしながら楽しんでいる。そして悪魔の実の能力者は泳げはしないものの各々が水着を着用。
もちろん強制ではないが、この島の雰囲気からして水着を着るのがマストなのだろう。

しかし私も一応水着を着用しているものの、白Tシャツにショートパンツに隠れたそれはいつも着けている下着と何ら変わらない役目をしている。

男性クルーが上半身を露にするのは何の抵抗も無いだろうが。
相変わらず私を除く女性クルーの2人の誰もが振り向くようなダイナマイトボディに同性の私でさえ見惚れてしまう。
パラソルの下でカクテルを優雅に手にするナミとロビンの姿をチョッパーと砂のお城を作りながら横目で見つめる。

「名無し!トンネル作るぞ!」
「あ、はいはい。トンネルね。トンネル〜。」

チョッパーの声にはっ、として少し小さめながら割と立派なお城が出来たな、と思いつつ彼の指示に従う。
お城を挟んでチョッパーの向かいに座りながらトンネルを貫通させる為せっせと砂を掘っていく。


「んナミさあ〜ん、ロビンちゃあ〜ん!カクテルのおかわりはいかがですか〜!?」

パラソルへと再び目を向けると目をハートにしている我が船のコックの姿。
姿が見えないと思っていたら、あの2人の為に船でカクテルを作っていたのか。
そりゃあんないつもより数段セクシーな美女の為ならこんな暑い中でも喜んで動くだろうな。


「ふー.....暑い...」
「大丈夫か?ちゃんと水分取らないとダメだぞ。」
「大丈夫だよ、ありがとうチョッパー。」

思わず口にしてしまった私の言葉に、さすがは船医であるチョッパーが心配してくれる。もう少しでトンネルが開通する為気合を入れ直してお城の根元に再び手を突っ込む。
何かを掴んだ、と思ったと同時にそれがチョッパーの可愛い蹄だと分かった。

「チョッパー、トンネル開通だねー。」
「やったな!」

飛び跳ねながら喜ぶ可愛いトナカイにこちらも思わず笑みが零れる。

「城の旗持ってくる!昨日ウソップに作ってもらったんだ!」
「分かった。じゃあ私はもう少しトンネルの穴大きくしておくね。」

任せたぞ!と船へ駆けていく後ろ姿を見送ると、ビーチバレーで騒ぐ男性クルーを一瞥してトンネルの形成作業を再開した。
黙々と作業していると額に汗が流れる感触。

パラソルの下の美女2人と汗だくで砂まみれの私はまるで月とスッポン。私はあんなスタイルも良くないし大人な雰囲気なんて皆無だし、とあの2人と自分を比べたって何の意味も無いのに。


「汗...うっとおしいな。」
「名無しちゃん。」

砂でまみれた手をパンパンと叩き落とし、Tシャツの短い袖を引っ張り額の汗を拭うと上から声が聞こえた。

「サンジ...どうしたの?」
「冷たいものでもどうかな、と思ってよ。少し水分取らねえと。」

パラソルの下の2人に対する声とは違うテンションで話しかけてくるサンジに暑さも余ってか少しイライラした。

「もう少しでコレ、完成するから。後で貰う。」

お城を指さしながらぶっきらぼうに返事するとそうか、とサンジは私の右隣に腰を降ろした。

「...何してるの?」
「完成するまで待とうと思ってよ。」
「いいよ、チョッパーが戻ってきたら2人で飲み物貰いに行くから。」

バーベキューの準備忙しいでしょ?とお城に視線を落としながら言うと首筋に汗が伝う。
ああ、私って何でこんな汗っかきなのだろう。
サンジのような男性からしたら、こんな汗だくの女なんて不潔と思われそうだ。そう思うと余計に汗が流れる首筋の汗を手の甲で拭う。

「...セクシーだな。」
「え、」
「っいや、何でもねえ。俺としたことが...」
「どうしたのサンジ?1人で何言ってんの。」

顔を赤くし、それを隠すように額に手を当てるサンジにやっとその言葉を理解した。

「あ、ナミとロビンか。本当セクシーだよねえ、あの2人。私も同感だから別に謝らなくてもいいよ。」

そんな慌てなくても、と思いながらパラソルの方へと目をやるとサンジがボソ、と何か呟いた。

「いや、違うんだ...」
「ん?」
「いや、その、名無しちゃんが、」
「私が、何...?」

モソモソと喋るサンジに違和感を覚えながらTシャツの襟を右手でパタパタと仰ぐとサンジはバッ!と顔を上げた。

「名無しちゃん...!」
「だから私が何、どうしたの?」
「今の君は、セクシーすぎる...!」
「...え、」

私が?どこが?
サンジの言ってる意味が全然分からないものの、その言葉に襟を揺らす手を止めた。

「サンジ...暑さで頭おかしくなってない?私がセクシーなわけ無いじゃん。」

ははは、と笑いながら止めていた手を動かすと横から手が伸びてきて腕を掴まれた。

「名無しちゃん、その、さっきから胸元が...!」
「いやでも、水着着てるし...」
「だが、汗で透けたそのTシャツが...セクシーすぎるんだ!」

左手で私の腕を掴み、尚も右手を額に当てながら言うサンジにどう対応したら良いのか分からず次は冷や汗が溢れてくる。

「と、とりあえず落ち着こう?」
「今すぐ着替えてくれねえか?」
「そんなに透けてる?でも水着だよ?ナミもロビンも着てるアレだよ?」
「名無しちゃん、君は分かってねえ。確かにナミさんもロビンちゃんも最高にセクシーだが、その、見えそうで見えない名無しちゃんの方が俺は...」

本当に何言ってんだこの人?と思いながら取り敢えず腕を離してもらおうと力を入れるが、サンジは更に掴む力を加えてきた。

「サンジ...っ、離して。」
「着替えてくれるか?」
「な、なんでサンジにそんな事言われなきゃ...!」

チョッパー早く戻ってきて、と祈ると同時にサンジの目が私の視線と重なって鼓動が早くなる。

「サンジ...っ、」
「着替えるか...脱ぐか選んでくれ。」
「...!サンジのバカっ!変態!」

サンジの頬に軽くビンタをかますと、その隙に掴まれた腕を振り切り立ち上がると走ってその場を後にした。




ドキドキと鳴る胸を抑えながら船に向かうと向かいからチョッパーが歩いて来るのが見えた。

「チョッパー...」
「ゴメンな!旗どこにしまったか忘れて探してた!」
「大丈夫。チョッパー、私ちょっと着替えてくるから...」
「おう分かった!城は俺に任せろ!」
「ありがとう、よろしくね。」

サンジに言われたのもあるのか余計にTシャツが肌にベタつくのが気になってしまい丁度良い、と思いながら船に着くと汗でびしょ濡れになったTシャツを脱いだ。

「はー、ベタベタだ。」

そのまま乾いた喉を潤す為にダイニングへ向かう。グラスを手に取ると水を注いで喉に流し込む。
ふう、とひと息つくと先程の事を思い出してしまった。変態だとは思っていたが私の事までそんな目で見ていたとは。
だが、サンジに掴まれた腕に残った彼の手の感触がまだ残っているような気がしてまた胸が高鳴った。

そういえばサンジも上半身にTシャツを着ていた。料理してる時に油でも跳ねたら火傷しちゃうだろうしな。それに、普段ビシッとスーツを着ているから何か新鮮だったな。

あれ、私何でこんなにサンジの事を考えしまうんだろう。

「あんな事言われたからだよね...」

そう自分に言い聞かせると、ダイニングの扉が開いた。

「...っ!」
「名無しちゃん...」
「ちょっと待ってサンジ!今新しいTシャツ着るから!こっち見ないで!」

扉が開いたそこに立っていたのは正に今私の頭の中に居た人物。まさか船に戻ってくると思わず油断してしまった自分が情けない。

水着を着ている筈なのにあんな事を言われてしまった相手なだけに恥ずかしくなってしまい、思わず上半身を腕で覆う。
しかし私がダイニングを出るより先に、入り口に立ち尽くしていたサンジは無言でその場から甲板へ出ていってしまった。

もしかして怒らせてしまったのだろうか。
でも、元はと言えばサンジがあんな事言うから...
いつも優しく話しかけてくれる彼を怒らせてしまった事に少し戸惑いを感じていると再び扉が開く音がした。


「名無しちゃん、これ着てくれ。」
「サンジ、」
「その格好で居られたら困る。」

青いTシャツを手にして戻ってきたサンジは私の方へと歩いて来ながら、私にとって腑に落ちない言葉を口にした。
少しムッとしながらサンジの顔を見ると、また額に手を当てながら私の方を見ないようTシャツを私に差し出していた。


「だから何でそんな事サンジに言われなきゃいけないのよ。...それに、それサンジのTシャツでしょ?」
「俺のだったら何か問題あるのか?」
「...また汗かいちゃうし。」
「ウェルカムだ。」

洗って返せば良いか、と思い差し出されたTシャツを受け取り腕を通した。細身なサンジのTシャツはフィット感はあるものの、やはり丈は長く彼の煙草の匂いが少し鼻を掠めた。

「はい、いいよ。」

着た合図を告げると背けていた顔をこちらへと向けたサンジは私の姿を見た途端目を見開き、シンクに両手を着いてうおお...!と1人で悶え出した。

「な、なんなの...」
「まるで彼氏のTシャツを着る彼女じゃねえか.....!これはこれで...」
「なっ!サンジ今日おかしいよ!?」
「何でだろうな...今日の名無しちゃんが刺激的過ぎるからじゃねえかな。」

サンジは顔をゆっくり上げるとズボンのポケットから煙草を取り出しライターで火を付けた。普段は長袖で隠れている二の腕まで見えて、その仕草が何だか色っぽく思えた。

「...色っぽ、」
「ん?」
「ううん!な、何でもない!」

今なんて言おうとした?と自問自答する私を見下ろすサンジと目を合わすと吸いこまれそうになる。私も暑さにやられたのかな。
サンジって、こんなに色っぽかったっけ。


「名無しちゃん。」
「な、に...?」
「後で全身の水着姿見せてくれねえかな...?」

甘い雰囲気はどこへやら。
鼻の下を伸ばして言うサンジに嫌だ、とキッパリ言うとがっかりした彼の横をスタスタと通り過ぎダイニングを出ると扉を思い切り閉めた。

少しサンジに色気を感じたのも、あの雰囲気に流されそうになったのも。

こんなにも顔が熱いのも、きっと全部この夏のせいだ。





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