10万hit記念フリーリクエスト企画 | ナノ



Supporting your dreams I can't be honest



※名前変更にて後輩(男の子)の名前を設定してからお読みください。






"自分の店を持つのが夢なんだ"

初めて昼食を共にした時初めて知った、彼の抱いている夢。心から応援しようと誓った時の事を思い出すと同時に、彼と一緒に仕事をしていくに連れいつの間にか大きく膨れ上がっていた想いに気づくのにはあまりにも遅すぎた。



「え、資金…溜まったの?」
「ああ、とりあえず、な。」
「…っ、おめでとう!すごいじゃん。」
「ありがとうな、これもお名前ちゃんのお陰だ。」
「いやいや、私は何もしてないよ。」

良い上司を持ったお陰で俺はこの仕事に打ち込めて順調にここまで来れたんだ、と笑う彼を目にするとチクリと痛む胸を抑える。


「…て事は、さ。もう辞めるの?会社。」
「いや、引き継ぎとかもあるしな。今月いっぱいは居る予定だ。」
「そう、なんだ。そうだよね。でも…本当に良かったね。」

上手く笑えているだろうか、と胸に宛てていた手を頬へと移す。大丈夫ちゃんと笑えている。そう確信した私はありがとうな、と言う彼の顔を視界に入れると自分の席から立ち上がった。
あんな顔して笑う彼を見たのは初めて夢を語ってくれた時以来だろうか。




───3年前

「ここ、空いてますか?」
「あ、君は…」
「サンジです、お名前さん。」

食堂で食事をとる私はいきなり声を掛けられた事に驚き顔を上げるとそこには、お盆を持った目立つ金色の髪の男性が立っていた。
彼は自社のアルバイトから社員へとなったばかりで先日から私の居る部署へ配属となったサンジ君。

「美女が1人で食事してるのを眺めてるのも悪くねえとも思ったんだが、」
「何言ってんの君、面白いねえ。」

社交辞令が上手だな、と思いつつ向かいに座るよう促すと失礼します、と椅子を引く長い腕に目を惹かれる。

「それにしても凄いよねえ、アルバイトから社員になるなんて。しかもそんな若くして。」
「とんでもない。」
「あのさ、」
「はい?」
「敬語、無理して使わなくて良いよ。」

何故そんなことを言ったのか自分でも分からなかった。ただ、何となく使いづらそうにしてるのを見てられなかったんだと思う。
社会人として不可欠な事を必要無いと口にしてしまった事に向かいのサンジ君も目を丸くしていた。

「あー、えっと私の前ではって事。」
「…ありがてえ事に実はあまり得意じゃねえんだ。じゃあ、お名前さんの前だけでは甘えさせて貰っても良いか?」
「うん。」

やった、と歯を出して笑う顔にまた目が惹き付けられる。こんなにも目を奪われる男性に今まで出逢ったことがあっただろうか。
この時から既に私は彼に心を奪われていたのかもしれない。
言葉通り敬語を無くしたサンジ君との会話は弾み、かなり年下の彼に根掘り葉掘り質問をしてしまった。どうして社員になったのか、何故ウチの会社なのか、そんな私の質問に快く答えてくれたサンジ君の口から最終的には将来の夢も語られた。


「自分の店を持つのが夢なんだ。」
「店?」
「ああ、自営のレストランを開業したくてよ。」
「じゃあ、この会社に就職したのは、」
「まあ開業資金を貯めたくてって感じだな。」

そんな素敵な夢を持っている彼に夢中にならない訳が無かった。それと同時に若くて希望に満ちた表情が眩しかった。
その顔を見た瞬間に誓ったんだ、この子の夢を応援しようと。



でもそれは時が経つに連れて彼の資金集めが終わればこの会社を辞めてしまうのを意味していた事に、自分の気持ちを改めて自覚した時に嫌という程思い知った。

だからと言って気持ちを告げた所でこんな年上の女を恋愛対象として見れくれるとは思え無かったし、何より彼の夢の妨げにだけはなりたくなった。だから、この想いはずっと心の奥底にしまっておこうと決めたのに。

とりあえず貯まったとは言っても直ぐには辞める訳では無く今月一杯は在籍する、と聞いた時に真っ先に感じた安堵感。それでも今月はあと2週間しか無い。

用を足す訳でも無いのにトイレの個室に篭った私は今までの事を走馬灯のように頭に浮かべ、今現在の状況に溜息をついた。
こうなったら当たって砕けても良いから想いを伝えてしまう?返事は要らないからと告白して言い逃げする?
彼の夢の妨げになりたくないから、という意思はどこへ行ってしまったのか。
自己中心的なのも良いところだ、そう思った矢先トイレに入ってくる足音と2人の女の子の声が耳に響いてきた。


「ねえねえ、サンジさん今月いっぱいで退社しちゃうんだって。」
「え、そうなの?」
「うん。何でも自分でレストランを立ちあげるとかで。」
「へー、すごいね。てかあの人結構イケメンだけどチャラいよね。」

彼女達も用を足しに来た訳じゃなく女子トークするついでに化粧でも直しておくか、という感じで入ってきたようだ。恐らくかなり若いであろう2人の会話の内容に私は思わず聞き入ってしまう。
確かに彼の女性に対する態度は軽いが、これまで女性と遊んでいるような気配も彼女が居る気配も無かった。私が知らないだけかもしれないが。


「そういや私、入社して直ぐの時連絡先聞かれたっけ。」
「あ、私もー。」
「やっぱり?でも仕事出来そうだし、もっと現実味のある人だと思ってたわ。自分の店開くとか賭けじゃない?」
「うわ、辛辣。でもイケメンだから結構人来るんじゃない?」

たしかに、と笑う女の子に唇を噛み締め拳を握りしめる。そりゃサンジ君もほいほい連絡先を聞くのはどうかと思うが、それよりも人の夢を勝手にどうこう言う彼女に苛立つ。

それでも落ち着け自分、と静かに深呼吸するとわざとトイレットペーパーをカラカラ取り巻き流しのレバーを引き個室から出た。
自然な流れで洗面所まで行くとおはようございます、と化粧直し真っ最中の2人に言われおはよう、と返しながら顔を見ると隣の部署の女の子という事が分かると少し気まずい雰囲気の中その場を後にした。


「(そりゃ若い子の方が良いよな…見た目が良ければ余計に。)」

トイレで遭遇した2人は隣の部署の私達と顔を合わせれば挨拶をしてくれ仕事上でしか接しないが可愛くて良い子だと思っていたが、やはり人間には裏表がある物なんだな、と思うと同時にサンジ君がそんなに色んな女の子と連絡を取り合ってるなんて知らなかった。

私は直属の上司というのもあるが連絡先なんて必然的に教えなければならない立場で、それでも違う立場だったとしても声を掛けられる事なんて無かっただろう。
その事にまた胸が締め付けられ、苦しくなる。

私は仕事に打ち込む独身三十路目前女。一方彼は夢に向かって輝いている若者。
どうしたって上司と部下、それ以上の関係にはなれる訳が無い、そう思わなきゃいけないのにまだ私は諦めきれていないんだ。
こんなにも彼に恋していたなんて、今まで近すぎて気づかなかった。




「あ、お名前さん。」
「ん?どうしたの後輩君。」
「聞きました?サンジの。」
「あ…うん。聞いたよ。」
「それで、ちょっと早いんですけど送別会の計画立てようかと思いまして。」

デスクへ戻り席に着くや否や部下の男の子である後輩君に小さな声で話しかけられ、何事かと聞き返すとその内容はこれまた私に現実を突きつける物だった。

送別会かあ、とさほど関心の無さそうな声を出すとシー!とジェスチャーされ、同じ空間に彼が居る事を指摘される。ごめんごめん、と笑いながら謝るとそれで相談なんですが、と続ける後輩君。

「プレゼント、何が良いですかね?」
「プレゼント…お花とか?」
「いやお花は勿論用意しますよ!それとは別にですよ。」
「んー、というか…それ私に聞く?」

男の人の、しかもずっと年下の子の欲しがりそうな物なんて全く思い浮かばず。私なんかより若い子なんて沢山居るし、何より彼と同期である貴方の方が分かるんじゃないかと返す。

「だって、お名前さんサンジと仲良いじゃないですか。サンジの奴が"ちゃん"付けで呼ぶ位だし…付き合ってるんじゃ無いかって噂もあるんすよ?」
「は!?」

思わず出してしまった大きな声に周りの視線が私に集中する。その中にはサンジ君のものもあって。顔を隠すように手で覆いながら#部下#君に何それ?と聞き返す。
にやり、としながらその反応は図星っすか?と揶揄う彼を殴ってやろうかと思ってしまった。そんな噂をサンジ君が耳にしたらどう思うか。


「んな訳あるか!」
「まああまり深掘りはしませんよ。じゃあせめてプレゼント買うの付き合ってくれません?」
「…良いけど。」
「じゃあ皆からの集金終わったらまた声かけるんで。」

はーい、と返事しながらサンジ君が好きな物って何だろう、とあんな天邪鬼な事を言っておいて即座に考えてしまう私はやはり彼に溺れている証拠。それでも今は仕事だ、と気を引き締めてデスクへ向かった。




午前の仕事を終え昼食後ラウンジの自販機で紅茶を買って飲みながらぼーっ、と朝の後輩君との会話を思い出す。

"付き合ってるんじゃ無いかって噂もあるんすよ?"

もっと可愛くて若い子との噂だったら本人も喜ぶだろうに。確かに私はサンジ君が入社した時から世話役として仕事を教える機会も多く必然的に一緒に居る事が多かった。だからと言って付き合ってるなんて噂になるなんてちょっと怖いな、と感じる。


「はー…事実なら奇跡だわ…」
「独り言なんて珍しいな。」

ソファに背を預け天を仰ぎ1人だというのを良いことに思わず口にしてしまったその言葉に反応する声にバッ、と姿勢を戻すと今日ずっと私の脳内を支配していた人物が立っていた。聞かれていたのか、と恥ずかしさが込み上げ顔が熱くなるのを感じながらお疲れ様、と誤魔化す。


「ご飯食べた?」
「ああ、お名前ちゃんは?まだ食って無えのか?」
「いや食べたよ。」
「何だ、ランチの誘いかと思って期待しちまった。」

何を言ってるんだこの子は…といつもの軽いノリに彼に対する気持ちがハッキリと分かってしまった所為か、今日は翻弄されそうになってしまう。そういえば、サンジが私の事を"ちゃん"付けで呼ぶよになったのって何時からだったっけ。


「あのよ。」
「っ、ん?何?」
「今朝、後輩と何話してたんだ?」
「え…」

貴方に贈るプレゼントについてです、など正直に言える筈も無く、ましてや私達って付き合ってるって噂になってるんだって、など死んでも言える筈無く。何と返そうか考えながら質問してきた本人に視線をやると今まで見た事の無いくらい真剣で澄んだ瞳のサンジ君から目が離せなくなってしまった。
痺れを切らしたのか、咥えていた煙草を灰皿に押し込み立ち上がるサンジ君に少し驚く。


「サンジく、」
「すまねえ、今の質問やっぱり忘れてくれ。」

そう言って去っていく背中を見つめながら声を掛ける事も出来ず、得体の知れない違和感にその場から暫く動けなかった。




あれから2週間経ち、サンジ君の最後の出勤日となった。今日は皆朝から残業するまい、といつも以上に仕事に勤しんだ。
退社日に送別会を出来るよう一応部長に頼み込んだ甲斐もあって見事に部署全員がノー残業で仕事を終えた。

ラウンジでの一件以来何故だかサンジ君と私の距離感は離れる一方で、あの時何故彼があんな事を聞いたのか分からなくて、この2週間ずっとモヤモヤしっぱなしだった。
それでも#部下#君と無事にプレゼントも買う事が出来、送別会に打って付けのお店も予約して今日を迎えられた。

同部署全員で会社を出るなんて今まであっただろうか、いや無い。ここまで皆を駆り立てるのはサンジ君に魅力があるからこそだろうな、と改めて感じる。会社を出て予約時間まであとどの位あるかな、と鞄の中に手を入れ探ってみるがお目当ての物が見つからず。


「お名前さん行きますよー。」
「あ!ごめん、携帯忘れたからちょっと戻る!私お店分かるから、皆先行ってて!」
「気を付けてくださいねー。」
「はーい、ありがとー!」

立ち止まる私に気付いた部下の女の子が声を掛けてくれ、それに慌てて返事をしながら駆け足で会社へ引き返し自分のデスクへ辿り着く頃には息が上がっていた。そしてお目当ての携帯が目に入った瞬間安堵の息を吐く。

「良かった…」

携帯を手に取り皆の元へ急ごうと足を踏み出した瞬間、部署の扉が開く音に顔を上げるとそこには今日の送別会の主役である彼が立っていた。


「サンジ、くん…」
「あったか?携帯。」
「あ、うん。あ、サンジ君も忘れ物?」
「いや…」

じゃあ、どうしたの?と問いかけても何も言わないサンジ君は先日のラウンジでの時のような瞳でジッと私の目を見つめてくる。
どうして用も無いのに此処へ来たの。
どうしてそんな瞳で私を見つめるの。

もしかしたら神様が私にくれたチャンスなのだろうか、とかそんな馬鹿げた事を考えて居ないと心臓が破裂しそうで倒れてしまいそう。

「サンジくん、あの、ね、私…!」
「お名前ちゃん。」
「な、何?」
「今までありがとうな。本当に。」
「…っ、」

やめて、そんな最後の別れみたいに言わないでよ。思いっ切り振ってくれて良いから、少しだけで良いから、私の気持ちを聞いてよ。

「俺がここまで来れたのは、間違い無くお名前ちゃんのお陰だ。だから、」
「…だから?」
「俺の店がもし上手く行って軌道に乗ったら、恩返しをさせてくれねえか?」
「恩返し…」

恩返し、か。そうだ危なかった。彼にとって私は上司であって恩人なんだ、それで十分じゃないか。十分なのにどうして目の奥が熱くて視界がぼやけていくのか。泣くな、こんな年下の男の子を困らせてどうする。
そう言い聞かせても溢れるモノは止まらず頬を伝う。

「ご、ごめ…」
「…お名前ちゃん、すまねえ。」
「サンジ君のせいじゃないよ…っ、本当、ごめん、気にしないで!…恩返し、楽しみにしてるね!そろそろ行こっか!」

きっと彼は私を傷付けないように遠回しにいってくれたんだ、その好意を無駄にしてはいけない。彼の優しさを感じながらぐっ、と手の甲で頬を拭いサンジ君の横を通り過ぎようとした瞬間掴まれる腕。


「え、」
「泣かせちまって本当にすまねえ。けど、今の俺じゃまだ力不足なんだ。いつか絶対に貴女を一生笑顔にさせてやるって約束するから、もう少し待っててくれるか?それが俺に出来るお名前ちゃんへの恩返しだ。」

どういう意味で言ってるのか考えれば考える程私の期待は膨らんでいき、本当に罪な男だね、とまた泣いてしまった私の涙を長い指で拭うとサンジ君は優しく笑ってまたすまねえ、と謝った。

ずっと応援してるよ。今まで以上にこれからも、貴女の恩返しを貰えるその日まで。





「やっぱりあの2人絶対付き合ってるだろ!」
「後輩君うるさいよー。あの2人が両思いな事なんて皆分かってるんだから、静かに見守ろうよ。」
「しかも遅くね!?厭らしい事でもしてるんじゃねえか!?」
「「「(うるせえ…)」」」



───
かさごりら様へ
大変お待たせ致しました…!!!
リクエスト内容、かなり細かく設定して頂きとても有難いと共にご期待通りに書けるかかなり不安でございます…!!現パロはあまり書かない上に新鮮な設定に感心させて頂きました…!
満足頂ける物になっているかは分かりませんが、このお話をかさごりら様に捧げます!
改めましてこの度はリクエストありがとうございました!!


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