When irritation and irritation collide 「本気で好きなんだ。俺と恋人同士になって欲しい。」 本当に冗談だと思った。彼は世界中の女性に甘い言葉を簡単に言う人だと思っていたから。 はいはい、と遇う私にそれでも彼はの私の肩を掴んで尚も真剣な眼差しで私に冗談で言ってるんじゃねえんだ、と言い放った。 そんな本気で気持ちを伝えてくれたサンジにさすがの私もちゃんと返事をしなくては、と貴方の事は仲間として見て接していたから、そして今はこの麦わらの一味の仲間達との旅を楽しみたいとう理由で断った。それでも彼は納得してない様子で。 「もう少し考えてくれねえかな?」 「…どのくらい、考えればいいの?」 「お名前ちゃんが本当に俺の事を男として見れねえのか、分かるまで。」 あれから2日経ってサンジからの告白の返事を保留中という事になっているが、彼は今まで通り私に接してくる上に相変わらずナミとロビンに対する態度も言うまでも無く。 あの告白なんてまるで無かった事のように。 そもそも私は最初サンジからの告白を断った身であるし、その事に不満など無いのだが何だか腑に落ちない感情が私の心に芽生えていた。 「(いやいやいや、そもそも私はサンジの事、仲間としてしか見てなかったし…)」 こうして何時ものように展望室で筋トレしていても気が付いたら彼の事を考えていて。あー!と心のモヤモヤを吐き出すように叫ぶ私に同じく筋トレしていたゾロがうるせえ、と静かに突っ込む。 そういえばゾロってサンジと仲悪いよな。いや逆に仲良いのかもしれないけど。そんな事を思いながら私はゾロに問いかけた。 「ゾロって何でサンジと仲悪いの?」 「ああ?なんだいきなり。」 「いや、なんとなく。」 「別に仲悪いとかそんなガキ臭えモンじゃねよ。女のケツばっかり追いかけてやがるのが見てらんねえだけだ。」 そうですよね、私もそう思います。 そんな事を心の中で呟きながら休憩がてら窓際に腰掛けて甲板を見下ろすと、船首甲板でナミとロビンに目をハートにしてコーヒーを差し出すグルグル眉の奴の姿。 やばい、またモヤモヤしてきた。 今の隙に水でも飲んでくるか、と立ち上がる。 「ゾロ、水要る?」 「おう悪いな、頼む。」 「分かった。」 展望室を後にして足早にダイニングへ向かいキッチンでコップを2つ手に取り水を注ぐとこれまた足早に此処から出ようと扉を開けた瞬間だった。私の目に黒いジャケットとネクタイ、青いワイシャツが飛び込んできた。 見上げればそこには煙草を咥えて少し驚いた表情で私を見下ろすグルグル眉毛の奴。 「あれ、お名前ちゃん。」 「…あの、通してもらっていいですかね。」 「お、おお、すまねえ。って、あれ?2つ持ってくのか?」 私の手にある水を指差しながら疑問をぶつけてくるサンジにゾロの分、と答えるとその表情は一遍し私から1つの水を取り上げた。 「ちょ、なにすんの、」 「俺が持っていく。お名前ちゃん、デザートあるからここで待っててくれな、絶対だぞ。」 「は!?」 呆気に取られる私を置いて驚くべきスピードで消えたサンジに私は溜息を漏らした。 そして展望室からゾロとサンジの怒鳴り合いの声が聞こえ、更に深い溜息を吐くしか無かった。 「私がゾロにお水持ってくるって言ったの!自分のを持ってくるついでにって!」 「……」 言われた通りダイニングのテーブルで水を飲みながら待っていると明らかに不機嫌そうな顔をしたサンジが戻ってきて、先程の怒鳴り合いの声に凡そサンジがゾロに水ぐらい自分で取りに来い!とか言ったんだろう、と問いただしたら図星だったようで。 キラキラと輝く美味しそうなオレンジゼリーを目の前にして私は何故こんなにも怒らねばならないのか。 向かいに座り煙草をふかしながら不貞腐れた表情のサンジを見てまたまた溜息をついてしまった。 「1つ聞きてえ事があるんだが。」 「話逸らさないでよ…なに?」 「なんでいつもあのマリモ野郎とトレーニングしてるんだ?」 「え?だってあそこしかトレーニングする場所無いじゃん。」 あ、また納得してない顔。 普段は大人びて見えてこういう時になると口を尖らせて結構子供っぽい顔するんだよなあ、と告白を受けてからと言うものこの人の新しい表情とか仕草にいつの間にか気付いている自分が居る。 「そういうサンジは私にあんな告白しておいて相変わらずナミとロビンにメロメロだよね。」 そちらがそう言うならこちらも言わせて貰おうじゃないかと放った言葉にサンジの顔は私の予想を裏切るものに変わり、不審がる私に身を乗り出して口を開いた。 「お名前ちゃん、妬いてんのか?」 「…は?」 「俺がナミさんとロビンちゃんにメロメロだと、嫌なのか?」 嬉しそうな顔で言うサンジにこいつ調子に乗ってんな、と睨みを効かせた視線を送るとそんな顔しても可愛いだけだ、と何だかサンジの掌で踊らされている様で私はいても立っても居られなくなりゼリーを一気に掻き込むと大きな音を立ててダイニングの扉を閉めてその場を後にした。 「お前らの痴話喧嘩に俺を巻き込むな。」 「ゾ、ゾロまで何言ってんの…!?痴話喧嘩なんかじゃないし、仮にそうだとしたらサンジが勝手に怒り出しただけだし、」 「でも現にお前も怒ってんじゃねえか。」 展望室に戻ると眉間に皺を寄せながら言うゾロにあんたまで奴と同じ様な事言って…あんただけは私の味方だと思っていたのに… そんな嘆きオーラを出してゾロを見やると何なんだよ、と呆れた顔をされる。 違う、私とサンジは恋人同士でも無い。 ただサンジが私に告白してきて、それを保留にしていて、それなのにサンジがナミとロビンに相変わらずメロメロで、しかも自分の事棚に上げて私には彼氏みたいな立場で物を言うから苛ついて…え?これ痴話喧嘩じゃないよね? 誰に問いかけるでもなく私の心はモヤモヤで覆い潰されてしまいそうだった。 「え、今日チョッパーお風呂入るの?」 「嫌だけどな…この前体拭いたばっかりだし。」 「ごめんなさい、私今右手がまだ上手く使えなくて。お名前、一緒に入ってあげてくれないかしら。」 「うん、いいけど…」 悶々としながら甲板へ出るとロビンに呼び止められ、沈んだ表情をしたチョッパーの手を引きながら彼をお風呂に入れるよう頼まれた。この様子からしてチョッパーに清潔にしてほしいロビンが半ば強制的に風呂に入るよう仕向けたのだろう。 しかしいつもチョッパーの体を洗ってあげている彼女は先日の戦闘で右手を負傷してしまい未だに痛々しく包帯が巻かれている。 「ほらチョッパー、そんな嫌そうな顔しないでさ、どっちが大きいシャボン玉作れるか勝負しようよ!」 「え!シャボン玉!?」 「うん。」 「わー!負けねえぞ!」 筋トレしていた後というのもあり私も汗をかいていたので夕飯前に入ってしまおうとロビンに行ってらっしゃい、と見送られながら可愛い蹄を握りながら浴室に向かった。 お風呂を出る頃には船中にもうすぐ夕飯という事を知らせるように良い匂いが漂っていた。今日の夜ご飯何だろね、とチョッパーの体を拭きながら話していると何故か浮かぶグルグル眉毛。本当、料理だけは上手くて、彼の武器である足は長くスタイルの良さを助長させていて、女の私も羨むくらい髪はサラサラで、呆れるくらい優しくて。 「おーい、お名前ー。」 「え!?なに?」 「なに?じゃねえよ!お前も髪の毛拭かないと風邪ひくぞ!」 「え、ああ!そうだね、ごめんごめん。」 「あー腹減ったなー。先にダイニング行ってるぞ!」 「あ、うん。」 いつの間にか服を纏ったチョッパーの後ろ姿を見送ると髪を拭きながらさっき私はどうしてあんなにもボーッする位サンジの事を考えてしまっていたのか自分でも分からなくて、今日何度目か分からない溜息をついた。 違う、私はあの人を仲間として尊敬してるだけ。そう言い聞かせないと、何故か駄目だと思った。 私が浴室から出てダイニングに着くと既にテーブルの上には料理が並んでいてクルーも揃っていた。まだ半乾きの髪のまま席に着くとロビンにお礼を言われどういたしまして、と返しながらロビンって何だかチョッパーのお姉さんみたいだなと微笑ましくなった。 「サンジーー!!全員揃ったぞー!食っていいかー!?」 「ああ、食え。」 「「「いただきまーす!」」」 ルフィがサンジに食事開始の了承を得るとそれを皮切りにクルー達の声が重なってガヤガヤと賑やかにいつも通りの食事が始まった。 その時私はまだ気づいていなかった。 いつも通りなのは食事をしている私達だけだということに。 「はー食った食った。」 「ごちそーさーん。」 各々が食事を終えて自分の食器を片付け出しダイニングを後にする光景を見ながら、もうお風呂にも入ったしもう少しゆっくり座っていよう、と思った矢先視界に入ったのはナミから心底嬉しそうに食器を受け取るサンジの姿。 前までの私だったらいつもの光景だな今日も平和だ、だなんて思っていただろうに。 いや今もそう思うべきのに。それなのに何故なのか、こんなにもモヤモヤが止まらないのは。 「これ、下げちまって良いか?」 「え、」 「食器、下げちまうな。」 「あ、ご、ごめん。…ありがとう。」 しまった、もう少ししたらシンクへ持っていこうと思っていたのに。もう誰も居なくなったダイニングにもサンジの気配にも気づかないなんて、今日の私は本当にどうかしている。 "お名前ちゃん、妬いてんのか?" きっとサンジのあの言葉のせいだ。 左手をポケットに入れたまま重ねられた食器を右手だけで軽々持ち、踵を返すサンジの後ろ姿を思わず目で追ってしまう。それが何故だかいつもと違う気がして思わず椅子から立ち上がるとその背中を追うようにキッチンまで足を向かわせる。 「サンジ、」 「…どうした?」 シンクに食器を置く彼の名前を呼ぶと不思議そうに問いかけてくる顔というより目が、どうしてだろうかいつものサンジじゃないみたいで。その問いかけに答えられずにいるとあのよ、と続けるサンジの顔を見上げる。 「チョッパーは男か?女か?」 「、え?」 「だから、お名前ちゃんにはチョッパーは男なのか?それとも女に見えるか?」 「お、男、じゃないの?」 サンジの質問の意味がさっぱり分からず、もしかしてチョッパーは実は女なの?とかどうしていきなりそんな事を聞いてくるのか、とか頭の中が一気に混乱してしまう。 一方、私の答えを聞いたサンジはまるで溜息をつくかのように煙草の煙を吐き出した。 「男、だよな。」 「何なの…何が言いたいの?」 「お名前ちゃんは男だと思ってる奴と風呂に入るんだな、と思ってよ。」 「…は?チョッパーだよ?」 「男には変わり無えだろ。」 男には変わり無い、それはそうだけれどチョッパーはなんと言うか本人に言ったら怒られそうだがぬいぐるみみたいで当の本人だって人間の女には興味が無い訳で。それでも納得いかないような顔で不機嫌オーラを醸し出すサンジに少し呆れる。 「ロビンだっていつもチョッパーとお風呂入ってるんだよ?」 「だから何だ?」 「ロ、ロビンには聞かなくて言い訳?その質問。」 シンクに軽く腰を預けながら再び溜息をつくサンジに少しムッとしながら何なの、と問いかけると視線だけを私の方へ移すサンジの目は何処か澄んでいていつもの優しい彼のものじゃなくなっていた。その目に少し怯んでしまった私は半歩後ろへ後ずさる。 それに追い討ちをかけるようにシンクに掛けていた腰を上げて今度は体ごと私の方へ向け少しずつ近づいてくるサンジに1歩2歩と後ろへ下がると背中に感じたのは食器棚の存在。 恐怖からなのか、原因の分からない胸の鼓動が耳に響く。横にズレようと足を動かした瞬間、顔の横に伸びてきた長い腕によってそれは呆気なく遮られる。 「サンジ、何、どいてよ…」 「……」 何も返事してくれないまま私の目をじっと見つめながらもう片方の腕も伸ばし、逃がすまいと言うような形で私の顔の横に手をつくサンジの顔が少しずつ近づいてくる。思わず顔を背けると間近にあるサンジの吐息が私の耳にかかってそこが熱を持つのを感じる。 そこからだんだん全身に熱が広がっていくような感覚に鼓動の速さは増す一方で。 「サンジ…近いよ、」 「お名前ちゃん、俺の目を見て聞かせてくれ。」 「な、何を、」 「告白の返事を。もう一度。」 「…っ、」 「俺の事は、相変わらず男として見れねえか?」 後ろにある食器棚についていた手を私の頬に移すとサンジは自分の方へ向けさせた。 先程まで咥えていた煙草はいつの間にか無くなっており私とサンジの顔は今にもくっ付いてしまいそうなくらい近くなっていて、お互いの息遣いが確実に分かるこの状況にどうしたら良いのか分からず固唾を飲む。 「お名前ちゃん。」 「サンジ、が好きなのは…私だけじゃないでしょ?」 「…何度言わせるつもりなんだ?」 「だって、」 「じゃあ俺はどうして今こんなにもチョッパーの野郎に嫉妬してるんだ?いつもお名前ちゃんとトレーニングしてるマリモ野郎が、こんなにも憎くて仕方無えんだ?」 サンジの低い声が私の鼓膜を揺らす。 サンジの手が添えられている頬が、死ぬほど熱い。言葉を上手く口に出せない。 それでも何とか声を絞り出し今日1日感じていたことをつらつらと言葉にする。 「私は、サンジの事が、ムカつく。」 「…どうしてだ?」 「私に告白なんてしておいて相変わらずナミとロビンにメロメロ、だし。」 「昼にも聞いた。」 「だから…!」 「だからお名前ちゃんも嫉妬してくれたんだろ。違うか?そんな事言われたら、自惚れちまう。」 「…ムカつく、」 強がりなレディだ、とサンジが囁いたのを合図にしたかのように少し顔を傾け私の顎を持ち上げる彼と私の唇は自然と重なった。 そこで私は今まで感じていたモヤモヤの正体が確実に分かってしまったのだ。 どうしようもなく強い、嫉妬心だったということに。そして私はずっと仲間だと思っていた目の前の彼にこんなにもときめきを感じていることに。 「…私まだ告白の返事してないんですけど。」 「十分すぎる程貰った。あとこれからチョッパーと風呂入るの禁止な。」 「どうでもいいけどそろそろ解放してくれませんか…」 「もう1回キスしてからな。」 ─── 通行人Z様へ お待たせ致しました…!! リクエスト内容、仲間ヒロイン、両片想いの嫉妬ものということでしたが如何だったでしょうか…? 出来れば壁ドン等あればという事でしたが壁ドンならぬ棚ドンになってしまいました、すみません! 満足頂ける物になっているかは分かりませんが、このお話を通行人Z様に捧げます! 改めましてこの度はリクエストありがとうございました!! 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
|