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The brink of being able to become a couple



女の結婚適齢期というとのは人それぞれ考え方は違えどあっという間に過ぎていくもので。ぶっちゃけ私の女としての賞味期限はあと数年だと思っている。


「7年!?」
「うん。」
「な、なんと言うか、長いですね…」

後輩の女の子がこんなに驚くのも無理もない。私が彼女の立場だったら同じ反応をしているだろう。
久しぶりに女子ランチしましょう!と言って会社の裏庭でそういえばお名前さんて彼氏さん居るんですよね?何年付き合ってるんですか?なんて女子の恋バナのノリで聞かれて7年ですと答えればそりゃそうなる。

「えー…ご結婚されないんですか?」
「私が聞きたい…」
「婚約とかは、」
「してないんだわ、これが。」

ほえー、と可愛いらしい声を出す後輩ちゃんの目が怖くて見れない私は自分で作ってきたお弁当を見下ろす。あーやっぱり彼が作ってくれた物には敵わない、と思いつつ箸を進める。

「同い年ですか?」
「年下。」
「いくつ年下なんですか?」
「…4。」

明らかに困った反応の後輩ちゃんに居た堪れなくなる。きっとこんな重い空気になると思ってなかっただろうに、ごめんよ。



彼と出会ったのは大学生の時。
当時バイト先の後輩で、女好きで遊びまくってるという噂を常々聞いていて仕事以外では絶対に関わらないようにしようと思っていた。


「お名前さん、それ貸してください。俺持ちますから。」
「え、あ、大丈夫だよ。このくらい。」
「女性にこんな重い物持たせられねえよ。」

レストランのキッチンを担当していた私はお米を炊こうと米袋を運ぼうと手にかけた瞬間、横から半ば強引に伸びてきた腕によって阻まれ最初は優しい所もあるんだな、と感じるくらいだったのに。それはいつの間にか恋という感情に変わっていて。

それでも他の女の子に対する態度も私に対する物と同じで、やはりしてはいけない恋をしてしまったんだな、と痛感する事は幾度となくあった。
大学でも男の子との交流はあって食事に誘われたり告白されたりも何度かあったが私の頭にはいつでも彼が居て。他の人と付き合う事が出来なかった。

大学4年になって就職も決まりあと少しで卒業というところで4年続けたバイトを辞めることを告げると他にも私と似た形で辞める人達の為にも、と皆で送別会を企画実行してくれた。

アルコールも入ってもう彼にも会うことは無いのだからこの気持ちの良いまま少し悲しい片思いとして思い出にしようと、帰宅してベッドに横になって瞼を閉じて少し経った時携帯の着信音が響いた。驚いて画面を見ると知らない電話番号からだった。
少し躊躇した後恐る恐る出てみると、向こう側から聞こえたのは今さっき思い出として葬ろうとした人物の声だった。


「お名前さん、の携帯で合ってるか?」
「え、サンジくん?どうしたの?」
「すまねえ、どうしても伝えたい事があってよ…電話番号聞いてかけたんだが、」
「う、うん。」
「直接会えねえかな?」



こんな少女漫画みたいな事があるんだと信じられなかった。サンジはずっと私の事を好きでいてくれたらしく、でも近づくなオーラを醸し出していた私になかなか連絡先も聞くことが出来ずに居たが後悔したくないと、会えなくなる前に気持ちを伝えたいとバイト先の先輩から私の電話番号を聞いて告白してくれたのだとか。

あの時のサンジは可愛かったなあ。今は何と言うか髭も生やして大人の男性としての色気が増してくい一方で。
それなのに私は歳を重ねる毎にただでさえ年下のサンジに見合うように努力はしているけれど、こうして若い女の子を間近で見るとやはり若さには勝てないと実感させられる。

最近はサンジの仕事は繁忙期らしく2週間に1回会えるか会えないかぐらい。ぶっちゃけ、何で私なんかと付き合い続けてるのか疑問だ。



「お名前さーん。」
「はっ、ごめん。意識がどっか行ってた。」
「戻ってきて良かったです。そろそろ休憩終わっちゃいますね。はー、今日は定時に帰れるかなあ。」

立ち上がり伸びをする後輩ちゃんを見上げながら残してしまったお弁当の蓋を閉めると、私も立ち上がって彼女の後に続いた。




1時間程の残業を終えた帰路、立ち寄った本屋さんの雑誌コーナーで立ち止まる私の視界に嫌でも入ってくるあの結婚式情報誌。
表紙には私これから結婚式挙げるんです!という表情のウェディングドレス姿のモデルさん。ピンクの婚姻届付き!という文字が余計に羨ましさを感じさせる。


「(これを買う人って結婚が決まったってことだよね…)」

視線をファッション誌へずらし少し立ち読みしている所でポケットの中の携帯のバイブレーションの感覚に急いで店を出て未だに震えるそれを取り出すと、画面に見慣れた名前が表示され通話ボタンを押して耳に押し当てる。


「はい。」
「お、お名前ちゃんお疲れ様。」
「…どうしたの。」
「あー、あのよ、今日会えねえかな?」
「え?今日?」

何故いきなり今日なのか。別に今更お洒落な服に着替えなきゃ!とか気にする仲でも無いのだけれど。暫く黙る私に痺れを切らしたのかやっぱりまた今度にするな、おやすみ、と通話を切られてしまった。
しまった、と思いつつ謝罪メールを送るとそのまま家へと足を向かわせた。




自宅のアパートに着くとベッドに腰掛け意味も無く携帯の画面を凝視する。サンジは何故今日会いたがったのだろうか。理由を考えて考え抜いても全然分からなかった。

もう1週間程会えてない彼氏の顔を思い浮かべる。あの人はいつだって自分の気持ちをなかなか口にしてくれない。
初めて手を繋いだ時も、初めてキスした時も、初めて身体を重ねた時も、いつだって何か言いたげにしてる癖になかなか行動にしてくれなくて。あんな女慣れしてるようなのは見せ掛けで、実は本当はかなり不器用で。


「やば…会いたくなってきた。」

私は疲れているはずの身体で勢い良く立ち上がり鞄を手にすると部屋を飛び出し扉の鍵をかけながら携帯で電話をかけた。


「(出ないかな…)」

出ないかな、なんてもう足が彼の元にに向かっているのは彼が私からの電話に出なかった事なんて無いという無意識の自信から出来る事で。それは彼が私を想い続けてくれたから持ち続けられている自信であって。


「お名前ちゃん?」

その声を聞いた途端にいつだってその自信は愛しさに変わるんだ。

「サンジ、会いたい。」




「ごめんね。」
「どうして謝るんだ?それより家で待っててくれりゃ迎えに行ったのに。」

自宅の近くでタクシーを拾って一駅分離れたサンジの部屋に着いてインターホンを鳴らすと着替えずに待っててくれたのを想像させるワイシャツ姿の彼が少し驚いた表情をしたあとすぐに笑顔に変えて出迎えてくれた。


「お名前ちゃん?」
「えっ!?」
「本当に大丈夫か?何飲む?紅茶で良いか?」
「あ、うん、ありがとう。」

会いたかった衝動に駆られてあんな勢い良く部屋を出て来たのにいざ本人を目の前にしたら口数が少なくなってしまって、そんな私を気遣ってわざわざお湯を沸かして茶葉から紅茶を淹れてくれる彼にどちらが年下なのだろうかと改めて考えさせられる。

ソファに腰掛けてそんなサンジをチラ見する。
あの煙草って何歳から吸ってんだっけ。
まだ成年になってない癖に吸い出した時にめちゃくちゃ叱ったのは良い思い出だな。お名前ちゃん怒った顔も可愛いよな、って叱られてるのに嬉しそうに誤魔化していた彼が今はあんなに手慣れた手つきで新しい煙草に火を付けてる。
あの仕草、何気にめちゃくちゃ好きなんだよな。


「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう、ございます…」
「何で敬語なんだ?」

はは、と笑って私の隣に座るサンジはテレビ見るか?と聞いてくれる。いやいいよ、と返すと私は少し間を置いて問いかけた。


「今日、何で会おうとしてくれたの?」

何かあったんでしょ?と聞いて何か無きゃ会いたいって思っちゃ駄目なのか、とかそんな言葉はとうの昔に貰い済みだ。
サンジの言葉を待ちながら今日は色々と思い出す日だな、と勝手に思った。


「まあ、その、ちょっと話したい事があってよ。」
「え…なに?」
「この部屋、来月更新しなきゃならねえんだ。」
「ああ、そっか…」
「それでよ、この際だから引越しでもしようかと思って。」

引越しって、どこに?と聞きたいのに何故か聞けない。そこから先の会話が怖くなってしまったのだ。
話がある、だなんて会って話す様な事だとしたら今日後輩ちゃんとタイムリーに話してたプロポーズの言葉が出てくるのかと一瞬考えた自分をぶん殴りたい。
引越すってことは運良く一駅分しか離れていないこの距離から更に遠くなるか近くなるか、近くなるとしたらわざわざこんな畏まる必要は無いはず。

そんな顔で話すはずが無いはず。


「あの、お名前ちゃん、」
「…いやだ。」
「え?」
「いやだ、やめて。引っ越さないで。」
「お名前ちゃ、」
「これ以上、遠くに行かないで。」

貴方が今の会社でどんどん昇進してる事、色んな人に頼られている事、どんどん大人の男性になっていってる事。
嬉しい事の筈なのに、私の知ってる貴方が遠くなっていくのが私はこんなにも怖いんだ。
いつか捨てられてしまうんじゃないかって、確実にどこかで毎日考えている自分が居る。

捲られたワイシャツの袖にしがみつくと鼻の奥がつん、と痛くなって視界がぼやけていく。


「お名前ちゃん。」
「嫌だってば。」
「あー、お姉さん、頼むから俺の話最後まで聞いてくれねえかな?」
「いやだ…」

サンジの二の腕に額を押し付けると反対の手で私の頭を撫でてくれる大きな手が私の涙腺をどんどん壊していく。
その手で私以外の女の子に触れないでと何度願った事か。


「お名前ちゃんはいつからそんな強情になっちまったのかな?」
「だって、」
「お名前ちゃんがどうしても嫌だって言うなら俺も考え直すから。」
「…わかった。」

名残惜しくサンジの腕から離れて改めて彼に向き合うと優しく困ったように笑う彼。
咥えていた煙草を灰皿に押し付けるとサンジも私の方へと向き合うように座り直す。


「俺と一緒に住まねえか?」

時が止まったようだ、という表現はこういう時に使うのが正しいのだろうか。
完全に別れを告げられる覚悟で居たのに、というのは嘘でもし振られるとしても死んでも別れてやるかという構えで居たのに。


「お名前ちゃーん。」
「……は、」
「やっぱり嫌か?」
「いや、じゃない、です。」
「そっか…良かった。」
「ちょ、ちょっと良い?」
「ん?」
「何で?」
「何が?」
「ここは、結婚しよう、じゃないの?」
「……あー、」

予想の斜め上を行くまさかの同棲の提案に私はもう逆プロポーズをする勢いで問い詰めた。サンジはそれはだな、と頭に手を当てながらなかなか理由を言わない。出た、この人のこういう所。


「ねえ、サンジ。」
「…ダメなのか?一緒に暮らすの。」
「ダメじゃないよ。どうして今更同棲始める理由を聞いてるの。」
「だってよ、」
「だって、何。」
「言ってたろ?お名前ちゃん。」
「何を?」
「結婚する前に同棲したいって、よ。」

やばい全然覚えてない、と言う私にガックシという感じで項垂れるサンジにごめん、と謝りながらいつそんな事話したっけ、とこの7年間を思い出すが全然ダメだった。
というかそんな話出たことないじゃん。


「…まあ俺が直接言われた訳じゃ無えんだけどよ。」
「はっ!?」
「付き合う前なんだよ、聞いたの。バイトしてた時控え室で話し声が聞こえて、まあ、盗み聞きしたというか…はあ、何でこんな事を今暴露してんだ俺は。」

さすがにはっきりとは思い出せないが控え室でバイト仲間の女の子達と恋バナをしたのは何回かあったがそんな話したっけな。

「お名前ちゃん達、プロポーズされるならどういうシチュエーションが良いかって話しててよ。まずは同棲してからって自分で言ってたの、覚えてねえのか?」
「…ごめん、覚えてない。」

はあ、と頭を更に抱えるサンジに本当にごめん、と謝るといやお名前ちゃんは悪くねえよ、とまた困ったように笑うサンジ。


「随分待たせちまったなってずっと思ってたんだけどよ、お互い仕事忙しくてなかなか切り出せなかった。だからこの機会を逃す手は無えと思ったんだが。」
「サンジ、」
「…本当はちゃんと指輪とか用意しなきゃいけねえんだろうが、お名前ちゃんの気が変わらねえうちに言わせてくれ。」
「え、」

私の頬に手を伸ばしてひと撫ですると、その手で私の手を取るとサンジは口を開いた。


「俺と結婚して欲しい。」

気なんて変わるわけないじゃん、と絞り出すように言うと返事くれねえの?と悪戯に笑うサンジにちゃんと聞こえるようにはっきり答えた。

「はい、喜んで。」

煙草の匂いが染み付いたワイシャツに包まれながら、私はこの幸せを、この人をずっと離さないと誓った。




「サンジ、明日本屋行こう。」
「え?何で本屋なんだ?」
「女子の憧れだから。」
「は?」
「ピンクの婚姻届!!」



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千暁様へ
お待たせ致しました…!
リクエスト内容ですが、現パロ、2人とも社会人。年下のサンジからプロポーズされる話ということでしたが如何だったでしょうか…!?
サンジだったらどんなプロポーズするんだろう、と悶々と考えた結果このような話になりましがご満足頂けたか不安で不安で仕方ないです!泣
ですが現パロプロポーズものというのはいつか書いてみたいと思っていたのでリクエストして頂きとてもとても嬉しいです!!
満足頂ける物になっているかは分かりませんが、このお話を千暁様に捧げます!
改めましてこの度はリクエストありがとうございました!!


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