10万hit記念フリーリクエスト企画 | ナノ



The day I knew I didn't need a reason



最初の印象はこんなに分かりやすい位女の人が好きな事を態度に出せる男の人が居るんだな、という事。


「お名前ちゅわあ〜〜ん!お昼ご飯ですよ〜〜!!」
「あ、はーい。」

船大工を夢見て旅していた私はサウザンド・サニー号に一目惚れしてしまい、見習いとしてフランキー師匠について行きたいという理由からあっさり船長であるルフィさんに仲間にしてもらった。
もともと船工場で働いて居た私は男の人に囲まれて過ごしてきて、そんな中でも船大工になるからには男も女も関係なく厳しい環境で過ごしてきた。


麦わらの一味の仲間になって早3ヶ月。
メインマストの上部を点検をしている私の名前を甲板から呼ぶ声の主はこの船のコックさん。
片方しか顕になっていない目は目尻が下がっており結構イケメンなのに勿体無いな、といつも思う。


「危ないから俺の胸に飛び降りておいで〜!!」
「いや大丈夫です。」

そう返事すると慣れたように甲板に着地すると呼びに来てくれてありがとうございます、と素っ気なくサンジさんの横を通り過ぎる。

「機敏な君も素敵だ〜!」

ぶっちゃけ、そんな彼の態度が苦手だった。




「師匠、メインマストのメンテナンス終わりました。」
「おう!スーパーお疲れだった!!」
「とんでもないです。」

こんな格好していても私にとっては憧れの師匠である。変態などと言ってはいけない。本人は変態ということに誇りを持っているようだが、心の中で思うだけにしておかなければ。


「おいフランキー!お名前ちゃんにあんな高え所に登らせやがって、怪我でもしたらどうすんだ!!」
「ああ?何言ってんだてめえ、高い所が怖くて大工になれるか。」
「だからって、レディだぞ!?傷でも出来たら、」
「サンジさん、大工に男も女も関係無いです。ご配慮は有難いですが…はっきり言って余計なお世話です。」

テーブルの上に料理を並べながら声を上げるサンジさんに真っ当な反論をしてくれる師匠に安堵しながらその会話に口を出さずに居ようとしたのだが、それが出来なかった。

私の言葉にシーンと静まり返るダイニング。
すみません、と口にした私にサンジさんが近づいて来る。
もしかしたら怒られてしまうのだろうか、と別に男性から怒鳴られるのは慣れているから別段構える必要は無いと思ってそのまま席に座る私に予想外の言葉が降り掛かってくる。


「余計なお世話でも構わねえ。俺は君の事が心配なんだ。悪いがこれからもフランキーに言い続けさせてもらう。」

何を言っているのだろうこ人は、と私を見下ろすサンジさんを見上げるといつもの下がっている目尻は何処へやら真剣な眼差しの彼に暫く開いた口が塞がらなかった。





「痛っ、」

師匠にミニメリー2号の補修を頼まれた私はいつものように作業に打ち込んでいたのだが作業箱の中の釘の先で親指を切ってしまった。


「げ、絆創膏切れてる…」

常備している絆創膏が底をついている事に落胆すると同時にこんなミスするのは集中力が切れてる証拠だ、と自分に喝を入れつつ出血している指にティッシュを押し付けてチョッパーさんを探しに出た。




甲板に出てルフィさん達と釣りをするチョッパーさんの姿を見つけると楽しそうな彼に申し訳無く思いつつ声をかけた。

「チョッパーさん。」
「ん?どうしたんだ?あっ、また怪我したのか?」
「はい…いつものちょっとした切り傷ですので。絆創膏切らしてしまったので貰っても良いですか?」
「じゃあ取りに行ってくるよ。」
「あ、いえ、いつもの引き出しですよね?自分で取ってきます。」
「おう、またなにかあったら言えよ!あとちゃんと消毒もするんだぞ!」

はい、と返事をしてその場を後にするとその前に水で洗い流そうとダイニングへ向かった。



キッチンのシンクで洗い流している所をあの人に見つかったらまた師匠が文句を言われてしまうと思い、いつもなら部屋の水道を使うのだが彼は今さっきナミさんとロビンさんの元に居るのを甲板で確認した。

キッチンの方が医療室へも近いので今日はこっちを使わせて貰おうとダイニングの扉をゆっくり開ける。
予想通りあの人の姿は見当たらずホッとしてシンクの蛇口を捻ると、もうすっかり血が止まった指を洗った。


「はあ…」

情けないな、と思いながら赤く染った指が綺麗になっいくのを眺めているとダイニングの扉が開く音に思い切り顔を上げる。


「お名前ちゃんここにいたのか〜!デザート食べな…」
「あ、」
「っ、お名前ちゃん!怪我したのか!?」
「いや、この程度の怪我はいつもの事ですので。」
「いつものことって…!怪我に変わりねえだろ!」

しまった見つかってしまった、真っ先に浮かんだ言葉。このままでは師匠が文句言われてしまう。
というより、こんな少しの怪我でこんな血相変えなくてもいいのに。海賊で賞金首の額もかなり高い貴方達の方が今までどれだけ大怪我してきたか知れないのに。
こんなちっぽけな怪我で、ここまで心配するこの人が本当に分からない。


「いつものように消毒して絆創膏貼ったら治ります。ご心配ありがとうございます。」
「待った。」
「…はい?」

まだ何か言うことあるのか、とサンジさんの横を通り過ぎようとした所で肩を掴まれる。
朝食の時同様、真剣な眼差しの彼にまたも目を射抜かれる。


「いつもこんな怪我してるのか?」
「…そりゃ、大工してたら指先の怪我の1つや2つ、」
「……」

サンジさんは少し黙ったあと私の肩を掴んでいた手を離すと屈んだと思ったら私の身体は宙を浮いていた。そこで彼にいわゆるお姫様抱っこをされている事に気がついた。

「はっ!?ちょ、!」
「後で幾らでも余計なお世話って言ってくれていい。」

だからって何でお姫様抱っこ?と疑問だらけの私が分かっている事は彼が医療室に向かっているという事だけだった。




「よし。」
「ありがとう、ございます。」

とりあえず手当をしてくれたサンジさんにお礼を言う。手慣れた様に消毒液の瓶を救急箱に仕舞う手元に何故か目が釘付けになる。
こんなに綺麗な手をした男の人は初めて見る。


「お名前ちゃん?大丈夫か?」
「っ、あ、はい。大丈夫です。サンジさん、あの。」
「ん?」
「この怪我は私の不注意からしたものです。師匠は関係ありませんので、」
「…分かってる。フランキーには何も言わねえから安心してくれ。」

ちゃんと言えば分かってくれるんだ、とベッドに腰掛けるサンジさんに拍子抜けすると私は疑問を彼にぶつけた。


「何か、すごい慣れてますね、怪我の手当て。」
「ん?あー、まあ、俺も昔よくやったからな。」
「え、」
「包丁で指切っちまったり、火傷も日常茶飯事だったしな。」
「そう、なんですね。」

そうか、この人だって今はあんなに美味しい料理を素早く当たり前のように作っているけれど、それまでには色々な苦難があったに違いない。
どうしてこの人は料理人を目指そうと思ったんだろう。どうして眉毛がグルグルしてるんだろう。どうして、こんなに女性に対して優しいんだろう。

あれ、私どうしてこんなにこの人の事知りたいって思ってるんだろう。


「お名前ちゃん、」
「あ、はい?」
「そんなに見つめられちまうと、その、」
「えっ、あっ、す、すみません。」
「いや嬉しいけどよ。」

何してるんだ私は。彼から目を逸らした所で耳に響く鼓動に違和感を覚えた。なんだろう、この感覚。

「そ、それじゃあ私戻りますので。」
「え、あ、お名前ちゃん、」

感じたことの無い雰囲気に耐えきれず逃げるように医療室を出た私は彼の声に振り向きもせずに扉を閉めた。
心臓が煩くて仕方ない。激しい運動をした訳でも無いのに、鼓動のスピードは何故か暫く落ちてくれなかった。





「師匠、終わりました。」
「おう!スーーーパーーーー!完璧だ!お疲れだった!!」
「ありがとうございます。」

ミニメリー2号の補修完了を師匠に伝える頃には心臓の音はいつも通りに規則正しい物になっていて少し安堵する。


「ああん?大丈夫か?お名前。」
「え!大丈夫ですよ!?」
「珍しいな、お前がそんなにボーっとしてんの。」
「すみません。」
「謝ることじゃねえ。むしろお前はもう少し肩の力を抜け!」
「は、はい。」
「おう!よろしい!」




大した事してないのに何故か体が重くて部屋に戻るとベッドに飛び込んだ。
ぼふ、と布団に顔を埋めると何故かあの人の顔が浮かんだ。


"俺は君の事が心配なんだ。"

そんなのナミさんやロビンさんにも言ってるに決まってる。いや、今まで会ってきた女の人皆に言ってるんだろう。
そんな事を考え出したらまた心臓に違和感。
さっきとは違う、心臓を握り締められているような、そんな感じ。


「何なの一体…」
「あれ?珍しいわね、体調でも悪いの?」

ガチャり、と部屋の扉を開く音と共に聞こえたナミさんの声に飛び起きる。


「す、すみません…」
「何で謝るのよ。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「ミニメリー直してくれてたんですって?ありがとうね、お疲れ様。」
「あ、いえ…とんでもないです。」

ソファに腰掛けて新聞を広げる彼女を見つめる私に気づいたナミさんは、どうしかした?と心配そうに聞いてきた。そんなナミさんに私は何故こんな事を質問したのか、自分でも分からなかった。


「ナミさんは、あの、サンジさんにお姫様抱っことか、された事ありますか?」
「……は?」
「あ、いや、すみません。なんでもないです。」
「あるわよ。」
「あ、そう、なんですね。」

そんなのあるにきまってるじゃないか、私は何を今更そんなこと聞いてるんだ。それで何で、泣きそうになってるんだ。


「…今日のあんたは本当に、どうしちゃったのかしら?」

ソファから立ち上がり此方へ来てベッドに腰掛けると優しく頭を撫でてくれるナミさんの手の温もりに余計に涙が止まらなくなってしまう。


「ナミさん私変なんです、今日、何でかサンジさん、の事ばっかり考えてしまって。心臓が煩くなったと思ったら苦しくなって、ナミさんもサンジさんにお姫様抱っこされた事あるって聞いたら、何で…こんなに涙が出てくるの…」
「はあ…あーもう、アイツっ…」
「ナミ、さん…」
「いい?お名前、きっとこれからもそれは続くわ。サンジくんが私やロビン、他の女性に対する態度を見る度にアンタは苦しくなって泣きたくなる事が幾らでも出てくる。でもそれはアンタの行動次第で変わるかもしれない。」
「ナミさん、私よく分からな、」
「確かに回りくどいわね…もうきっぱり言うわ。お名前アンタ、サンジくんに恋してるのよ。」
「…………は!!??」
「ベタな反応ありがとう。」

いやいやナミさんありがとう、じゃないですよ。恋っていうのは、もっとこう、あんな女好きな人じゃなくて、私だけ見てくれる、

「運命の王子様が迎えに…」
「お名前ー、声にでてるわよー。そして現実を見なさーい。…というかアンタ意外と乙女なのね。」

はっとして口元を抑えたのも束の間、夕飯だぞーというサンジさんの声にまた心臓が飛び跳ねるのはナミさんが言う恋をしてるって証拠なのだろう。

私が恋に理由なんて要らないと知るのはもう少し後のお話。





「この船にも春が来そうね。」
「ああん?何言ってんだニコ・ロビン。」
「貴方のお弟子さんの事。」
「何言ってるかスーパー分からねえ!!」
「フランキーてめえ座ってねえで皿並べるの手伝え!」



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おもち様へ
お待たせ致しました…!
リクエスト内容、女の子扱いに慣れてない子が、サンジに女の子扱いされたり優しくされたりして気付いたらサンジのことを好きになってた…みたいなお話という事でしたが何か不完全燃焼で終わってしまいました…機会があったら続きも書けたら良いなあと思っております!
満足頂ける物になっているかは分かりませんが、このお話をおもち様に捧げます!
改めましてこの度はリクエストありがとうございました!!


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