PRESENT | ナノ



Feelings hidden in lies



嘘は私を強くする。
弱い私を隠してくれるから。



「消毒しみるだろ?大丈夫か?」
「大丈夫だよチョッパー。こんなの全然何ともない。」
「名無しは本当に強いなあ。」

私の頬をアルコール綿で消毒するチョッパーが何処か心配そうに尋ねてくれるが私はへっちゃら、と笑って彼に返事をした。
本当は、焼けるくらい痛いのに。




不寝番をしていた私は暗い海の中、我々の方へと進んでくる一隻の船を目にした。
急いで甲板へ出るとサニー号にピッタリと船をつけて襲ってくる十数人の男達が乗り込んできた。

私は咄嗟に自分の武器である矢を手に取り戦闘に挑んだが、全ての男達を始末し終えたと油断してしまった。背後から最後の1人の男が私に刀を振りかざし、気がついた時には頬が熱く、一瞬何が起こったのか分からなくなった時にその男は天高く飛んで行った。
黒い長い足が見えた瞬間、あの人が来てくれたと分かった。


「名無しちゃん!」

頬を抑える私に駆け寄ってくるサンジの表情は心底焦っていて、私の頬を見るなりポケットからハンカチを取り出し傷口を抑えてくれた。

騒ぎを聞きつけ甲板にやって来た仲間達は倒れている男達を船から放る作業や男達が乗っていた船から宝を奪ったりと、淡々とやってのけた。

とりあえず治療を、とチョッパーを大声で呼びながら尚も私の頬にハンカチ越しに触れているサンジの手の感触に胸の鼓動を抑えることは不可能だった。




「名無し...その、」
「ん?何?」
「この傷なんだけどな...」
「うん?」

消毒し終えたチョッパーは傷に薬を塗りながら何故か切なそうな顔をしている。
しかしそんな彼の表情を見ても私は内心痛くて堪らず早く終わらないかな、と思っていた。
次にチョッパーの口から出された言葉を聞くまでは。

「この深さだと縫った方が良いと思うんだ。それで、少しは薄くはなると思うけど...跡が残っちゃうかもしれない。」
「え...」
「その、名無しは女だからさ。そうゆうの気にすると思って。」

私は思わず目を見開いて固まってしまった。
跡が、残ってしまう...?それも、顔に?

名無し?と心配そうに私に呼びかけるチョッパーにはっ、として私はお得意の表情で言った。

「海賊やってたらしょうが無いよ。むしろありがとうね、チョッパー。それに私はそんなの全然気にしないから。」



治療を終えると暫く安静にしてるんだぞ、と言い残したチョッパーが居なくなった医務室のベッドで私は横になった。
このまま朝まで寝よう、と麻酔が掛かっている頬に違和感を感じながら瞼を閉じた。


"名無しちゃんの肌は本当に綺麗でスベスベだなあ"


浮かぶのはあの人の顔と言われた台詞。
先日、私の顔を見つめながらデレデレと言った彼の言葉が私には心の底から嬉しかった。

肌荒れを隠してくれる魔法のようなファンデーションを使っているから、とその時私は咄嗟に化粧もした事の無い私は思いっ切り嘘をついた。

それでも君が美しい事には変わりない、と甘い表情で囁くサンジにそれからだんだんと惹かれていき、彼に恋をしているんだと気づくのに時間はかからなかった。
勿論この気持ちを伝えようとも思わない。
同じ仲間として傍に居られたらそれで良い。
彼は変わらず私の肌を綺麗だと褒めてくれるから。



「名無し。」
「ん...」
「起きれるか?」
「チョッパー...?」
「朝ご飯出来たぞ。」

ゆっくりと起き上がると、無理しなくて良いんだぞ?と言うチョッパーにまたしても私は麻酔が切れて増した痛みを感じながら全然平気だよ、とベッドから立ち上がりチョッパーとダイニングへ向かった。



「おー!おはよう名無し!傷は大丈夫か!?」
「ルフィおはよう。全然大丈夫。皆、昨日の夜はごめんなさい。」
「ほぼ全員倒しておいて何言ってんのよ!お宝も手に入ったしね〜!でも今度はすぐに仲間を呼びなさい。分かった?」
「分かった、ありがとうナミ。」

頭を下げると優しい表情で私を見つめてくる仲間達に感謝しながらも、次に同じような状況になったとしても寝ている仲間を起こすことは無いだろう、と天邪鬼な私が心の中で言っている。

「じゃあメシ食おう!腹減った!」
「うん。」
「「「「いただきまーす!」」」」

ルフィの言葉を聞き私とチョッパーが席に着くと同時に皆の声がダイニングに響き渡った。




食事を終えた後、私は1人になりたくてアクアリウムバーへと向かった。魚が泳ぐ大きな水槽を眺めながら私の頭の中はこの頬に出来た傷でいっぱいだった。

チョッパーに傷を見たい、と言うと見ない方が良い、と返されたが懇願してチョッパーが渋々渡してくれた鏡で自分の頬を見た私は彼の言う通りにするべきだったと後悔した。

でもこの程度の傷でくよくよしていたら、海賊なんてやってられない。ただ、あの人への想いさえ無ければ何も気にならなかったのに。



「名無しちゃん。」

部屋の入口の方へ振り返ると、私の想い人がお盆を手に立っていた。

「サンジ、」
「ここに居たのか。お茶でもどうかな?」
「うん、貰おうかな...」
「じゃあ此処に座って。」

私をソファへ座るよう促し言われた通り腰を掛けると丁寧な動作でどうぞ、とカップを渡してくれる。
2人きりの状況に鼓動を早くなるのを感じながら、それを気づかれないようにそれを受け取った。


「傷、痛むだろ?」
「え...いや?全然痛くないよ?」
「...結構深く切られた様に見えたが。」
「そうでも無いよ。浅い浅い。」

こちらを見下ろしながら自分の頬を指でトントンと指差しながら問いかけるサンジに私はあまり口角を上げ過ぎないように笑いながら嘘をついた。
痛くて深くて醜い、傷の存在を知られたくなくて。

そんな私を見つめるサンジの視線から逃げるように紅茶を口に含むと、サンジは私の横に腰を降ろした。


「...チョッパーに名無しちゃんの怪我の様子を聞いた。傷が残っちまうかも知れねえって、な。」
「え、」
「すまねえ、俺がもっと早く駆けつけてれば...名無しちゃんの顔に傷が残る事なんて、」
「な、何言ってんのサンジ。チョッパーは少し大袈裟に言ってるんだよ。こんな傷、残らないって。」
「名無しちゃん、」
「だって全然痛くないし、本当浅いんだよ?」


1番知られたくなかった人に知られてしまった事に動揺を隠せなかった。無理矢理笑顔を作って嘘をつくしか私には出来ない。
神妙な顔をして私を見るサンジの瞳が私の嘘を見透かしている様だった。

そんな目で、私を見ないで。


「じゃあ仮に傷跡が残っちまったとして、」
「だから...!残らないって!」
「どうしてそんな強がるん、」
「強がってなんか無い!」
「...名無しちゃん、君は女の子なんだ。」
「女だから何!?顔に傷が残ったら、何だって言うの!?そっか...そりゃ、女好きのサンジは顔に傷一つ無い女の子の方がいいに決まってるよね。」

サンジが何か言おうとする度にそれを遮るように私の中のこの傷よりも醜い感情が吐き出される。
思っても無い事だと自分で分かっていて。


「...何だって?」
「そうでしょ?はっきり言えば良いじゃん。こんな顔に大きな傷がある女なんて...サンジからしたら女じゃないって。」

傷はガーゼに隠れているとはいえ、私の顔を見つめるサンジの視線から今すぐに逃げ出してしまいたかった。


「俺がそんな事思ってると、本気で思ってんのか?」
「......思ってるよ。」
「名無しちゃん、」
「サンジは、そうゆう人でしょ。」

嘘、そんな事これっぽっちも思ってなどいない。

目を見開きながら眉間に皺を寄せるサンジにぐい、と持っていたカップを押し付けた。

その目を見ずに彼がカップを受け取るのを確認し出口へと歩き出した途端、後ろから名無しちゃん、と呼ぶ声に足を止めてしまった。


「...今の君には何を言っても無駄みてえだな。」

何故、このまま足を止めずに歩き続けなかっ
たのか。
ぼやける視界を、溢れる涙を、気づかれないように背を向けたまま私は今までついてきた中で1番の嘘を口にした。


「サンジに私の気待ちなんて、分からないよ...サンジなんて、大嫌い。」


再び動かした足を今度こそ止めずに私はこの空間から1秒でも早く逃げ出すように歩き出した。嘘しか言えないこの口もいっそ縫ってしまいたい。
そんな私の嘘をサンジが見抜いてくれたら、だなんて願いは叶わないと分かってる。

溢れて止まらない涙は正直で、改めて自分の気持ちに気付かされる。

せめて今は心の中でだけでも本当の事を言わせて。

私はこんなにも貴方の事が好きなんだ。




───
きりん様へ
この度はリクエストして頂き誠にありがとうございます!
片思い夢主の切ないお話ということでしたが、切ない話を書くのがどうも苦手でして...ただただ暗い話になってしまいました...泣
本当にすみません...!
ほんの少しでも気に入って頂けた箇所があったら幸いです。
このお話をきりん様へ捧げます!
ありがとうございました!





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