PAST CLAP | ナノ



13th






「ちょっと抱きしめても良いか?」

ダイニングから私と彼以外のクルーが
居なくなった途端彼の口から出た言葉に
私は目を丸くした。

「…え、どうしたの急に。」

彼から、しかもまだこんなに
空が明るいうちからそんな事を
聞かれる日が来るとは思わず
私の脳内は嬉しさよりも
戸惑いで埋め尽くされた。

サンジはこちらから強請らないと
私に触れる事が無いから。

もしかしてやましい事でもあるのか?と
怪訝な顔で彼を見やると
あー、何だ、その、と
心做しか顔を赤くして
明後日の方向へ視線をやりながら
後頭部に手を宛てている。


「…なに、浮気でもしたの?」
「あ!?そんな訳無えだろ!!??」
「変だよ、今日のサンジ。」

彼が浮気などする筈ない事くらい
分かってる(というよりあの美女2人が
相手するとは思えない)し、
どうしたの?と追って問いかけると
顔の赤さを増してこう言った。


「愛してる彼女を抱きしめたいと
思っちまったら、ダメなのか?」

私は再び目を丸くさせ、
真面目なトーンで甘い言葉を言う
サンジに身体が擽ったくなった。

俺は何でこんな事を…と
後頭部に宛てていた手を今度は
顔を隠すように覆って恥ずかしがる
サンジに私はウズウズしてしまった。

発端は彼の方なのに
アクションを起こしたのは私の方で。
堪らず細身なその胸の中に
飛び込んだ。

背中に腕を回しながら彼の香りを
鼻いっぱいに吸い込み顔を上げると
先程の私の様に目を丸くしたサンジが
見下ろしていた。
そして、そんな彼に今度は
私がお強請りをする番。


「サンジ、キスして?」

敵わねえな、と相変わらず赤い顔で
笑いながら降ってくる煙草味の口付けに
こんな甘い日常も悪くないな、と
思わず居られなかった。





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