PAST CLAP | ナノ



11th





いつ何時も気づけば
キッチンに立っている彼は
今ダイニングを訪れた私の目の前で
ソファに体を預け
スヤスヤと眠りにおちていた。

「(こんなまじまじと見れる機会無いな…)」

片方だけ顕になっている目は瞼が閉じられ
片や煙草が咥えられている口は
少しだけ開いており。
いつもとは違う隙の出来たこの人から
目が離せない。

ふと視線を下ろせば
放り出された手が目に入る。
私達のご飯を作る為に戦闘では一切
使うことのない手入れの行き届いたソレは
男性特有の骨格でありながら
どこか繊細で指は長く綺麗で
思わず見とれてしまう。

「(…少しだけ)」

そう心の中で呟いた後に宣言通り
しゃがんで少しだけ触れると
自分の心臓の音が大きさを増していく。
握り締めたい衝動を抑え
触れていた手を離そうとした瞬間
私の手はその大きくて綺麗な手によって
包まれていた。

「…どうかしたか…?」
「……っ、サンジ…」

はっと声のする方へ視線を向ければ
まだ眠たそうな瞳で
此方を見下ろしているサンジ。

「ご、ごめん…!」
「謝らなくて良い、から…」

そう言いながらなかなか手を離してくれない
サンジに私の手は汗ばむ一方で。
そしてその手はぐい、と引かれ私は
彼の隣にボスンと座る形になった。

「もう少しこのまま、握ってて良いか…?」
「え、あ…はい。」

吃驚しすぎて上手く声を出せない私を
他所にサンジは再び眠りについた。
その表情は微笑んでいるように見えるのは
私の錯覚じゃありませんように。

彼が起きてもこの手を繋ぎあえる
関係になれますように。






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