PAST CLAP | ナノ



8th





まずい、迷子になったかもしれない。
いやいやいやゾロじゃあるまいし。
でもウチの船どこに停めてあるんだっけ?
これって迷子?
いやそんな訳ないない。

自分の中で自問自答を繰り返しながら
私は停泊中の島の街中で
買い物を済ませると
船へと向かって歩いていた、のだが。


「この道さっき通ったよね...?」

まずい、迷子になっただなんて
仲間に知られたらゾロと
方向音痴コンビにされてしまう。

「誰か...」

どんどん暗くなっていく空に
不安が溢れてくる。
きっと他の仲間は既に
各々の買い物を済ませて
船に戻っているだろう。

そしてこんな時真っ先に浮かぶのは
あの人の顔で。


「サンジ...」

私の、想い人。
船に戻ったらきっとあの人は
夕食を作って待っている。

早く戻らなきゃ。
そう思いながら右足を
踏み出そうとした瞬間だった。


「呼んだか...!?」

振り返るとそこには、

「サン、ジ...?」

息を少し上げて焦った表情の
今まさに私が思っていた人物が、
目の前に立っていた。

「良かった...
船に帰ってこねえから心配しちまってよ。
他のヤツらは待ってれば戻ってくるって
言ってやがったんだが...」
「何で...?サンジが、」

どうして、貴方には
仲間のご飯を作るという
大事な役目があるのに。

「大事なお姫様が帰ってこないなら、
迎えに行かねえと、だろ?」

一瞬、その台詞に
時がとまったかのように感じた。
そして私は改めて
自分の気持ちを実感させられる。

貴方は本当にズルい人。

「帰ろうか、プリンセス。」


私と貴方の距離は、10cm。
私が彼にこの想いを伝えるまで、あと5秒。





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