LONG "To the freedom." | ナノ



31




私は今本当に逆上せてしまい、その所為で幻覚を見ているのだろうかと硬直してしまった。
シャワーを浴び終え早く出ようと滑らないように早足で歩き出口の扉をスライドさせた先に私の目に映ったもの、というより人物。


「えっ!?名無しちゃ…っ!!?」

その人物もまた驚きを隠せない様子で、私も今何をすべきか考える余裕がこれっぽっちも動けないで居た。


「サ、サ、サンジさ、ん…あ、あの…!!すみませんっ!!!」

電気はついてないものの月明かりは私達を照らしていて顔を出した程度だったが彼の視線と私の視線は確かに交差した。はっ、として真っ白だった頭の中がパニックになってどうしようどうしようどうしよう、とこんな状況をどう脱すれば良いのか分からずやっと発した言葉の後開けた扉をバンッと勢い良く閉めてしまった。


「名無しちゃん…?あ、あのよ、俺出るから、とりあえず着替えねえか?そのままだとその、風邪引いちまうから…」

扉越しの声は明らかに動揺しているものの、いつものサンジさんの優しさが篭った言葉に何か返事をしないと、と考える間も無く脱衣所の扉が開いて閉まる音が耳に入った。
再びゆっくりと扉をスライドさせるとそこには彼の姿は無くドクドクと暴れている心臓に手を当てながらバスタオルを手に取ると急いで身体を拭き上げ寝巻きに着替えると脱衣所の出口の扉をそっと開けた。




「サンジさん…」
「…っ、名無しちゃん、その、本っ当にすまねえ!!言い訳に聞こえるかもしれねえが、その、覗こうと思ったとかそういう、」
「分かってます!!」
「え、」
「分かって、ます。サンジさんが、そんな事するなんて思っていません。それに立場的に覗いてたのはむしろ…私の方でしたし、いや私が言いたいのはそうでは無くてっ!」

脱衣所の扉のすぐ側に立っていたサンジさんの名を呼ぶと頭を思い切り下げられ謝る彼の姿を見て、いやそんな姿を見なかったとしてもサンジさんはそのような人では無いと分かっていた。電気が消えていたら誰も入ってないと勘違いするのは当然のことであって、私に向かって謝罪するサンジさんを見て居た堪れなくなってしまう。

そして何より、先程からサンジさんの肌蹴ているワイシャツの胸元に目が行ってしまう自分が卑しい。


「あ、あの、お風呂の電気切れてるみたいでして…その、」
「ああ、そうだったのか。明日フランキーに伝えとくからよ…本当ごめんな。」
「い、いえ私は…あの、じゃ、じゃあ、おやすみなさいっ!!!」
「名無しちゃ、」

普通に会話する事は不可能だ、とそしてこれ以上サンジさんの傍に居たら自分がどうにかなってしまいそうで逃げるようにその場から駆け出した。







──ガチャ!バタン!

「っ!?びっくりした、どうしたのよ名無し?」
「あ、す、すみません…!本当に申し訳ありません!」
「いやそんな謝らなくて良いわよ…大丈夫?」

女性部屋のドアを勢いよく開け勢いよく閉め入ってきた私にナミさんは驚いた表情で問いかけてきた。私はただただ謝る事しか出来ず、というより頭の中で先程の出来事がぐるぐると駆け巡り他に言葉を出すことが出来なかった。
心臓がドキドキなんてものではなく、バクバクという方が表現として近い気がする。


「何かあったんでしょ?言いなさい。」
「え!?な、な、何がですか!?」
「アンタ本当に分かりやすいわね。」
「な、何も無いですよ!?ただ、お風呂の電気が切れてしまって、あ、フランキーさんに伝えないと、あ、いや、でもそれはサンジさんが、…あっ…!!」

私はなんて馬鹿なのだろう、ニヤリと聞こえてきそうなナミさんの顔を見ながら心の底からそう思った。


「サンジくんが?どうしたのかしら?」
「い、いや違うんです…サンジさんは関係無いんです…」
「じゃあ仮にサンジくんが関係無いとして、何があったのよ。」
「お風呂の電気が切れてしまって…明日フランキーさんにお伝えしなきゃと…」
「そう、でもそれはサンジくんが伝えてくれると?」
「あ、はい、そうなん…っ、ああもう…!!」

またも墓穴を掘ってしまった自分に嘆くとナミさんは更に私に詰め寄った。
しかし私は一旦冷静になろう、と深呼吸をしてナミさんに向き合った。


「あのですね、私は確かに先程サンジさんにお会いしました。その際に浴室の電球が切れてしまった旨をお伝えしたんですよ。」
「ふーん。」
「そうしましたらサンジさんがフランキーさんにお伝えしておくと言ってくださいまして…それだけなんです!」
「それでサンジと裸でばったりと遭遇してしまったのね。」
「はいそうなんで…って!ち、違いますって!!」

落ち着いて説明出来たと思ったのも束の間、私とナミさんのやり取りを聞いていた何故か1番隠したかった出来事を知っているロビンさんが口を開くとそれに思わず肯定の返答をしてしまった。


「いやっ、あの、私はちょっとお風呂を頂いていたので確かに裸でしたがサンジさんはまだ服を脱いでいた途中でして、だから、その、」
「落ち着きなさい。」
「ああ、そういう事だったの。ごめんなさい、ブルックに伝言を頼んだのだけれど…ちゃんと伝わって無かったのね。」
「あ…そういえばブルックさんいらっしゃいました。」
「じゃあブルックのせいね。仕方ないわ。」

本当にブルックさんのせいだろうか、ナミさんの言葉を聞きながら私はあの時の状況を思い出しながら考え込んだ。
ブルックさんはあの時どうして…


「あ!」
「何、どうしたのよ。」
「…ブルックさんのせいだけでは、無いです。」
「どういう意味?」
「ブルックさんがいらした時、私があんな事を口にしてしまったから、」
「あんな事って?」
「サンジさんに……"格好良い"と言ってしまって、それを聞いたブルックさんが色々と勘違いされて、」

恐る恐る今度は正直にあったことを言うと此方へ視線を送ってくるお2人はお互いに目を合わせてまたも悪戯な笑みを浮かべた。
ああ、これはまたも私はやらかしてしまったのだと思い知る。


「あー、そういえば前にもそんな事言ってたわねえ。」
「ふふ、そうね。」
「あ、あの、だから、私のせいでもあってですね、」
「はいはい、分かったわよ。さ、寝ましょ。」
「え!?そんなあっさり…」
「アンタの惚気話聞いてる暇無いのよ私達は。」
「の!?そんなんじゃ…!お2人とも!違うんですって…!」

本当に寝たのか分からない2人に私は熱くなった顔を抑えながらこんなにも疲れているのに寝れそうに無い事と明日彼とどんな顔で会えば良いのか分からないままベットに腰掛けた。





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