29 「魔女って言ったらよー、やっぱり何か薬とか作るイメージだよなあ!」 「え!どんな薬だ!?」 「そりゃチョッパーお前、すげえ薬にきまってるだろー!」 「何でも治せる薬かな!?」 私が箒で飛べた日の夕食時クルーの皆さんの興奮は冷めやらず話題は魔女にまつわる内容になった。その中でも隣に座っていたウソップさんとチョッパーさんの話が耳に入ってくると、私は食事していた手を止めた。 薬か…何でも治せる薬なんて作れたら皆さんの役に立てること間違い無しだなあ、なんて思っていたのも束の間。チョッパーさんの問いに返すウソップさんの口からは予想外の答えが返された。 「それもすげえけどよ!魔女といえば…例えば"惚れ薬"とかじゃねえか?」 「惚れ薬?何だ?惚れ薬って。」 「お前には理解出来ないか〜。まあ飲ませた相手に自分に好意を向けさせる薬だ!」 「そんな薬、何の役にも立たないじゃないか!」 何の役にも立たない…チョッパーさんの言葉が私に向けられてるのでは無いと分かっていても心にグサッと突き刺さる。 「くだらないわねえ、まったく。」 「何だとー!?」 私と同じく2人の会話を聞いていたのであろうナミさんが呆れた顔で言うと、ウソップさんが声を上げる。しかしその直後、彼の顔は自信に満ちた顔に変わっていった。 「ナミよ…本当にくだらないと思うかね?」 「何よその言い方、ムカつくわね。思うから言ってるんじゃない。」 「もし名無しが惚れ薬を作れたとしてだ。それを世に出したとしたら…欲しがる人間がどれだけ居ると思うかね?」 「そんなの…」 「そしてその薬にお前の大好きな金を幾ら出すと思うかね?」 ──ゴンっ!! 大きな音と共にテーブルに頭がめり込んでいるウソップさんに何が起きたのか分からず呆然としてしまった。 「ウソップーー!!」 「おい長鼻クソ野郎、てめえさっきから勝手なことベラベラベラベラと。黙らねえと殺すぞ。」 「もう多分半分死んだぞコレーー!!」 頭に大きなタンコブが出来て動かなくなってしまったウソップさんの名前を真っ青な顔で叫ぶチョッパーさん、そして明らかに怒っている様子のサンジさん。 「確かに、私みたいに可愛かったらそんな薬必要無いけど…売ったら一体幾らになるのかしら…」 「ナミさん!!?」 「嘘よ嘘。純粋な名無しにそんな物作らせる訳ないでしょ?」 「いやお前一瞬マジで考えたろ。目がベリーになってたぞ。」 「うるさいフランキー。」 皆さんの言葉が行き交う中、私はこの間本で読んだ薬の調合の部分を思い出してみた。 お金になるなら…と思っていたのも束の間、ブルックさんが私をじーっと見つめている事に気が付き焦って問いかけた。 「ブルックさん…どうかしましたか?」 「名無しさん!!」 「は、はいっ!!」 大きな声で名前を呼ばれ驚くと私もそれにつられて大きな声で返事をしてしまい、他の皆さんの話し声はピタリと止み私とブルックさんへ視線が注がれていた。 「もし、その薬が出来たら…私にくれませんか?」 「…え?」 表情は変わらずとも真剣な声で言うブルックさんにポカン、としてしまう私。 そして次の瞬間先程のウソップさん同様にゴン!という音と共にブルックさんの頭はテーブルにめり込んでいた。 夕後ら食器を洗うのを手伝うのが日課になっていた私は今日もサンジさんの隣に立ち、彼が洗い終えた食器を布巾で拭いていた。 「ったく、アイツら本当に仕方ねえ野郎共だな。名無しちゃんに惚れ薬を作らせようなんてよ。」 「でも…好きな人と両想いになりたいのは誰でも思う事なのでは無いでしょうか。」 「えっ!?」 「え?あっ、私変な事言いましたか?」 呆れた顔をしていたサンジさんの表情が明らかに驚いたような、険しいようなものになり私はもしかして気に触った事でも言ってしまったのかと問いかけた。 「あ、いやっ…!名無しちゃんも、その、好きな野郎でも居るのかなーなんて思ってよ…」 「好きな人、ですか?」 好きな人…そんなの考えた事無かったかもしれない。 屋敷に居た頃お坊ちゃまが良くラブレターを貰って帰って来ていてそれに対して全くと言っていいほど反応を示さない彼に奥様が恋愛に興味無いのかしら、なんてことを口にしていたのを思い出した。 男性と言えばストンさんと後は屋敷に使えるシェフや護衛の方達が居たが、小説等で目にする恋心が芽生えるという感情がよく分からなった故に今まで恋人どころか好きな人なんて出来たことが無かった。 だけどこの人と出会ってから私は少しだけ感じたことがある。 「そもそも恋をした事が無くて…すみません。サンジさんは、居らっしゃらないんですか?好きな方。」 「俺!?お、俺は、えーと、その、」 「私は、サンジさんはとても格好良い男性だと思っています。」 「え!!??そ、そ、それって、名無しちゃ…!」 「はい。だから綺麗な女性と恋愛されたらとても素敵だなあって思うんです。」 「…………へ?」 「あっ!すみません、私の勝手な想像で、その、つまり、」 サンジさんのことはいつも優しくて紳士的で格好良いと思っていた。だからナミさんやロビンさんのような美人な方と恋愛してきたのでは、と咄嗟に想像してしまった。 それを聞いたサンジさんは目を丸く見開きポカンとした表情。 だが勝手に想像したのは私自信なのに頭に思い浮かべてみると胸が締め付けられる感覚に陥る。でもこの感覚を感じたのは今が初めてでは無かった。 「つまり!サンジさんは格好良いんです!」 そう口にした私の大きな声の後にダイニングの扉が開く音が聞こえると同時にそこには口を大きく開けたブルックさんが立っていた。 「た…大変です皆さーん!!サンジさんが名無しさんに惚れ薬をーー!!!」 「ああっ!!??てめえ何言って…!!おい待てクソ骸骨っ!!!」 甲板へと出ていきながら叫ぶブルックさんに洗い物をしていた手を止めて焦った様子で彼の後を追いかけて行くのをただ見送るしか出来ないで居た。 そして自分の顔が、身体がすごく熱い事に戸惑うしかなかった。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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