28 「名無し!あんたって子は...!心配するじゃない!でも、本当に凄かった!」 怒ったような表情で、でも優しく私を抱きしめてくれるナミさん。 「すげー!!名無し!すげーよ!俺も乗せてくれ!」 目をキラキラ輝かせて私のスカートの裾を引っ張るチョッパーさん。 「本当にただの箒なんだよな...?名無し、お前は正真正銘の魔女だ...!」 最初は少し疑い深く箒を観察した後私の肩にポン、と手を乗せてくれたウソップさん。 「うふふ、いつも勉強していたものね名無し。」 私に本を貸してくれてからいつも図書室でアドバイスをくれたロビンさん。 「スーパークールじゃねえか!嬢ちゃん!」 満面の笑顔で少し可笑しなポーズをして興奮している様子のフランキーさん。 「ヨホホホホ!素晴らしいです!名無しさん!もう少しでパンツが...ブッ!」 パチパチと拍手をしてくれた後、いつもの台詞をナミさんの拳によって遮られたブルックさん。 甲板の上に居た皆さんがサンジさんの腕から解放された私の元へ駆け寄り飛べたことを賞賛してくれる。それが嬉しくて嬉しくて堪らなくなる。 「なんだ一体…?騒がしいなさっきから。」 甲板のどこかで寝ていたのか、眠そうな顔のゾロさんが不機嫌そうにこちらへ歩いてきた。 「ゾロ!名無しが箒で空を飛んだんだぞ!それでな、飛ばされたルフィの帽子を取ってくれたんだ!」 未だに興奮しているチョッパーさんが騒ぎの理由を告げるとゾロさんの目線が私へと向けられた。そしてニヤリ、と口角を上げるとへえ、と言いながら更に歩を進め私の傍へと寄ってくる。 「役立ったじゃねえか、お前の能力。」 「え、あ……!」 "皆さんのように強くないですし、海の上で役立つ知識も何も持ち合わせていません。だからせめてこうして自分に出来る事を少しでもしていないと、私自身が不安になってしまうんです。" あの時、既に寝ていたと思っていたのに。 ソロさんは私の話をちゃんと聞いていてくれたんだ、と思い知らされた。 「おいクソマリモ!てめえ、偉そうに言いやがって、」 「ゾロさん、ありがとうございます…!」 「っ、名無しちゃん…?」 「サンジさんも…本当に助かりました。ありがとうございます。」 サンジさんから見たらゾロさんの言葉は確かに少し偉そうに思えるのかもしれないが、今の私にとっては嬉しい言葉に違いなかった。 ゾロさんにお礼する私の事を理解出来ない、とでもいう表情で見下ろすサンジさんにも何度目か分からないお礼の言葉を告げた。 「なあなあ名無し!もう一度飛んでみてくれよー!」 「俺も!俺も乗りたい!」 「あっ、あの、ごめんなさい。さっきのは偶然というか…まだまだ自分で自由自在に飛べる訳じゃないんです。」 私とサンジさんの間からひょっこりと出てきたルフィさんとチョッパーさんの興奮は未だに冷めず私にもう一度箒で飛んで欲しいと強請ってきた。だが今の私にはそんな事出来るはずもなく。 「こーら!あんた達が名無しにプレッシャーかけてどうすんのよ!」 「そうか、そうだよなー…ごめんな名無し。」 「い、いえ、謝らないでくださいルフィさん!私もっともっと頑張って練習しますから!」 「…!にしし、そうか!」 「はい!」 今度はルフィさん、チョッパーさんと私の間にナミさんが入ると2人を止めに入ると、少ししょんぼりして私に謝るルフィさんに意気込むと満面の笑みを返してくれた。 「名無しちゃん。」 「…?あっ、サンジさん。どうかなさいましたか?」 箒とちりとりを片付けに再び倉庫の扉を開けようとした私の背後から声をかけられた。 振り返ると両手をポケットに入れて立つサンジさんの姿。いつも通りスタイルが良くその立ち姿に見惚れてしまうが、表情がいつもより険しかった。 「1つ聞きてえ事があってよ。」 「はい、なんでしょう?」 「あのクソ剣士が言っていた事なんだが。」 「ゾロさんが言っていた…?」 「名無しちゃんが力を発揮出来ずに悩んでいた事は知ってたが…どうして名無しちゃんがアイツにお礼なんか言ったんだ?そんな事言う必要…」 正直、サンジさんの言いたい事がよく理解出来なかった。 私は以前ゾロさんに話した悩みを聞いて頂いて(寝てると思っていたけれど)、それに対しての言葉をくれただけであって。そしてそれにお礼を言っただけであって。 「あの、」 「名無しちゃん、あの野郎と…」 「サンジ、さん…?」 「っ、すまねえ、やっぱり何でも無え…!それにしてもいやー、本当に凄かったなー!気づいたら名無しちゃんが箒で空を飛んでるんだもんなー!」 私の言葉を遮るように何かを言いかけたサンジさんはポケットに入れていた両手の掌を広げながら慌てたように振ると話題を思い切り変えた。 「私自身も驚いてます。未だに体がふわふわしている感じで…」 「飛べた理由は分からねえのか?」 「あ、それなんですが…どうやら"誰かのため"になら力を出せるみたいで…」 「誰かのため…?」 新しい煙草を胸ポケットから取り出すと、いつものようにライターで火を着けながら問いかけてくるサンジさん。思わずその綺麗な手に目がいってしまうのを堪えて視線を下に落としながらその問いに答える。 「はい。あの帽子が飛ばされる前にルフィさんの宝物だとナミさんに聞いたので…だから私、自然と体が動いてました。」 「……」 「絶対に無くしちゃダメだ、と思ったんです。」 「…、ルフィか…」 「え?」 「あ、いや、色々聞いちまってすまねえ。疲れたろ?紅茶でも淹れてくるな。」 「あ、ありがとうございます…」 サンジさんの表情がコロコロ変わるのが少し珍しくて、それでいて少し心配になった。 遠ざかる背中を見つめながら気がついたら私の箒を握る手の力は何故か強くなっていた。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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