LONG "To the freedom." | ナノ



26



男性クルーの方々の洗濯物を洗い終え、船後方甲板に張ったロープに干していく。
晴れた青空が気持ちいい。

はためく洗濯物と青空を見上げながらボーッとしていると名無し、と名前を呼ばれた。
ハッとして声のする方へ視線を送るとロビンさんが立っていた。


「すみません、ボーッとしてました...!どうかしましたか?」
「ふふ、そんな事謝らなくて良いのに。ちょっと貴女に見せたい本があって。今良いかしら?」
「はい、大丈夫です。」

笑われてしまった事に少し恥ずかしく思いつつ返事をするとじゃあ、と歩き出すロビンさんの後ろを私もついて歩き出した。



ついて行った先である図書室に入るとロビンさんは本棚から1冊の本を手に取り、ソファに座ると私に隣に座るよう促した。
早歩きでソファに向かい腰をかけるとロビンさんはこれよ、と私に本を渡してきた。


「これは...?」
「魔術についての本。」
「魔術、ですか。」
「ええ、その中に魔女についての事も載ってるの。少しでも参考になればと思って。」

手渡されたその本の表紙は不気味で、でも少し見入ってしまうデザインだった。
表紙をめくると、やはり不気味な挿絵や暗号の様なものが載っていた。
魔女については此処からよ、とページをめくってくださるロビンさんにありがとうございます、とお礼を言うとそのページに目を通した。


「読めない部分が結構あると思うけど、翻訳されてる所だけでも...」
「読めます。」
「え、?」
「ロビンさん、私、この文読めます。」

翻訳されていない部分の文章を読めることを告げるとロビンさんは少し目を見開いていた。しかし、その表情はすぐにいつもの動じないロビンさんのものに変わった。


「やっぱり、名無しには本能的なものが秘められているのかしら。」
「いえ、実はこの言語について勉強させられたんです。」
「勉強?誰に?」
「祖母にです。」

6年間私の教育係として厳しく接していた、実は私のおばあちゃんだったというあのメイドに絶対に覚えなさいと勉強させられたこの言語。まさか魔女としての教育をさせられていたなんて。


「きっと将来貴女の役に立つ時が来るから、とどの教科よりも熱心に教えられました。」
「......」
「祖母も私に魔女になって欲しかったんですね。」

ご主人様に指示されていたのか、それとも本人の意思で私に教えていたのかは分からない。でも、そのことでこの船の皆さんの力になれる1歩を踏み出せそうな事には違いない。


「ロビンさん、本当にありがとうございます。私、魔女の勉強頑張れそうです。」
「それは良かった。...でも、1つだけ言わせて。」
「何でしょう?」
「私達の為に頑張ろうとしないで。貴女自信の為に頑張って。」

にこやかに言うロビンさんにはい、と返事をすると頭をポン、と撫でられそのままロビンさんは立ち上がり出口へ向かった。


「この部屋いつでも出入りして構わないから。気になる本があったら読んで。」
「ありがとうございます!」

ロビンさんが部屋を後にすると私以外誰も居ない部屋はシーンと静まり返り、私は再び本に目を通し始めた。





「あれ、今何時だろう...」

本に熱中しすぎてしまい、気がつけば窓から見える太陽はもうすぐ海にくっついてしまいそうだ。ロビンさんからお借りした本をあった場所に戻すと、私は慌てて部屋を飛び出した。




甲板に出ると視界に入る夕焼けが眩しくて思わず目を細めながら、昼過ぎに干した洗濯物を置きっぱなしにしたカゴに入れていく。特にサンジさんのワイシャツはなるべくシワが出来ないようにしなければ、と軽く畳んでから。

女部屋に入りソファに座ると膝の上で洗濯物を畳んでいく。淡々と畳んでいくと次に手に取った洋服からほんのりと煙草の匂いがした。


「やっぱり完璧に匂い取れなかったか...」


洗濯機が無いこの船では洗濯板で出来るだけ綺麗にしたつもりだったが、煙草を吸うサンジさんのワイシャツに染み付いたそれは落としきれなかった様だ。

何故こんなことをしてしまったのか、誘われるかのように私はワイシャツを顔を近づけ匂いを吸い込んだ。それと同時に浮か彼の顔。

吸い込まれるように鼻元へワイシャツを持っていき、もう一度その匂いを吸い込んだ。

何してるんだろう、私。


そう思った瞬間部屋の扉が開かれると同時にナミさんの名無しー、ご飯よー!という言葉が聞こえてきた。

私の姿を視界に入れたナミさんは固まり、それを見られた私も固まってしまい、時が止まったような空気が張り詰めた。



「......何してるのあんた。」
「ち、違うんです...!あの、これは、」
「分かった分かった。本人には黙っておいてあげるから...早く来なさいよ。」
「ナミさん...!」

笑いながら部屋を後にするナミさんに縋るように声出し、慌てて洗濯物を畳み終えると私は駆け足でその後を追った。





夕食時、先程の失態をナミさんに見られてしまった私は恥ずかしさを感じると同時に、なんて厭らしい人間なんだろう、と更に落ち込んだ。


「名無しちゃん、お茶のおかわりは?」
「えっ!あ、はい!頂きます!」
「かしこまりました。」

せっかくサンジさんお手製の美味しいご飯を食べている最中なのにこんな考え事している私にサンジさんが優しく声をかけてくださる。
はっ、として返事をするとサンジさんは私のカップにお茶を注いでくれた。


「(サンジさんの、匂い...)」


数センチで触れてしまう距離に立つサンジさんからはやっぱり煙草の匂いがして、また先程の失態を思い出してしまった。

顔が熱くなるのを感じ、俯きながらありがとうございます、とお礼を告げた。

この気持ちは、何なんだろうか。





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