LONG "To the freedom." | ナノ



25



「あれ、名無しちゃん。」
「サンジさんっ...」
「どうしてこの部屋に...ああ?」

男性クルーの部屋を掃除し終わりゾロさんが扉を開いてくれた事に少し驚きながら部屋を出ると、こちらに向かってきているサンジさんの姿があり更に驚いてしまった。
そしてサンジさんは私に声をかけた後ゾロさんに気が付くと優しい眼差しから一転、鋭い目付きに変わりゾロさんを睨みつけた。


「あ、あの、お部屋を掃除させて頂きました。終わりましたので失礼します...」
「ちょっと待った名無しちゃん。」
「はい...?」
「掃除してくれたのは本当に心の底から有り難てえんだが...何でコイツも居るんだ?」

何だかこの場に居るのが気まずく早くここから去ろうとしたが、サンジさんがそれを許してはくれなかった。ゾロさんを尚も睨みつけながら私に問いかけた。


「ゾ、ゾロさんはですね、」
「コイツが俺に許可を求めてきたからだ。何か文句あんのか?」

私が説明する言葉を遮るようにゾロさんはサンジさんに省略しすぎな説明を口にした。
それを聞いたサンジさんの眉間のシワが深くなったのは気のせいでは無い気がする。


「言ってる意味が分からねえぞクソマリモ。」
「そのままだ。コイツが俺に部屋に入る許可を求めてきたからそれを承諾した。それだけだが。」
「だからって何でお前が一緒に部屋に入る必要があるんだ?ああ!?」
「コイツ1人で男部屋に入らせて文句言う奴が出てくるかもしれねえだろ。だから俺が一緒に入った。」

今にもサンジさんがゾロさんに飛びかかりそうな雰囲気にやはりこの部屋に入るべきでは無かったのかも、と後悔しつつちゃんと私が説明しなければ、と声を発した。


「あの!サンジさん、ゾロさんの仰る通りなんです。私が入って良いか分からず居たので...」
「名無しちゃん、だからって何でよりによってコイツに!?俺に言ってくれれば、」
「ゾロさんが声を掛けてくれたんです。」

私の言葉にサンジさんは何故か口をつむいで何も言ってこなかった。

「そんなにてめえを頼って欲しいってんなら四六時中コイツの傍に居てやったらどうだ、ラブコック。」
「てめえ...!」

ゾロさんはそう言うとため息を吐きながら私達から離れていった。
その後ろ姿を見送り、私はサンジさんへ視線を戻した。


「サンジさん。」
「すまねえ名無しちゃん。俺は何をこんなムキになって...」
「やっぱりサンジさんは優しいですね。」

床に視線を向けていたサンジさんは目を見開いてバッ!と私へ顔を向けた。
どうしてこの人はこんなにも私に気をかけてくれるのだろうか。こんなにも優しいのだろうか。


「...今度から何かあった時はサンジさんにお聞きしますね。」
「...っ、」
「後で洗濯物取りにまた伺いますので。」

サンジさんに頭を軽く下げると私はその場を後にした。何故だか、このまま彼の傍に居てはいけない気がした。






「クソ、寄りによってマリモ野郎か...」

先程、甲板に出たら見えた彼女の姿に足がそちらへと向かってしまい辿り着いた男部屋。
そこから名無しちゃんと一緒に出てきたのは緑頭のあの野郎だった。

名無しちゃんの様子からして本当に近くに居たのがあの野郎だったという事は分かっているが、なぜだか俺の心の中でモヤモヤしたものが溢れて止まらない。


男部屋のソファにもたれかかり煙草の煙を目で追う。明らかに綺麗になった部屋が、彼女が一生懸命掃除してくれたことを物語っていた。



──コンコン

ノックの音に、この部屋をそんな丁寧な事をして入ってくる人物は1人しか居ない、と慌てて立ち上がり扉を開いた。


「洗濯物、取りに伺いました。...入っても宜しいですか?」
「ああ、もんちろんだ。」
「失礼します。」

小さく頭を下げながら部屋に入ると名無しちゃんは部屋の隅へと足を向け、衣類らしき物が入ったカゴを手に取った。
よくよく考えてみたら、いつも部屋に放られた野郎共の服が見当たらない。彼女が掃除の際に纏めてくれたのだと初めて気づいた。


「そうでした、サンジさんにお聞きしたいことがあったんでした。」
「ん?何だい?」
「サンジさんのワイシャツなんですが、サンジさんなりの洗濯方法があったりします?」
「え、あ...いや。干す時に皺を伸ばすようにしはしてるが...それ以外は普通に洗ってるな。」
「私が洗ったら...迷惑でしょうか?」

カゴを両手に持ちながらこちらを振り向きながら問うてくる名無しちゃんに迷惑な訳が無え、むしろ有難いと思いつつも彼女の仕事を少しでも増やしてしまう事になる、と返事を渋った。


「やっぱりご迷惑になってしまいますよね。勝手言ってしまってすみません。」
「っ、迷惑な訳が無え!」
「え...本当ですか?」

笑顔を保ちつつも悲しそうな顔をする名無しちゃんに、咄嗟に返事をすると表情が一変して嬉しそうな顔を見せた。
その顔が不意打ち過ぎて心臓がドクン、と俺の鳴ったのは気のせいじゃ無さそうだな。

じゃあ貰っていってしまいますね、と俺が纏めておいたワイシャツを丁寧な手つきでカゴに入れる姿から目が離せない。


「名無しちゃんっ、それ、俺が持っていくから...」
「大丈夫です!私こう見えて結構力あるんですよ。サンジさんの優しさだけ受け取っておきます。ありがとうございます。」

そのまま扉を開けて失礼しました、と出ていく彼女に俺は伸ばしてしまいそうな手を握りしめた。


「何してやがる、俺は...」

あの子へのこの感情の正体は、ほとんど分かっているが。




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