LONG "To the freedom." | ナノ



23



「名無し...何してんだお前?」
「...はい?」

夕御飯の時、向かいに座るウソップさんが私に怪訝な顔をして問いかけてきた。
何の事を聞かれているのか一瞬分からず食事の手を止めて視線を上げた。


「その食べ方、どうした?」

食べ方、と言われ自分の姿を見るように再度視線を落とすと確かに少しお行儀がよろしくない姿勢かもしれない。


「このカーディガン汚したくなくて...すみません。」
「気にしすぎよ名無し。今度新しい服沢山買うって言ったでしょ?」
「でも折角頂いたのに、汚したくありません...」

顔だけをテーブルに乗り出し慎重にフォークを口に近づける今の私はかなり滑稽だろう。
それ程にナミさんとロビンさんから頂いた洋服はどれも私にとって大切な物なのだ。


「可愛いなあ〜!名無しちゃん...!そうだ。」

カウンターに座っていたサンジさんはキッチンへ回り込むと手に白い何かを持ってきて私の後ろに立った。
思わず振り返ろうとした瞬間そのまま前向いていてくれるかい?と言われるまま首を動かさず前を向くと顔の両脇からサンジさんの長い腕が伸びてきた。
ドキッとすると同時に私の上半身に白いテーブルナプキンが広げられサンジさんは両手をそのまま私の後ろ首へと持っていくと器用にナプキンの端と端を結んでくれた。


「これなら汚さねえで済むだろ?」
「あ、ありがとうございます。サンジさん...」

どういたしまして〜!と言うサンジさんに私は自分の胸の鼓動が速い事に少し戸惑ってしまった。


「サンジさん!私も!」
「てめえは自分でやれ骸骨!」
「ひどい!サンジさんひどい!」

サンジさんは女性に優しい。私だけが特別なんじゃない。何故今になって私は、そんな事を考えてしまうのだろう。




食後、ダイニングでサンジさんお手製のタルトをクルーの皆さんと食べて寛ぐ。
その間も食器を洗っているサンジさんを目で追ってしまうのは何故なのだろうか。
何か私おかしい。こうゆう気持ち、何て言うのだろう。


「名無し、その服似合ってるぞ!」
「えっ、あ、ありがとうございます。チョッパーさん。」
「赤ってのが良いよな。嬢ちゃんによく似合ってる。」
「フランキーさんまで...ありがとうございます。」

チョッパーさんの声に少し驚きながら、続いて褒めてくれたフランキーさんにもお礼を言う。こんなに褒められると照れてしまう。


「赤って言えばルフィさんですよねえ。そうやってお2人並んでいるとペアルックみたいですねー!」

ブルックさんの言葉に隣に座るタルトを頬に詰め込んでいるルフィさんが、ん?と私の方へ顔を向けた。その様子を見ながら私は考えた。ペアルックって何だろう、と。


「あの、ブルックさん。ペアルックって何ですか?」
「ペアルックって言うのは、夫婦や恋人同士がおそろいの服を着ることです。いやー!羨ましいなあルフィさん!」
「ブルックさん!わ、私とルフィさんは夫婦でも恋人同士でもありませんよ!」

夫婦や恋人同士という言葉に反応して慌てて否定する私に例えばですよ!ヨホホホ!と紅茶をすするブルックさん。そりゃ本気でそんな事言う訳ないか、と改めて考えて少し恥ずかしくなってしまった。



───ガシャン!

「うお!びっくりしたー。どうしたサンジ、大丈夫か?」
「...あ?ああ。何でもねえよ。」
「おう、そ、そうか。」

お皿を置くのには大きすぎる音にクルー全員がキッチンへと視線を送り、ウソップさんがサンジさんに声を掛けると少しぶっきらぼうに感じる返事が返ってきた。
冷や汗をかきながら椅子に座り直すウソップさんからもう一度サンジさんへと視線を移したが、こちらに背を向けていた為にその表情は見えなかった。


サンジの事を明らかに心配そうに見つめる名無しに、ウソップはこんなやり取り前にもあったような...?と考えざるを得なかった。





「サンジさん、お手伝いさせて頂けませんか...?」
「名無しちゃん、言ってるだろ?君はいつも船を隅々まで掃除してくれてるんだから。手伝いなんてさせられねえよ。それにこれは俺の仕事だ。」

食後のデザートを食べ終えたクルーの方達がダイニングを後にすると、テーブルからキッチンへお皿を運ぶサンジさんにお願いしたがいつものように断られてしまった。
だが、今日の私は引き下がりたくなかった。


「掃除も洗濯も私が好きでやっているんです。私、もっと皆さんの事を知りたいんです。こんな時じゃないとサンジさんとゆっくりお話し出来ないですし...」

ダメですか?ともう一度お願いするとサンジさんは少し驚いた顔をした後今日は俺の負けだな、と私に布巾を手渡した。


「じゃあ、洗った食器を拭いて貰えるかい?」
「はい。」
「おっと、その前に。ちょっと待ってな。」

そう言うとサンジさんは自分が付けていたエプロンを外し、先程ナプキンを掛けてくれたように私の後ろへと回り込むとそれを被せて後ろの紐を結んでくれた。

まただ、この感じ。心臓が早くなっていく。


「カーディガン濡れちまったらいけねえからな。」
「あの、サンジさんの方が濡れてしまいますよ...!」
「大丈夫だ。俺のワイシャツは幾らでも替えがある。」
「あ、ありがとうございます、本当に。」
「どういたしまして。」

手に持った布巾を握りしめ食器を洗うサンジさんの横に並ぶとまだ収まらない心臓の音が彼に聞こえていないだろうか、と心配になりながら私は綺麗になった食器を拭きはじめた。





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