LONG "To the freedom." | ナノ



22



プズラ島を出発して早2日。
お父さん、お母さん、海って果てしなく広いんだよ。



「また掃除してるの?」
「ナミさん。」
「有難いけど、もうメイドじゃないんだから、もう少しゆっくりしたら?」
「船の中は一通りさせて頂けませんか?今私に出来るのはこのくらいですので...」

このサウザンド・サニー号に乗ってから私は毎日のようにどこかしら掃除しており、今日はアクアリウムバーを掃除していた。
そんな私の所へ来たナミさんは少し呆れたような顔をしていた。


「何か御用でしたか?」
「あ、そうそう!名無しあんた、私があげた黒いワンピースとその服毎日交互に来てるでしょ?」
「あっ、駄目でしたでしょうか...?申し訳ありません。」
「そうじゃなくて、ロビンも着ない服いくつかあるみたいだからあげるって。だから部屋まで来なさい。」

でも、と言いかける私の言葉を遮るように待ってるからね、とナミさんはアクアリウムバーを後にした。

この船の皆さんはとても優しくて、本当に自分が海賊の一味になった事など忘れてしまう。でもいつかは危険な目にも逢うだろう。
そんな時、私は皆さんの足でまといになりたくない。
止めていた手を動かしながら自分の力を早く自由自在に操れるようにならないと、とため息をついた時だった。


「名無しちゃーん、聞こえるかー?」

確かに私を呼ぶ声が聞こえたのだが、部屋を見回してもその声の主の姿は見えず。


「サンジさん?どこにいらっしゃるんですか...?」
「メインマストの方に来てくれるかいー?」

部屋を貫く太いメインマストへと近づくと小さな扉らしきものがあり、声はそこから聞こえているようだった。

「その扉、開けてみてくれ。」
「え、あ、はい。」

扉を開くとそこにはカップに入れられた紅茶があった。

「これ...」
「このメインマスト、キッチンに繋がってんだ。掃除してくれてるんだって?ナミさんから聞いたんだが。少し休んでくれねえかな?」
「ありがとうございます...!」
「どういたしまして。飲み終わったらまたその中に入れておいてくれれば良いから。」

暖かいカップを受け取りソファに腰掛けて口に含むと、ほんのり甘い紅茶の味に心がほんわかした。

先日の私を歓迎してくれる為の宴会の時から私はサンジさんに対して何故か変に意識してしまう自分に違和感を覚えていた。


"何より俺達の為に、生きてくれねえかな?"


生きる意味を失った私に掛けてくれた彼の言葉が頭を離れない。何故かその言葉を思い出すと胸が高鳴ってしまう。
サンジさんは何の為に生きていくかを提案してくれた、それだけなのに。
言い表せない感情が消えくれない。

空になったカップをメインマストに戻すと小さな声でご馳走様でした、と呟いてバケツを持ちアクアリウムバーを後にした。





「あの、本当によろしいんですか?」
「良いって言ってるでしょ?貰えるものは貰っておきなさい。それにあんたが来てから私達洗濯物してもらってるし...せめてものお礼させて?」

掃除を終え女部屋に入ると、テーブルの上に色とりどりの華やかな洋服が幾つも広げられていた。この中から好きな服好きなだけ持っていきなさい、と言うナミさん。


「本当に、本当に嬉しいのですが...」
「どうかした?」
「私にはこんな色鮮やかなお洋服は、似合わないかと...」

6歳からこれ迄グレーのセーターにスカートと言った決められた服を着てきた私には、ここにある服はあまりにも眩しすぎて勿体ない。


「着もしないで決めつけてしまうのは、良くないわよ?」
「でも、」
「良いから着てみなさいっての!」
「っ、はい...」

ロビンさんの言葉にまた否定的な事を言ってしまいそうな私にナミさんはぐい、と洋服を1枚差し出してきた。



「やっぱり似合うじゃないの名無し!そうね、特に赤か、ピンクが似合うわ!」
「本当ですか...?そんな可愛らしい色...」
「名無しは可愛いもの。可愛らしい色が似合うわ。」
「そ、そんな...私が可愛いなんて、」

ロビンさんに可愛い、と言われて照れてしまう。
この前ナミさんから頂いた黒いワンピースも可愛かったが、こんな色鮮やかな可愛い服を着れる日が来るなんて思っていなかった。


「お2人とも、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「今度どこかの島でまたショッピングしましょ。上は良いけど下は身長差があるから、あんたに合った物を買った方がいいわ。」
「はい...あ...」

何かを思い出したように声を出した私にナミさんがどうかした?と言ってきた。
私は2人が与えてくださった私物入れの引き出しを開けるとそこから取り出した物をナミさんに渡した。


「名無し、これ...」
「もう使う必要が無くなりましたので...お返し致します。ありがとうございました、ナミさん。」

ルフィさんと両親に会いに行くと決めた前日、3人で生きていくのに必要だろうとナミさんがくれたお金。


「分かった、とりあえず私が預かっておくわ。」
「え、預かって...?」
「このお金であんたの洋服買いましょ。」
「いえ、私の物は私が...!」
「だーめ。あんたはもうこの船の一員なのよ。この船のルールに従いなさい。」
「はい...」

よしよし、と言うナミさんとふふ、と微笑むロビンさんを見つめて頂いた洋服を抱きしめながら改めて2人に頭を下げた。



ナミさんとロビンさんが部屋を後にしてから私は早速2人から頂いた洋服を畳み、その中から赤いカーディガンを手に取る。
ドレッサーの前でグレーのセーターを脱ぐとワイシャツの上からそれを羽織ってみる。
赤い色が可愛くてウキウキしてしまう。


「本当に可愛い...」

鏡に映るその赤いカーディガンが本当に可愛くて私には勿体ない、と尚も思ってしまう。
そんな事言ったらまたナミさんに怒られそうだな、と考えていると夕飯だぞー、というサンジさんの声が船内に響き渡り私は脱いだセーターを畳んで部屋の扉を開けた。





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