LONG "To the freedom." | ナノ



20



「でっけー屋敷だなーー!!!」

屋敷へ着くとそれを目の当たりにしたルフィさんが大きな声を上げた。
この屋敷にまた戻ってこようとは私自身思っていなかったから、少し不思議な感覚になった。

「さあ、お入りください。」

いつも門番をしている護衛の姿は今は無く、ご主人様自らが門を開けてくださった。



「ご主人様!ヨーデ様!」

門を抜けると、屋敷の入り口の扉からストンが姿を見せ、私の存在に気がつくと名無し...と私の名前を口にした。

「ストン、済まなかったな。」
「ご主人様、ご無事で良かった...護衛達から話は聞きました。お前達は麦わらの一味だな、何しに来た!ご主人様に手を上げた事は許される事では無いぞ...!そして名無し、お前もだ!」
「いや、違うんだストン...話がある。この方々を広間へご案内してくれ。」

え...と戸惑うストンの横をご主人様は通り過ぎると、入ってくださいと扉を開けた。

ご主人様とストンが先頭を歩き、その後をお坊ちゃまと麦わらの一味の6人が着いていく。私はその最後尾を歩いた。




屋敷に入り広間へ着くとご主人様は6人に向かってどうぞお座り下さい、と声をかけた。

「ストン、お茶を出して差し上げてくれ。それからユリナも呼んでくれるか。ヨーデと名無しも座りなさい。」
「は、はい。」

ご主人様に返事をするとストンは広間を後にした。
ユリナとは奥様のお名前で久しぶりにその名を聞きながら私は広間を見渡すと、未だにキキョウが綺麗に飾られている事に気がついた。

「私達の結婚記念、お前も手伝ってくれた事をヨーデから聞いた。ありがとうな。」
「あ、いえ...」

ご主人様が私に向かって言うと、ルフィさんが綺麗だなー!と感心していた。
飾り付けしている時は気が付かなかったが、鮮やかな紫がすごく綺麗だ。

この夫婦に喜んでもらいたかった、ただそれだけの事から始まった。でも、これが無かったら私はこの先も何も知らずにドクターガフの思い通りになってしまう所だったのだろうか、と思うと胸が苦しくなった。




「何事ですか?......ヨーデ!名無し!貴方、この方達は...?」
「ありがとうストン。ユリナ、お前も座りなさい。」

ご主人様と奥様の言葉に視線をキキョウの花から外し、私も座ろうとテーブルに近づいた。
それと同時に2つの声が同時に聞こえてきた。


「名無しちゃん、ここ座って。」
「名無し、ここ座れよ。」

その声に部屋がシン...と静まりかえった。
お坊ちゃまとサンジさんがテーブルを挟んで立っており、私を座らせる為に2人揃って椅子を引いていた。

「何してんだ?お前ら。」
「あ、あの...」
「ふふ、両手に花ね。」

フランキーさんが面白そうに2人に問いかけ、私はどうしたら良いか分からず固まっていると、ロビンさんが笑いながら言った。

「名無しは私の隣!ほら、あんた達も突っ立ってないで座る!」

ナミさんの言葉に助けられた、と思いながら何故か睨み合う2人にすみません...と言いながら彼女の隣に座った。




「そんな...嘘だと言ってください、ご主人様...」
「そうです、貴方...そんな事...」
「済まないストン、ユリナ。全て本当だ。」

ご主人様ほゆっくりと10年前の事から先程の事までストンに話した。
それを聞いて私はまた怒りと悲しみが溢れてきて思わず俯いてしまった。それに気が付いたナミさんが、私の手を握ってくれた。



「私は直に捕まる。ストン、その間屋敷を...家族をお前に任せたい。」

未だに信じられない様子のストンと奥様に、ご主人様は淡々と言った。

「移住の話は...?」
「それはもう無くなった。屋敷を手放さずに済んだ...この方々のお陰でな。」

ストンはご主人様の言葉を聞くと6人の顔を見渡し、最後に私に視線を向けた。

「名無し...私は、何と言ったら良いのか...」
「ストンさんは何も知らなかったんですから...」
「お前が魔女、だとは...」

驚いた顔で私を見るストン。
彼もきっと、やるせないだろう。
この屋敷を、ご主人様を誰よりも敬っていたのだから。

「貴女はこれからどうするの、名無し...?」
「私は...」
「こいつは俺達の仲間になる!」

奥様の問いかけに私の言葉を遮るようにルフィさんが声を上げ、な!と私に笑顔を向けた。
はい、と返事するとストンと奥様は更に驚いた顔をした。






話が終わるとナミさんとロビンさんはお金を受け取りにご主人様の書斎へ、ルフィさんとチョッパーさん、フランキーさんはご主人様がシェフに指示し作らせたご馳走を広間で食べ始めた。


「奥様、少しよろしいでしょうか...?」
「ええ。私の部屋へ行きましょうか。」

もうこの屋敷には戻らない。
私はこれからルフィさん達と海へ出る。
楽しい時間も与えてくれたこの屋敷に未練が無いと言ったら嘘になるけれど、私にとって辛い場所でもある。

だが何も知らなかった方達には何も罪は無い。私は今までの感謝を伝えたかった。

私は奥様の後をついて行き、主夫婦の寝室へと向かった。






「ごめんなさい。まだ状況が理解出来ないの。何であんな事...名無し...本当に、ごめんなさい、」
「いきなりあの様な事を聞かされて、無理もありません。奥様は何も悪くないのですから、どうか顔を上げてください。」

部屋へ着くと大粒の涙を流し、私に頭を下げる奥様が痛々しかった。ヨーデ様の前だったからだろうか、先程まで涙一つ見せなかったのに。

この人は何も悪くない。今まで私を家族のように接してくれて、優しくしてくれた。

奥様をソファに座らせ、落ち着くまで肩を抱き寄せた。


「もっとあの人を疑うべきだったの...いつもドクターと何を話しているのか、貴女とご両親はいつになったら顔を合わせてあげることが出来るのか、もっと問い詰めるべきだった。」

ごめんなさい名無し、と繰り返す奥様に謝らないでください、と返すしか無かった。

「私は奥様に感謝しているんです。ここまで育てて下さった事に。だから、どうか謝らないでください...」
「名無し...」
「この屋敷を出る事をお許しください。見たことの無い世界を、この目で見てみたいのです。だから、だから...今までありがとうございました...」

ソファから降り奥様の前に跪くと頭を下げた。この10年間確かに偽りもあったが、この人の優しさには嘘偽りは無かったから。

「貴女が決めたことなら何でも賛成するわ。貴女は今まで私達の為に何から何までしてくれたんだもの...」

でも忘れないで、と奥様は私を抱きしめた。

「貴女の事、これからも想っているから。」

はい、と返事をすると私は堪えきれない涙をゆっくりと流した。






「お前、」
「...何ですか?」
「名無しちゃんの事好きだろ。」

サンジはご馳走を頬張るルフィ達を眺めながらヨーデに言った。
それを聞いたヨーデは、少し黙った後口を開けた。

「...だから何ですか?」
「生意気なガキだな、本当に。」

貴方に言われたくありません、とヨーデは返すとサンジに向き合い放った。

「あの言葉、忘れないでください。」
「...だから、そんな事一生無えって言ってんだろ。」

こんなやり取りがあったことは、この2人しか知らない。




「お待たせー!船に帰るわよ!」
「食いすぎて動けねえ...」
「俺も...」
「あんた達本当に何しに来たのよ!!??」

お腹がパンパンになるまで食べ続けたルフィと、それにつられたチョッパーに戻ってきたナミが突っ込む。

「あれ?名無しは?」
「お母様とお話しています。」
「そう...じゃあ少し待ちましょうか。」

ナミとロビンがテーブルに腰掛けるとあの、とヨーデがクルー達に声をかけると何?とナミが返した。

「名無しのこと、よろしくお願いします。」

ヨーデは立ち上がると頭を下げながら言った。
その様子に6人は少し驚きつつ、代表するようにルフィがおう!と満面の笑みで返した。




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