16 昼食を食べ終え各々が自分の食器をシンクへ運ぶ中、私は自分とお坊ちゃまの分を運ぼうとした途端それは彼の手によって阻まれてしまった。思わずお坊ちゃまの顔を見やると私を険しい顔で見返していた。 「名無し、家じゃないんだ。自分でやる。」 「え、でも...」 「いいから。」 「かしこまりました。」 メイドに世話されてるのが恥ずかしいのかな、と思いながら少し微笑ましくて彼の言う通り自分の分だけを持っていく。 「...サンジさん、」 「ありがとう名無しちゃん。食器、貰うよ。」 「あの、お手伝い...」 「させねえよ?」 ですよね...と項垂れる私の頭に大きな手を優しく乗せるとサンジさんは、今は自分の事だけ考えるんだ、と言ってくれた。 「ありがとうございます...」 「どういたしまして。」 その優しさにまた甘えてしまったという気持ちに加え、触れられた部分が熱くなるのが分かった。 入れ違いにお坊ちゃまがサンジさんの元へやって来てごちそうさまでした、と食器を渡すとありがとよ、とそれを受け取る。 その光景にやっぱりこの2人は何だか似てる気がするな、と思いながらその場を離れた。 「...あの。」 「どうした?」 「あまり名無しに馴れ馴れしくしないで貰えますか。貴方のような男の人に慣れてないので。」 「.........は?」 ヨーデからの言葉に思わず持っていた食器を落としそうになる。彼から感じる視線は真剣そのものだった。 「名無しのこと傷つけたら許しませんから。」 そう言って去って行くヨーデを、サンジはポカンと口を開けながら見ていた。 「なにぼーっとしてんだ?お前。」 「あ?...何でもねえよ。」 手が止まっているサンジにウソップが問いかけると、少し機嫌が悪そうに返事するサンジに、関わらない方が良さそうだな...と後ずさりした。 「こうなったら全員で行きましょ!屋敷の護衛に見つかったら見つかったで、そのまま屋敷まで連れて行ってもらおうじゃないの!」 思い立ったように言うナミさんに私は少し驚くと、ナミさんの言う通りだ!とサンジさんも続いた。 「ここで待ってるだけなんてやっぱり出来ねえ。良いだろ、ルフィ!」 「おう!いいぞ!」 「いや判断が早えよ!」 即答するルフィさんに、ウソップさんの突っ込みが入る。 「でも船番は居ないとね。...ゾロよろしくっ!」 「ふざけんな!いつもいつも何で俺が!」 ナミさんのご指名でゾロさんが船番をすることになってしまい何だか申し訳なくなってしまった。ゾロさんにすみません、と言うと、呆れながら別にお前のせいじゃねえよ、と返してくれた。 それが何だか嬉しくて今度はありがとうございます、と返す。 「よし!じゃあ出発するぞ!!」 おー!という私とお坊ちゃまを除く全員の声が船に響いたその時だった。 「大変です皆さん!甲板に警備隊のような方達が入ってきました!」 食事を済ませた後に甲板に出ていたブルックさんが、大慌てでダイニングへ戻ってきた。 まさか...と思った瞬間、外から声が聞こえた。 「お前達が何者かは分かっている!麦わらの一味!少し話をお聞かせ願いたい!」 その声にお坊ちゃまが、まさかここまで来るなんて、と呟いた。私は護衛の声はあまり聞いた事が無い為分からなかったが、やはり屋敷の護衛らしい。 「皆さん、私とお坊ちゃまが出ますので…ここでお待ちください。」 「もうルフィが出ていったわ。」 「何してんだあいつはーー!」 私達が出ていけばこの人達を巻き込まなくて済むと思ったが、ロビンさんとウソップさんの言葉を聞きルフィさんの身の速さに驚くしか無かった。 「おいお前ら!名無しはここには居ねえぞ!」 私の名前を叫ぶルフィさんに、お前本当に馬鹿だろ!!?とウソップさんがその口を抑えながら突っ込む。 「お前何故名無しの名前を!」 「名無しを知っているのか!?」 甲板へ出ると見慣れた顔の護衛が3人立っていた。こちらに気がついた彼らは、お坊ちゃまの姿を見て更に驚いて再び声を発した。 「ヨーデ様まで!なぜここに!?」 「名無し!お前なぜヨーデ様と...!」 まるで悪役になったみたいだ。 つい一昨日まで一緒に屋敷に仕える身だったのに、彼らの私に向けられた視線は悪者を見る目そのものだった。 「ヨーデ様!屋敷へお戻りください!ご主人様と奥様がご心配されております!」 「名無し!お前も戻れ!」 屋敷へ戻ったらお坊ちゃまはまた私のせいでご主人様に叱られてしまうだろう。 そして私は...想像出来ない事に恐ろしくなる。 「ちょっと!黙って聞いてれば勝手な事言ってくれるじゃない?悪いけど、この2人は私達が人質にさせて貰うわ。屋敷に戻って欲しかったら身代金払いなさい!」 「お前どさくさに紛れて何言ってんだー!!?」 ナミさんの突然の言葉に驚いてチョッパーさんが声をあげる。 本心でそう言ってるのか、私達を屋敷にもどすまいと言ってくれてるのか、と思わず考えてしまった。 「くっ...!そんな事が通用すると思ってるのか!こっちは今すぐ海軍に連絡しても良いんだぞ!」 「あら、じゃあ2人は帰せないわ。...それと、私達がどの程度の海賊か知ってる上でそれを言ってるのよね?そうなったら私達はこの2人を連れて船を出すまでよ?」 「くそ...!」 どうすれば良いのか、このままでは本当に海軍へと連絡をされルフィさん達はこの島を出なければならない。 昨日ナミさんから聞いたログいうものが溜まらないと次の島へ行けないと言っていたのを思い出す。 「ナミさん…私達、屋敷へ戻ります。」 「えっ...!?何言ってるのよ名無し!!」 「皆さんにはもう十分助けて頂きました。やはり、これ以上は...もう...」 「名無し!!!!!」 ナミさんとのやり取りを聞いていたルフィさんが大きな声で私を呼ぶ。その大きさにビクッと肩をあげた。 「お前、今朝の話忘れたのか?」 いつも笑っていて穏やかなのに不意に真剣な眼差しになるルフィさんの目が、私の目を射止める。今朝言われた、俺たちを頼れという意図の言葉を思い出す。 でも、もうこれ以上迷惑を掛けたくない。 私の中でこの人達の存在が、こんなにも大きくなってしまったから。 「ルフィさん、私、もう皆さんの迷惑になりたくないんです...本当はもっと、強くなりたい...」 私に出来ることはこれくらいしか無いんです、と溢れ出てくる涙を手の甲で拭いながら伝える。 「っ!ふざけんな!!!!何が迷惑だ!?そんなの、俺達が決める事だろうがーーー!!!」 その言葉に目を見開いて周りを見ると、他のクルーの方々の眼差しが私を突き刺す。 ったくアイツは良いとこばっか持っていきやがって...という言葉と共にポン、と肩に置かれた手の温もりに振り返るとサンジさんが私を見下ろしていた。 「そんな顔、二度とさせねえから...名無しちゃん。君は、」 ただ笑っていてくれねえかな、と耳元に顔を近づけながら私にしか聞こえないように言う彼を見上げる。 どういう意味...と返そうとした時、またサンジさんが口を開く。 「おい坊主。さっき言ってた事、死んでも無えから安心しろ。」 「......」 お坊ちゃまに向かって言うサンジさんに2人の顔を交互に見る。 さっき言ってた事って?訳が分からなくなり、黙って見つめ合う2人に少し焦る。 「...そうですか。それは失礼致しました。」 「分かりゃ良いんだ。」 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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