LONG "To the freedom." | ナノ



15



「おいお前ー!」
「ルフィさん、ちょっと待ってください...!」

こちらの声に気づいたのかお坊ちゃまは視線を私とルフィさんの方へと移すと私の顔を見た途端、少し驚いた顔をした。


「っ、名無し...なのか?」
「お坊ちゃま...!」

ルフィさんの後を追うようにお坊ちゃまの元へ駆け寄ると、彼は私の名前を口にした。
そしてその驚きを含んだ表情は少し険しい物へと変わっていく。


「何してたんだ...?」
「申し訳ございませんでした、本当に...」

謝罪の意を込めて思い切り頭を下げた。何を言われても構わない。会いたくても会えないと思っていた人物に会えたのだから。

しかしその瞬間ふわりと私の肩に温もりが宿り、私はお坊ちゃまに抱きしめられていると気がついた。


「心配...した...」

少し震えた声で言う彼に私とあまり変わらない身長のお坊ちゃまが、その時何故か少し小さく感じた。顔を上げるとお坊ちゃまは私から離れると、いつものポーカーフェイスだった。


「なぜお坊ちゃまがこんな所へ...ストンさんは?」
「抜け出してきたんだ...昨日の昼に名無しが屋敷から居なくなって、屋敷の護衛達が今日街に捜索に出ると聞いたから。...名無し、街を出た方がいい。」

何故お坊ちゃまが屋敷を?
それに街を出た方がいいとは...?
聞きたいことが頭を駆け巡り、なんと言っていいか迷っているとルフィさんが言葉を発した。


「おい、お坊ちゃま!」
「......僕の名前はヨーデといいます。」
「そうか!じゃあヨーデ!俺ら名無しの父ちゃんと母ちゃん探してんだ!どこに居るんだ?」

ルフィさんは唐突にお坊ちゃまに言うが彼はいつもの様に冷静だった。
それに割って入ったのはロビンさんだった。


「ごめんなさい、ヨーデ。私達は訳あって名無しと出会って一緒に両親を探すことになったの。幾つか聞かせて欲しい事があるんだけど。」
「...とりあえず、少し移動した方が良いかもしれません。ここでは多分護衛の目に入ってしまう。」

そういえばそうだった。ルフィさん達は結構目立つ為、尚更すぐに見つかってしまうかもしれない。


「よし!じゃあ船戻ろう!」
「え、」
「そうね、折角出てきたけど。戻るのが得策かも。」

最後にあんな意気込んで挨拶したのに…と戻るのが少し恥ずかしくなってきてしまった。

しょうがねー戻るか、というフランキーさんの言葉と共に皆にゾロゾロと船のあった場所への道を戻る。
わざわざ着いてきて下さった4人に申し訳無いのと同時に、お坊ちゃまに再会出来た事が嬉しかった。


「...そういえば名無し、この方々は...」
「私の事を助けてくださった恩人です。」
「恩人...?」

船までの道を歩きながら麦わらの一味の方達に助けられた経緯を話した。海賊という事は船に戻ったら分かってしまうだろうと思って黙っていたが、お坊ちゃまは予想外の事を口にした。


「海賊だろう。」
「えっ、」
「この方々。」
「なんで、お坊ちゃまが...」

かなり有名な海賊だ、と言う彼に毎度の事ながら年下とは思えないな、と感じた。
そんなに有名な方達だったとは...改めて自分が世間知らずだと再認識する。


「お前よく知ってんなー!そうだ、俺は海賊王になる男だ!」

海賊王...なんだかカッコいい響きに、少しワクワクした。

「なぜ海賊の方々がうちのメイドを助けてくれたんですか?」
「俺は医者だからな!倒れたやつを放っておけねえ!」
「本当に助かりました、チョッパーさん。」

お坊ちゃまの問いに間髪入れずチョッパーさんが答えると、あの時の事を思い出し思わずお礼を口にした。
だからお礼なんて言われても嬉しくねえよっ!と嬉しそうに言う彼は本当に可愛い。


「僕からもお礼を言わせてください。ありがとうございました。」
「うるせえなっ、嬉しくねえって言ってんだろっ、コノヤロがっ。」

2人のそのやり取りを見て笑っていると、あの大きな大きな船が見えてきた。






「おいおい...これは夢か?」
「すみません、また戻りました...」

また名無しちゃんと再会できるなんて…!と涙を流すサンジさんと他の4人に向け頭を下げる。


「一体どうしたのよ...?」
「ヨーデに会ったからよ!話聞くために戻ってきた!」
「「ヨーデって誰だよ!!」」

ナミさんの問いにルフィさんが返すと、ナミさんとウソップさんの突っ込みが飛んでくる。苦笑いしながらこのやり取りにも少し慣れた私は改めてお坊ちゃまを紹介した。


「あの、ヨーデ様は先日お話した屋敷のお坊ちゃまです。」
「...初めまして。僕はマラク一族のヨーデと申します。名無しを助けて頂いたようで誠にありがとうございます。」
「礼儀正しいお方ですねー!ヨホホホ!」

こんな個性的な人達の前でも本当にしっかりした子だ、私が紹介するまでもなかった。


「それでよ、ヨーデ。名無しの父ちゃんと母ちゃんは?」
「その事ですが...僕は名無しのご両親には10年前の時以来会ったことがありません。」
「え...そうだったんですか…」
「ああ、すまない名無し。」

ルフィさんが問いかけると申し訳なさそうに言うお坊ちゃまにあなたが謝ることではありません、と返しやはりご主人様に聞くしか他ないのか...と考える。


「さっき言っていた、街を出た方がいいというのは?どうしてなのかしら。」
「...お父様はもう、名無しをメイドとして家に置くのは辞めると言っていたんです。」
「え...?」

ロビンさんが私の疑問をお坊ちゃまに聞いてくれ、そして彼の口からはもしかしたらと思っていた事が飛び出してきた。
仕方ない、屋敷を抜け出しご主人様達を裏切ったのだから。それは十分想定していた事だ。それでもやはり胸が締め付けられる感覚に自分がショックを受けているんだと気付かされる。


「ちょっと待てよ。メイドとして雇う気が無えなら、何で嬢ちゃんの事を探してるんだ?」
「確かに...そうよ、名無しを探してどうするのよ!?」
「僕にも分からないんです、ただ名無しの事を心配しておられるのか...お父様が何を考えていらっしゃるのか分からない。だから街を出た方がいいと言ったんです。」

フランキーさんとナミさんが疑問を口にすると、苦い顔をしてお坊ちゃまは答えた。
そういえばそうだ。用無しのメイドなのに、ご主人様さ何の為に私を探しているのだろうか。お坊ちゃまの心配しているのか、という言葉に少し期待している自分が居た。


「よし!じゃあ屋敷に行ってヨーデの父ちゃんに事情を聞いてから病院に行くか!」
「あんたはいつもいつもそう簡単に言うけどね、ルフィ!」
「だってそれしか無えだろ。」

そうだ、それしか無い。だが、このままこの人達を巻き込む訳には...でも私1人でどうやって。


「...名無し、あんたまた一人でどうにかしようとでも考えてるんじゃないでしょうね。」
「!、えっ?」

私の心を読むようにナミさんに言われ、思わずドキッとする。

「あの、でも、皆さんを巻き込んだら、ご主人様は皆さんに何をするか...」
「......そんなに俺達が頼り無えか、名無し。」
「ルフィさん、」
「俺達の事を信じてくれたから色んな事情を話してくれたんだろ。だから頼ってくれたんじゃねえのか。」

そうだ、こんなに心強い人達だから私はその優しさに頼ろうとして...でも、そんな人達だからこそ私の事で少しの危険でも巻き込みたくない。


「名無しちゃん、俺達は名無しちゃんの力になりたいから一緒に行くって言ったんだぜ。その気持ちを、最後まで汲んでくれねえかな。」

君の辛そうな顔はもう見たくねえんだ、と言うサンジさんの言葉が突き刺さる。


「...名無し、僕も何か力になれる事をしたい。君が今まで僕にしてくれたように。」

私の手を取りながら言うお坊ちゃまの言葉に胸がいっぱいになる。
今まで力になってくれたのは、貴方なのに。


「皆さん、ありがとうございます。...もう一度だけ、力を貸してください。お坊ちゃま、何よりも嬉しいお言葉です...ありがとうございます。」

こんなにも沢山の力を分けてくれる人達に、囲まれて今ならどんな事でも出来そうだと感じた。






とりあえず飯!というルフィさんの声により、私とお坊ちゃまも一緒にお昼ご飯を頂くことになった。


「お坊ちゃま、サンジさんの料理は本当に美味しいんですよ。」
「名無しちゃん、君は俺を褒め殺す気かい!?」

また体をくねらせて言うサンジさんを、心無しかお坊ちゃまはいつも以上に冷めた目で見ているのは気のせいだろうか。


「...サンジさん、ありがとうございます。いただきます。」
「おう、沢山食えよ。」

私もお坊ちゃまに続きいただきます、と言うと美味しい食事を味わった。本当に美味しいな、と心の中で思いながら。


「屋敷の料理より美味しいな。」
「そうだろ、ヨーデ!サンジの飯はうめーだろ!」

はい、と言うお坊ちゃまを見て私は嬉しくなった。なんだかお坊ちゃまにお兄さん、お姉さんが出来たみたいで。


「あんた結構可愛い顔してるわねー!」
「...え、」
「ふふ、でももう少し大きくなったらすごく男前になりそうね。」
「...ありがとうございます。」

ナミさんとロビンさんに囲まれ少し照れた顔をしたお坊ちゃまが新鮮で、少し笑いを零してしまう。
てめー!ガキだからって容赦しねえぞ!と怒るサンジさんの事は先程のように冷めた目で見ていて、余計に面白いと思い笑ってしまう。


「...名無し。」
「はい、何でしょうお坊ちゃま?」
「君は笑っていた方が良い。」
「え?」

どういう意味だろう...と思っていると、ウソップさんが一丁前なこと言いやがって!とニヤけていた。





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