14 「本当に名無しは魔法使いみてえだなー!」 朝食を食べながら、ルフィさんが私にも向かって言った。 ナミさんの悲鳴を聞き付け洗面所へ向かうと皆さんが集まっていて、そこから出てきたナミさんに突然抱きしめられた私は何が何だか分からなくなってしまった。 ナミさん曰く、男性クルー(特にルフィさんとゾロさん)が汚くしてしまった洗面所がピカピカになっていて感動してくれたという。 あの後も私が掃除した箇所を見ては皆さんは感動してくださった。 「そういえば名無しあんた、ちゃんと寝たの?」 「あ、はい。屋敷に居る時よりも沢山寝れました。」 いつもどんたけ寝てないのよ、と付け加えられるが、身体が慣れてしまったのか一定の時間に自然と目が覚めるようになってしまった。 「あまり無理しちゃダメだぞ。」 「ありがとうございます、チョッパーさん。」 「よし!今日は名無しの父ちゃんと母ちゃんを探しに行くぞ!」 おー!と皆さんが声をあげる様子を見て、思わず笑みが零れた。今日お父さんとお母さんに会えるんだ、と喜びが溢れてきた。 朝食を食べ終え昨晩のように各々が空になった食器をシンクへ持っていき、私もそれに続くようにサンジさんの元へ食器を運んだ。 「ごちそうさまでした。今日もすごく美味しかったです。」 「どういたしまして〜!それよりジャージ姿の名無しちゃんも可愛いなぁ〜」 「......っ、あの、」 サンジさんにまた可愛い、と言われつい照れてしまったが今日こそは片付けの手伝いをさせて貰いたくて声を掛けた時だった。 「名無し!こっち来い!」 「あ、えっ、」 ルフィさんに手を引かれ、サンジさんの手伝いをする事は叶わなかった。 テーブルでは他の方々がまずはどこから探しに行くか誰が行くかなどの話し合いが始まっていた。 「俺は絶対に行くぞ!船長だからな!」 俺も行く、俺も、私も、と皆さんが言ってくださるのが有難く同時にどうしよう、と慌ててしまった。 「おいおい、気持ちは分かるが名無しちゃんが困ってる。ここは俺が行くしかねえ。」 「どさくさに紛れて何言ってんだよ!」 「あーもう、埒が明かない!クジで決めるわよ!」 いつの間にか食器を洗い終えたサンジさんとウソップさんの会話を最後にナミさんが声を上げると、とりあえず4人に絞るためクジを引くことになった。 「じゃあ引くわよ。せーのっ」 9人が一斉に引くと、私のために着いて来てくださる4人が決定した。 メンバーは、ルフィさん、チョッパーさん、ロビンさん、フランキーさん。 「よし!じゃあ行くぞ名無し!!」 「名無し、よろしくなっ」 「ふふ、楽しみね。」 「嬢ちゃん!このスーパーな俺様に任せろ!」 選ばれた4人が私に心強い言葉を言ってくれ、それになんて頼もしいんだろうと思い切り頭を下げた。 「ご迷惑おかけするかと思いますが、よろしくお願い致します...!」 頭をあげるとナミさんが近寄ってきて準備しなきゃね、と私を女部屋へと連れていった。 「はい、これ着なさい。」 ナミさんが渡してくれたのは白い襟の付いた黒いワンピースだった。裾には花の刺繍が施されており、とても可愛らしい。 「あのやっぱり私自分の...」 「着なさい。」 私には勿体なくて、やはり昨日着ていた自分の服を着ようと提案しようとしたがナミさんは有無を言わさない表情で私に指示した。 「やっぱり!あんたにぴったり!」 「あの、...これ、短くないですか?」 今までこんなに女の子らしい服を着るのは初めてな事と、更にいつも履いているスカートよりもずっと短い丈に恥ずかしさを隠せなかった。 「全然短くないわよ!ロビン、どう?」 「すごく似合ってるわよ、名無し。本当に、すごく可愛い。」 さすが私、と言うナミさんに微笑ましい顔をしたロビンさん。いつか2人のような綺麗な女性になりたいな、と心の中で思った。 「名無し、私は一緒に行けないけど、お父さんとお母さんに会ってくるのよ。あんたなら大丈夫。」 「ナミさん...」 「...そんな顔しないの。」 その言葉に朝とは立場が逆転したように、私はナミさんに抱きついた。ありがとうございます、と繰り返し言う私にナミさんは、はいはい、と頭を撫でてくれた。 「クソっ、俺も行きてえ...!」 「仕方ないだろサンジ、諦めろ。」 ダイニングでは名無しの両親を探すため街へ出る為の人選クジを引き終え、自分が落選した事に項垂れるサンジとそれを宥めるウソップを残りの男クルーが女の事になるといつもこうなるな、とその様子を見ていた。 「心配すんなよサンジぃ、俺がちゃんと名無しの父ちゃんと母ちゃん見つけてくっから!」 「そうゆう問題じゃねえんだよ!俺が、俺が名無しちゃんの為に...」 「うるせえなテメェはいつもいつも...」 「なんだとクソ剣士!」 これまた始まった...と他のクルーが思っていると、ダイニングの扉が開いた。 「名無しの準備整ったわよ。」 ナミが最初に入ってきて言うと、その後にロビンも続いて入ってくる。しかし、その後に入ってくる筈の彼女の姿がなかなか現れなかった。それを見かねたナミが再び声を上げる。 「もー、早く入ってきなさい!」 「でも、あの...」 「いいからっ」 ナミに促され入ってきた彼女に、男共の目がそちらへ奪われた。 照れた様子の名無しは昨日までと打って変わっていた。少し余裕があった服は体のラインがはっきりとした漆黒のワンピースに、年季が入った靴は可愛らしいショートブーツに。そして何よりも脚の露出が明らかに多くなっていた。 「ブハーーーー!」 「サンジーーー!!!???」 その彼女を見た途端、この船のコックの鼻血が吹き出すと船医が慌てて駆け寄った。 「いやー、名無しさん!なんて麗しいお姿!パンツ見せてもらっても...」 「見せるか!」 ブルックの言葉にナミが反応し、ツッコミを入れる。それに少し安心したかのように名無しから笑みが零れた。 「名無しちゃん、やはり君は俺がお守りしねえと...」 「サンジ!いつの間に!?」 名無しの手をとり言うサンジに傍で倒れていた筈の彼が居なくなったことに驚くチョッパー。そんなサンジにゾロは見てらんねえな...とため息をついた。 「あの、サンジさん、ありがとうございます...」 「......」 上目遣いで少し顔を赤める彼女に、クソ...可愛すぎる...!とまた出そうになる鼻血を抑えるサンジにウソップがお前忙しいな、と静かに漏らす。 「でも、チョッパーさんとロビンさんにフランキーさん、それに...ルフィさんが付いていてくださります。なので、ご心配は有難いのですが...大丈夫ですよ。」 何故かルフィの名前を口にした瞬間、彼女の顔がとても安心に満ちたのは気のせいだろうか。 サンジは彼女にこんな顔をアイツはさせることが出来るのか、と少し胸が締め付けられた。 「名無しちゃん...」 「また会えた時には、サンジさんの美味しいご飯を食べさせて頂けますか?」 「......ああ、もちろんだ。」 これで最後なのだと再確認させられる言葉だった。また会えるだなんて、無いだろうに。 ありがとうございます、と言う彼女の顔をずっと見ていたいのに。 「私だって行きたいのよ、だからサンジくんも男らしく見送ってあげなさい。」 「ナミさん...ああ、そうだな…」 その雰囲気を一変させるように船長がいよいよ、それじゃあ行くぞー!と声を上げた。 クルーは甲板へ出ると船を降りていく5人を見送った。 「皆さん!本当にありがとうございました!皆さんのことは、忘れません...!」 「絶対に...お父さんとお母さんに会うのよ!」 「はい!」 彼女の今までに一番大きな声を聞いた船に残されたクルーは優しく、そして大きく手を振った。ナミは思わず出そうになる涙をこらえ名無しに言った。何度も船を振り返る彼女に自分達も忘れない、と心の中で思いながら。 「行ってくるぞー!!!」 ルフィの声を最後に5人の姿はだんだん小さくなっていったが残った5人は暫くその場から動かず、街へと歩いていく5人の方向を見つめていた。 話し合いの結果船から降り街を目指す5人はとりあえず名無しの両親が居るはずの病院へ行くこととなった。 もしかしたら、どこかの病室に紛れているのかもしれないと踏み、そしてドクター・ガフも戻っているかもしれないと。 「しかし本当ひでえな。嬢ちゃんは一生懸命働いてたっていうのによ。」 「何か、私に会わせたくない理由でもあるんでしょうか...」 フランキーの言葉に、彼女は疑問を口にした。それを聞いたルフィが口を尖らせて言った。 「なんだそれ!家族に会うのに理由なんていらねえだろ!」 「ルフィさん、」 「きっと会えるから大丈夫だぞ!」 「ありがとうございます、チョッパーさん。」 そんなお礼ばっか言われても嬉しくねーぞ!と照れる彼にロビンと共に微笑んでいると、名無しの目にある人物が入った。 「あれ...お坊ちゃま...?」 「名無し、もしかして?」 「はい、屋敷のお坊ちゃまです。」 なぜ彼がこんな街の離れに...?と思いながらロビンさんに聞かれ返事をしながら彼の様子を伺う。岩に座り込み海の方を見つめる彼に声をかけるべきか迷ってしまう。 「じゃああいつに聞きゃいいじゃねーか!おーい!」 「え、ルフィさん...!?」 思い立ったら、というようにルフィさんは迷わずお坊ちゃま目掛けて走り出すと大声で彼に声をかけた。 「おい名無し、お前も早く来いよ!」 ルフィさんに呼ばれ呆気に取られていた私は、はっとして駆け寄っていった。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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