LONG "To the freedom." | ナノ



13



アクアリウムバーでナミさんがお風呂から出てくるのをぼーっと大きな水槽を眺めながら待っていると名無しちゃん、と名前を呼ぶ声がした。

声のする方に視線を移すといつの間にか傍にサンジさんが立っており、人の気配に気づかない程ぼーっとしていたのかと慌てて立ち上がる。


「あーいいから、座ってて。隣いいかな?」
「はい、もちろんです。」

ぼーっとしてたから変な顔をしてたかな、と考えながら何故か恥ずかしくなり誤魔化すように声を発した。


「お食事、本当に美味しかったです。屋敷のシェフの食事も美味しいですが、それよりもずっと美味しかったです。」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ、名無しちゃん。」
「あ、あの、何かご用が...?」

何か用があって此処へ来たのかと思い尋ねると、ああ、と思い出したように彼は煙草を2本の指で挟み唇から離すとふー、と煙を吐き出した。


「体調、大丈夫かなって思ってよ。あいつら騒がしいだろ?疲れてないかい?」

わざわざ私の体調の様子を見に来てくれたのか、とこの人はどこまで紳士なんだろうと驚いた。

「大丈夫です、わざわざ...ありがとうございます。」
「良かった。」

サンジさんは少し気が抜けたように長い足を組みながら首元までしっかりと結ばれたネクタイを緩めた。その仕草が本当に格好良くて、目が逸らせなくなった。


「サンジさんて...」
「ん?」
「格好良いですね。」
「......え?」

思ったままの事を口にすると少しだけ間抜けな顔になった彼に可笑しくなって、ふふ、と吹き出してしまった。

「名無しちゃ......」
「名無しー!お待たせー!」

サンジさんが私の名前を呟くと同時に、ナミさんの私を呼ぶ声が木霊した。


「お風呂入ってきなさい。あれ?サンジ君も居たのね。」

石鹸のいい匂いを漂わせながらこちらへ歩いてくるとナミさんはサンジさんの存在に気がついた。サンジさんは咄嗟に立ち上がり、髪の濡れたナミさんも麗しいなぁ、と言いながら私の方へ振り返った。


「名無しちゃん、今日はゆっくり寝るんだぜ。おやすみ。」
「...おやすみなさい。」
「ナミさんも、おやすみ。」
「おやすみ、サンジ君。」

ナミさんがサンジさんに返し私の方を振り返ると、どうかした?と聞いてきた。
何でもないですよ、と返すと一緒にアクアリウムバーを後にした。




お風呂はとても広く使うのが申し訳なくなった。本当に船の中なのだろうかと思いながら体を洗いつつ、先程のことを思い浮かべる。
サンジさんは私に何か言おうとしてたのだろうか、と。
男の人とあの様に接するのは初めてで思わず格好良いと口にしてしまったが、まずかっただろうか。

体を洗い流し湯船に浸かるとこんなにゆっくりとお風呂に入ったのは久しぶりだな、と感じながら瞳を閉じると先程の彼の横顔が浮かんできた。

23

お風呂を出てナミさんが貸してくれた可愛い色をしたジャージに着替え女部屋の扉をコンコンとノックするとどうぞ、と中から声がした。


「失礼し...お邪魔します。」

ナミさんにかしこまるな、と言われたのを思い出し言葉を言い換えて部屋へ入った。


「お風呂ありがとうございました。それから、ジャージも...」
「いいのよ、気にしないで。というかノックなんてしなくて良いのよ。ここは女部屋なんだから。」
「あ、えっと...分かりました。」
「名無し、サンジに口説かれてたんですって?」

ふふふ、と笑うロビンさんにそんな事されてないですよ、と返す。
思わずナミさんに目をやると違うの?と言われた。


「私の体調を気遣ってくださっただけですよ。」
「さすが、優しいわね。」
「はい...というより私の方が、」

口説いてたのかも、と思った。
私の言葉を待っている2人に思わず黙り込んでしまった。

「私の方が......なに?」
「...ここに居る皆さん、とても素敵な方ばかりですよね。」
「あからさまに話そらさないの。」

ロビンさんに言葉の続きを促され、どうにか話の方向を変えられないかと思ったが、ナミさんにピシャリ、と突っ込まれた。


「......サンジさんて、」
「うん?」
「格好良いですよね?」

じっと私を見つめてくる2人が何だか怖くて、もしかしてどちらかがサンジさんと恋仲なのかもしれない、と考えながら言葉を発した。


「...やっぱり何でもないです。」
「ははーん、名無しあんた、ああゆうのが好みなの?」
「確かに紳士だものね。」

少しニヤついた顔で言う2人に別に好みとかじゃ、と反論するが顔赤いわよ、とナミさんに言われた。

恥ずかしくて堪らなかったが、こうして女性同士でお話するのがこんなにも楽しいとは思わず夜更かししてしまいそうだった。







「いやーーーー!」

翌朝ナミの叫び声がサニー号船内に響きわたり、それを聞きつけたクルーが声のする洗面所へ駆けつけた。


「どうしたナミ!」

ルフィが扉を開けると、ナミが涙目になっていた。あ、あ、と口を開けながら何か訴えてくる彼女にクルー達はその言葉を待った。


「せ、洗面所が...」
「洗面所が、どうしたんだ?」
「すごい綺麗になってるのよーーー!」

チョッパーが言葉を促すと、ナミはまた大きな声で叫んだ。

「おー!すげーな!この船を作った時ぐらいにスーパー綺麗になってるじゃねえか!」
「いやー、すごいですねー!ピッカピカ!」
「なんだよ、そんな事で騒ぐんじゃねえ。まったく。」

フランキーとブルックもナミ同様その綺麗になった洗面所に感動しているとゾロが眠たそうに呟いた。
その言葉にカチン、ときたナミはゾロの襟元を掴みあんたらのせいで汚くなってたんでしょうがー!と詰め寄った。


「ナミさん!どうしたんだ?」

朝食の準備をしていたサンジが少し遅れて来てナミに声をかけた。
それと同時に、名無しも駆けつけてきた。


「どうかなされましたか...!?」

そう言う彼女の手には雑巾が握られており、その場に居た皆は洗面所をここまで綺麗にした犯人が分かった。


「名無し!あんた!」

ナミが名無しに駆け寄ると、その声に怒られると思った彼女は大きく頭を下げた。

「申し訳ありません、余計な事を...!」
「何言ってんのよ!ありがとう、本当に!」

顔を上げるとナミは思い切り名無しを抱きしめると、彼女は自分の置かれた状況が理解出来ず口を開けたままポカンとするしか無かった。





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