12 私は船内の何処に何があるのかなど淡々と説明してくれるナミさんの後ろをついて歩いた。大きな船だとは思っていたがここまで広く設備が整っているのか、と驚く。 「お風呂と洗面所はここ。あ、名無しあんた着替え無いんじゃないの?」 「あっ、そうでした...」 「ジャージだけど、私の貸してあげる。明日の洋服はあげるわ。あまり気に入ってない服があるの。」 「そんな、ほ、本当によろしいんですか?」 あれならあんたに似合いそう、と続けるナミさんの背中に本当にありがとうございます、と言うとナミさんは振り返り近づいてきた。 「...あんた、そのかしこまった態度どうにかならない訳?」 「態度、ですか?」 「そう、その敬語もいらないしメイドみたいに...って、メイドだったわね。とにかく、もっと肩の力抜きなさい。分かった?」 「はい、」 その迫力に咄嗟に返事をし、再び歩き出した彼女の背中を追った。 「妹みたいで可愛いのね。」 ダイニングでロビンが呟く言葉に確かにあんなに名無しの世話を焼いてる彼女は珍しい、とサンジは思った。 「放っておけないんだろうなぁ。」 ふふ、と笑うロビンにサンジはコーヒーを差し出し洗い物に取り掛かった。 展望室にやってきたナミと名無しは広い海を眺めていた。 部屋に入った時、筋トレをしているゾロさんにお邪魔します、と声をかけるとああ、と返してくれた。まだ敵対心を抱かれていたと思っていたがその短い返事にほっとした。 「海って広いですね…」 「そりゃあね、果てしなく広いわよ。」 「すごいなぁ...」 そう呟く彼女に、ナミは切なくなった。 自分の両親の為とはいえ10年も金持ちの屋敷にメイドとして仕え、どこへも遊びに行くことも出来ずに挙句の果てにその両親と会うことすら出来ないでいた名無しを何とかしてあげたいと思うようになっていた。 「...サンジ君が待ってるわ、そろそろ行くわよ。」 「はい。」 失礼します、と出ていく時もゾロに声をかけナミさんと共にダイニングへ向かった。 ダイニングへ戻るとロビンさんがコーヒーを飲みながら本を読んでおり、サンジさんは仕込みのような作業をしていた。 おかえりなさい、と視線をこちらへ向けるロビンさんに戻りました、と返す。 それを聞いたサンジさんが作業をしていた手を止めた。 「おかえりなさいナミさん!名無しちゃん!」 「わー、いい匂い!名無し、ルフィ達に嗅ぎつかれる前に食べちゃいましょ。サンジくんありがとう。」 テーブルに置かれたカップケーキに目をやりるとナミさんの言葉につられ、ありがとうございますと深々と頭を下げると、それをやめなさいってのとナミさんにぺし、と軽く叩かれた。 「どういたしまして〜!」 目をハートにしながら叫ぶ彼に驚きつつ、暖かいコーヒー、ではなく私には紅茶を淹れてくれた。再度ありがとうございます、と言うとどういたしまして、と笑った。 ナミさんの言う通り匂いを嗅ぎ付けた男性の皆さんがダイニングへとやってきた。 一気に賑やかになった中、ロビンさんが私に問いかけた。 「そういえば名無し、昼に寄りたいところがあるって言っていたけど。どこに行っていたの?」 美味しいカップケーキによって幸せに浸りつつ図書館です、と返した。騒がしかった空気は少し静かになり全員がこちらに耳を傾けた。 「図書館?調べ物でもしてたの?」 「はい...10年前の、あの集団のことを...」 ナミさんに聞かれ答えると空気が重くなり思わずすみません、と言うとなんで謝るのよ、とまたも怒られる。 不意にロビンさんが、カフカ...と呟いたのを聞いた私は目を見開いた。 「カフカ、って?」 「カフカ村...名無し、あなたそこに住んでいたんじゃない?」 ナミさんがロビンさんにそう問うと、私に聞いてきた。なぜ知っているのかと聞きたかったが、なんでもお見通しかのような瞳に何も言えなくなってしまった。 「ロビン、なんで知ってるんだ?」 「昼に名無しの話を聞いた時に思い浮かんだ事件があったの。ある集団がこの島の近くの村に毒ガスを撒き散らす事件。」 「......」 「あなたの故郷ね?」 カップケーキを頬張りながらウソップさんがロビンさんに問う。 そこまで知っているとは、ロビンさんの頭の中にはどれだけの情報がつまっているのかと感心しながら私は話し始めた。 「そうです、カフカ村は10年前に両親と住んでいた村です。でも何故襲われたのか理由は知らないままでした。知っているのは、助かったのは私達家族3人だけだということです。」 今でも鮮明に覚えている。嫌でも時々夢に出てくるあの光景が頭に浮かぶ。私の言葉に皆さんが沈黙する中、ロビンさんが続けた。 「はっきりとした理由は私も知らないけど資料を読み返してみたらその集団は捕まったそうよ。黒幕を除いてね。」 「え...」 「黒幕はその集団に金銭取引をして襲わせたみたい。そして捕まった集団に襲った理由を聞いたけど、誰一人はっきりとは言わなかった。...ただ、狩らなければいけないと口にしてたそうよ。」 狩る...?あの村からなにを? ロビンさんの話に頭が混乱する。あの村は平凡な、どこにでもあるような村だった。そこで何を狩るというのか。 「...考えさせてしまうようなこと言って、ごめんなさいね。」 「いえ、ありがとうございます...。そこまで調べきれていませんでした。」 少しでも真実に近づけたのは事実だ。本当に有難かった。 シン、と重たい空気をかき消したのはこの船の船長だった。 「だからよー、明日名無しの父ちゃんと母ちゃんを探しにいくんだよ!そりゃ、村の仲間達が死んじまったのは辛いだろうけどよ。」 なんで村が襲われたのかはそれからでいいじゃねえか!と続ける彼に、少し心が軽くなった。 「ありがとうございます、ルフィさん...」 「俺も手伝うぞ!」 「ヨホホホ!私もです!」 チョッパーさん、ブルックさんに続き、ウソップさんもよーし俺に任せろ!と声を上げた。 こんな人達に巡り会えたのは、あのキキョウを欲しいが為に潜り込んだからだ。やはりこんな時でも私はお坊ちゃまのお陰だな、と思ってしまう。 カップケーキを食べ終わるとまだ案内してない所があった、とナミさんが私をアクアリウムバーへ連れて行ってくれた。 「わー…!すごい、海の中に居るみたい...」 「でしょ?...名無し。」 「はい?」 これ、と差し出されたのは札束だった。 ルフィがご馳走になったでしょ、と言う彼女に私はその手を押し返した。 「いいんです、助けて下さったお礼をした迄です…!っそれに、私そんな金額出してません!」 はぁ、と息を吐くナミは私を黙らせるかのように無理やり札束を握らせた。 「...あんたが両親に会えたとしても、治療は続けなきゃいけないんでしょ?そんなお金、あるの?」 「......」 「大丈夫、ルフィにすぐ稼がせるから。受け取らないならぶん殴るわよ。」 殴る、の言葉にナミさんの顔を見ると怒ったような、切ないような表情をしていた。 「.本当に、本当にありがとうございます...」 「それ以上お礼言ったら本当にぶん殴るから。」 にっ、と今度は笑って札束を受け取る私を確認すると、先にお風呂入ってくるからその次に入りなさいとアクアリウムバーを後した。 受け取った札束を大事に大事にポケットにしまい、絶対にお父さんお母さんに会って幸せに暮らそうと誓った。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
|