11 「名無し!戻ってきたのか!」 チョッパーが驚いたように、そしてどこか嬉しそうに言うと名無しはルフィに連れられ申し訳なさそうにダイニングへは足を踏み入れた。 「えと、あの...」 「ルフィ、どうゆうことなのか説明しなさい!」 なんと言ったら良いのかと思っていると、ナミがルフィに指示した。 「こいつ今日この船に泊まるってよ!」 「説明になっとらんわ!」 ウソップがピシッと突っ込むと満面の笑みでにしし、と笑うルフィに皆が呆れ返った。 もしかして拉致まがいのことをしたのでは、とウチの船長なら有り得るとクルー達は心の中で思った。 「飯屋に入ったら偶然名無しも居てよ、話しかけて話し合ったらそうなった!」 そうなった!じゃねえよ!とウソップとナミが同時に突っ込むと、黙って見ていた彼女が口を開いた。 「あの、私に説明させて頂いてもよろしいでしょうか...」 「頼むぜ、嬢ちゃん。」 フランキーに返されると、ルフィと偶然会った時のことをゆっくり話し始めた。 ─数時間前 名無しは適当な店に入り、図書館で集めた情報を隅々まで一心不乱に読んでいた。どのくらいそうしてたのか、窓を見ると夕日で明るかった外はすっかり暗くなっていた。 屋敷はどうなっているだろうか、恐らくメイド一人居なくなった位では騒ぐことも無いだろう。代わりのメイドもいる事だし。 あの屋敷の住人をだんだん疑い始めている自分が居た。気がかりなのは、お坊ちゃまだけだった。 ふぅ、と一息つき紅茶を口にすると周りが騒がしくなっているのに気づいた。 「あの男、どんだけ食うんだ...?」 「底なしの腹だな…どうなってんだ。」 近くに座っていた男2人組が驚いた表情をしながら見つめる方へ視線を移すと、そこには見覚えのある麦わら帽子。 先程、もう二度と会うことはないだろうと思っていた人々の中の一人だった。 彼の座っているテーブルの上には大量の皿が重ねられており、それに乗っていた物が全て彼の体の中に入っているのか、と男達が驚くのも無理は無かった。 「ルフィ、さん...?」 思わず呟いたその言葉を、ルフィは聞き逃さなかった。自分の名前を声にした彼女を見た途端に、おー!名無しじゃねえか!と叫んだ。 「おっちゃん、ちょっと席移る!」 律儀に店主に声をかけると、こちらへと駆けてくる。また会ったなぁ!と言いながらルフィは名無しの座っていたテーブルの向かいに座った。 「お前、ここで何してんだ?」 「ちょっと休憩を...ルフィさんはお食事ですか?」 「おう!今腹五分目ってとこだ!」 あの量を食べて...?まだ五分目...? 人の胃袋事情は分からないものだな、と思っているとルフィはそうだ、と声を上げた。 「お前今日どこで寝るんだ?屋敷に帰んのか?」 「あ...まだ決めてないです。屋敷には、戻らないつもりです。」 「そっか!じゃあ俺と船に戻ろう!」 彼の言ってることが理解できなかった。昨日といい、今日といい、船の方々には迷惑をかけっぱなしで最低限のお礼の言葉を口にする事しか出来ていないのに、また戻ってどうする。 「あの、ルフィさんお言葉は嬉しいのですが、私はもう船の方々にこれ以上...」 「お前、なんでいつも暗い顔してんだ。」 自分なりの愛想笑いをしてたつもりなのに、ルフィさんは私の言葉を遮るように言った。 自分はそんなに暗い顔を、していたのか。 どんな顔をしたら良いのか分からず、ルフィさんに見えないように顔を伏せた。 「お前、10年間その屋敷に居たんだろ?旅とかしたことあんのか?」 「旅...?」 「おう!海は広いぞー!ワクワクするし、自由だ!」 旅なんて、そんな呑気な事出来る立場ではない。生きているだけで十分だと思い続けてきたから、したいと思ったことも無かった。 「自由...」 「そうだ!お前、自由になりてえと思ったこと無いのか?」 「......」 考えたことも無かった。自由だなんて、その定義も分からなかった。そりゃ村に住んでいた頃は自由に遊び回っていたが、あの屋敷でそんな事出来ずにここまで来たから。 「私は、あの屋敷でメイドとして働いて、それで両親が元気になってくれたら、」 「それが本当にお前の本心なのか?」 その言葉に思わず顔を上げると、ついさっきまで笑顔だった彼は真面目な顔つきになっていた。 「父ちゃんと母ちゃんに会いたいんだろ?」 「...」 だったらさ、と続けて彼は言った。 「探しに行こう!」 満面の笑みで言うルフィさんに圧倒されながらも意外と話を聞いてくれてたんだな、と感心した。船で私の生い立ちを説明してる時、興味が無さそうな顔をしていたから。 両親を探しに行こう、そう言われると私の心の中に光が差した気がした。しかし。 「探しにっていっても...どこに居るのか分からないんです。」 「そのドクター何とかを探せば良いんだろ?」 「彼もどこに居るのか...」 「だからそいつも探し出して、父ちゃんと母ちゃんも探しゃ良いじゃねえか!」 どうしてそんな簡単に、と返そうとしたが彼を見ていると何でも出来そうな感覚に襲われる。本当に両親に会えるような。 「もう暗えし、明日行こう!今日は船に泊まれよ、戻ったら世界一美味い夕飯も待ってるぞ!」 そんな言葉に甘えていいのか?なんで?あの船の人達はこんなにも、 「ここでまたお前と会ったのも何かの縁だしよ!」 優しさで溢れているんだろうか。 「...まあ、結局ルフィが勝手に決めたってことね。」 ナミさんが呟くと気にすんなっ、と返すルフィさん。 やはり間違っていたのだろうか、今だったらまだ引き返せる。これ以上の迷惑はかけられない。 「そうだナミ、飯代足りなかったから名無しが出してくれたんだぞ!」 「え、そうだったの!?って、お前が威張るな!」 ゴツン!とルフィさんを殴るとナミさんは此方へと歩いてきて、そうなれば...といいながら私に向き合った。 「名無し、泊まっていって。これは船長命令だから。出してくれたお金のお礼もさせなきゃね。」 ルフィさんを指さし微笑みながら言うナミさんに見惚れていると、ほら早く座んなさいとテーブルへと手を引かれた。 サンジさんの作った食事は屋敷のシェフのよりも遥かに美味しかった。世界一、とルフィさんも言っていたが過言ではない。 「美味しい...!こんな美味しいご飯、食べたことない...」 「嬉しいなぁ!名無しちゃんの為に丹精込めて作った甲斐がある!」 なんだかクネクネしながら言う彼に、昼の医療室での彼を思い浮かべながら同じ人だろうかと疑問を抱いた。 「だから言ったろ?サンジの飯は世界一美味いって。」 ルフィさんの言葉に頷くとフランキーさんが私の方を見て、嬢ちゃんそんな顔もするんだな、と言った。 そんな顔とは、どんな顔なのだろうか。思わず頬に手をやり顔を引き締める。 「あら、せっかくとても可愛い顔だったのに。フランキーのせいで...」 「ロビンちゃんの言う通りだ、てめえ!名無しちゃんのめちゃクソ可愛い笑顔がっ!」 「うるせえな、酒が無えぞ。早く持ってこいラブコック。」 てんめぇ...!とゾロさんに青筋を立てるサンジさんをブルックさんがまぁまぁ、と宥める。 また可愛いと言われ少しドキ、とした心臓を抑えながら何故かその様がとても可笑しく、ふふっと笑ってしまった。 天使かよ…と呟くサンジさんを余所に私はこの瞬間を心の底から幸せに思った。 大量にあった食事は見事に無くなり、大量の食器だけが残った。 食った食った、と言いながら各々は食器をシンクへ持っていく。その光景に違和感を覚えながら私も急いで残された食器を片付けようと立ち上がった。 「名無し、サンジの飯美味かっただろ!」 「あ、はいっ、とてもっ」 ルフィさんに声をかけられ私の返事を聞き満足そうにした彼はダイニングを後にした。 それを見送り食器をシンクへ持っていくと、すかさずサンジさんがありがとう、とそれを受け取った。 「あの、洗い物させて頂けませんか…?」 「え?ああ、いや大丈夫だよ。その気持ちだけ受け取っておくから。何か飲み物入れるから、座ってて。」 「でも、ご馳走になった上に宿泊させて頂くだけではっ...」 何でもいいからお礼をしたかった私はサンジさんに粘り続けるが、その様子見ていたナミさんが声を上げた。 「名無し、大人しく座ってサンジくんに甘えときなさい。」 そして、思いついたようにそうだ、と続けて私を船内を案内すると言った。座っていた彼女は立ち上がり私の手を引くとサンジさんに声をかけた。 「サンジくん、またあとで来るわ。」 はーいナミすわ〜ん、という彼の返事を聞き私達はダイニングを後にした。 前へ / 次へ [しおり/もどる] ×
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