LONG "To the freedom." | ナノ



8



扉を開けたその先には裏庭へと続く階段があった。思っていた通り、ここは普段裏庭の手入れをしている時に目にする扉。
ここへは入ってはいけないと言われてきた。無論普段から鍵がかかっている為入りたくても入れなかったのだが、名無しは不穏な雰囲気を漂わせるその扉を開けたいと思った事は一度も無かった。


「不気味な訳だ...」

誰かを閉じこめるような部屋と、この出口へ向かう長い廊下を歩いているといくつかの書斎、そして薬品の匂いが漂う部屋があった。

階段を登り裏庭へ出ると自室がある部屋の窓へ向かった。部屋は1階の隅にあり、当然だがこの窓も鍵がかけられている。少し考えた末、窓に手を掛けてみた。

ガチャ、と控えめな音を耳にすると窓を横へスライドすることが出来た。開けられたそこへ足を掛け部屋へ入ると小さなポシェットとペンダントを手にすると再び窓から外へ出た。

幸い裏庭には護衛の者は居らず、何とか高いフェンスを乗り越えると屋敷の敷地外へ出たその足で街へと向かった。







「昨日とは打って変わって、すげえ賑やかだなー!」

麦わらの一味は今日こそ食料を調達するべく船番にゾロとブルックを残し街へと足を運んでいた。
行き交う人々は彼らが海賊だとは露知らず港から海賊船が姿を消した事に安堵し、いつものように過ごしていた。昨日との明らかな違いに思わず船長が心の声を漏らした。


「この島は珍しく四季がはっきりしていてね、住みやすいのよ。だからここを居住にしてる人が多いのね。」

航海士のナミがクルーに説明するとまたも船長が声を上げる。


「俺飯屋行ってくる!ナミ金くれ!」
「あんたさっき散々ご飯食べたでしょうが!!サンジ君達と食料調達に行きなさいっ!!」

船に載っていた残りの食料を昼に平らげたはずのルフィはナミにお小遣いを要求するも、頭からチョップを喰らいながら怒鳴られ、まだ食えるぞ!と返すと威張るな!とまたもチョップを喰らった。

その後ナミは服屋へ、ロビンは本屋へ、男衆は食料調達を言い渡された。


「ちぇーなんだよ、この島の飯食いたかったのによー。」
「なーんで俺達だけ食料調達なんだよー。」

ルフィとウソップが文句を垂れると2人の肩を背後からがっしり掴みながらサンジが青筋を立てていた。

「俺だってナミさんとロビンちゃんとショッピングを楽しみてえよ...!だがお前らが、特にルフィ、お前がありったけの食料を平らげたお陰でまた大量の食料を調達しなきゃならねえんだ...!船に積めるだけの食料買うから黙って着いてこい...!来ねえなら飢え死にさせるぞ!?良いのか、アァ!?」
「「はい、分かりました。」」

3人の様子を見ていたフランキーはやれやれ...といった素振りを見せ、その足に隠れるようにサンジの怒りの表情に怖ぇぇと怯えるチョッパーがいた。






マラク邸から抜け出し名無しが向かった先はこの島で1番大きい病院だった。両親を診てくれている医者とは度々マラク邸に訪れご主人様を尋ねてくる為メイドの自分ともいつも挨拶を交わし、そして必ず両親の事でお礼を言うという間柄でありお互い顔もはっきり分かっている。

しかし、この病院へ来て両親に会う事をご主人様に承諾されていない事を知っているだろうか。もし私の姿を目撃され屋敷へ連絡されたら厄介だ。
だがどちらにせよ、あの地下の部屋に私の姿が無い事に直にストンが気づくだろう。


「行ってみるしかない。」

病院の入口を抜け、ロビーに居る受付の女性に尋ねた。両親の名前を告げると、何やらモニターで検索してくれているようだ。
しかし、女性の口から発せられたのは予想外の答えだった。


「申し訳ありませんが、該当する患者様はこの病院には居ません。」
「え...」

開いた口が塞がらなかった。そんなはずない。間違いなくこの病院で、あの医者に診て貰っているはず。
こうなったら、別の手段を取るしか無かった。

「ドクター・ガフにお聞きしたいことがあるんですが。」
「誠に申し訳ありませんが、ドクター・ガフはただ今席を外しております。」

なんでこんな時に。受付の女性にお礼を言うと病院を後にした。
確かに両親はこの病院に居るはず。その筈なのだけれど何か嫌な予感が頭をよぎった。
もしかして、どこか隔離された病室にでも隠されている?私が訪れた時に会わせないように。だとしたら、なぜ?

またあそこへ戻らなければならないのか。
私は兎に角重い足取りで来た道を戻って行くしかなかった。
こうなったらご主人様の口から説明してもらうしか他はない。やっと両親の顔を見れると思ったのに。





屋敷が近づくとその入口の扉の前に馬車が止まっており誰かが乗り込む様子が見えた。

ドクター・ガフだ。

まさか屋敷に訪れていたとは。何かに背中を押されるように走り出すと同時に馬車も屋敷を出ていく。


「待って...!」

こんなチャンスあるだろうか。屋敷に戻ればまた地下室に閉じ込められ一生出してくれないかもしれない。いや、この屋敷は来週には空き家になる。私は今度こそ追い出されるだろう。

屋敷を通り過ぎ、走る私と馬車との間隔は一向に縮まらない。まるでこちらの存在に気づいてるかのようにいつもより速く走る馬車は街へと向かっていき、その姿を見失うまいとあとを追いかけていった。







「なぁーサンジー。まだ買うのかー?」
「これでもまだ半分くらいだ。それ以上文句垂れるなら蹴り飛ばすぞ。」

ウソップはそう問いかけるとサンジに苛立った様子で切り返されごめんなさい!と謝罪しながら大量の食料が積まれた台車を引きながら歩く。


「一度船に戻った方がいいんじゃねえか?さすがにこの台車に乗る量は限界がある。」
「あー、そうだな。しょうがねえ、一旦戻るか。」

フランキーの言う通り今5人が引いている台車はもうすでにいっぱいになっており、このまま買い物を続けるのは難しかった。ひとまず船に戻ろうと足を船の停めてある場所へ向かわせるとその横を勢い良く馬車が走り抜ける。


「うお!なんだあ!?」
「わわっ!あぶなかったなー...。もう少しでぶつかる所だった。」
「こんな街中であんなスピード出すとは何考えてんだ!」

ルフィ、チョッパー、ウソップ思わず声を上げる。走り去る馬車を見送りながら幸いぶつかるのを防げたことに安堵し、再び歩き出すとまたも5人の横を誰かが駆け抜けていった。
その人物を目で追うと、これまたいきなり路地から出てきた子供の肩に少しぶつかってしまっていた。


「っごめんね、…っ大丈夫?」
「うん、大丈夫。」

ぶつかった子供にしゃがんで声を掛けるその人物はかなり息が上がっており、そして女だと確認できた。
その女は子供に何も無いと分かると再び立ち上がって馬車が走っていった方を見ながら肩を上下させていた。

5人は女の所まで追いつくと、横目でその顔を見やった。1番最初に気づいたのはこの船の船医であるチョッパーだった。


「あ!お前昨日の!」
「...え?」

女は曇った表情でその場から暫く動かなかったがチョッパーに声をかけられると、はっとした顔で5人の方へ目線を移した。
そこには昨日乗り込んだ海賊船の鹿の子が被っていた帽子と同じものを身につけた大男と、どこかで見た顔全員が自分を見ていた。

その他の船員だと気づいたその瞬間クラ、と全身の力が抜けるようにその場に倒れた。







「なんでまたあの女を連れてきたんだよ!グル眉!」
「うるせえな!黙ってろきマリモ野郎!」

サウザンド・サニー号では怒号が飛び交っていた。食材調達で街へ出ていった仲間達が大量の食料を持って帰ってきた4人に加えこの船のコックが、昨日我々の船に潜り込んで来た娘を抱えていたのだ。

ゾロは眉をひくつかせながらサンジに声を上げる。


「女好きも大概にしろってんだ、このエロ河童!」
「なんだとクソ剣士!てめえ三枚におろすぞ!」
「ちょっとあんた達うるさいっての!」

止まない口論にナミが堪らず2人に拳骨を食らわせ大人しくさせる。娘を診ていたチョッパーが医療室から戻ってきた。


「チョッパー、どうだった?」
「うん、病気とかの心配は無いよ。疲労で倒れたみたいだ。寝て休めば大丈夫。」

女が倒れたその時、医者ー!!と叫ぶといやお前だろ!とウソップに突っ込まれこのまま見て見ぬフリは出来ないと仲間に訴えかけると、勿論だと言わんばかりに娘を抱き上げたのがサンジだった。
ルフィとフランキーも見捨てる事は出来ないと賛成してくれたが、ウソップは昨日のこともあり娘をもう一度船に連れて帰ることを不安がっていた。しかし何か害を及ぼすような人間ではないと分かっていた為反対する事は無かった。


「そっか!よかったなー!」
「ありがとうな、チョッパー。」

満面の笑みで言うルフィの後に次いでお礼を言うサンジに大したことしてねぇよコノヤロが、とニヤけた顔で返すチョッパーだった。




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