そんなの、私とは縁がない世界の話だと思ってた。 「ほんとーだっっっって!!!」 実際に起こるとは全然思わなかった。 「やーでもさー、あいつに限ってそりゃ無いだろー」 だってあいつに限って、私の彼氏に限って、 「いやいやいや!俺見たんだよ!!叶が針間じゃない女子と二人で歩いてたの!!!」 そんな事ある訳ない。 廊下の冷たい床にずっと正座していたから、足がビリビリ痺れてきて今にも悲鳴をあげそうだ。それでも立ち上がることは出来ない。今私は教室の中で繰り広げられている大切な会話に耳をすませているところなのだ。老若男女関係なく内緒話をする人間は物音に敏感になる。もし私が立ち上がろうとして万が一の可能性でドアに頭をぶつけたりしたら、あの男子三人組は電波を受信したかのように駆け寄ってくる。そして音の現況が私だと解ったら気まずすぎる空気が流れる。居たたまれないことこの上ない。 私が男子校舎に居るのが不味いとかなんとか言うあれはね。大丈夫こっちの先生と私仲良いし叶のクラスメイトとも仲良さげだし、うん!問題ない。 「え〜?」 「…その女子可愛かった?」 「んー顔はよく見えなかったからなあ。でも可愛い感じだった!」 「あちゃー。針間負けたな」 失礼な。私だってそんなに悪くないでしょうが。いや、ギャグじゃない。 でも…あいつはそうなのかな。叶は私にたまーにだけど可愛いってすっごい照ながら言ってくれるけど(そしてそんな叶が私は可愛いと思うのだけど)、あれは本心からじゃなかったのかもしれない。いや、でもあの男がそんなに器用とは思えない。マメで真面目一本調子のちょっとお堅い奴なのだ。だからこそ私はあいつに惚れた訳で。ちょっとお堅いけど誠実で優しいところが大好きな訳で。 「……お前ホントに見たの」 「…えっ」 「見たんだってば疑り深いなあ」 「ちょっ佐々木っ」 「何処で」 「あいつん家の近くの坂道――…っておまっ…針間!!」 「あーもー…」 「あーあ…」 叶がそんな事する訳無い。叶はしない。告白した時は照れちゃって絶句した男だ。手繋ぐのに半年掛かった男だ。キスもまだ出来ない男だ。そうだよ。叶だよ。叶なんだから。 「ふーん…」 「あの…針間?」 「俺等、その、からかいたかった訳じゃなくて…」 「素直にビックリしてただけなんだ。まあ、言い訳なんだけど」 「………………」 しゅんとする男子諸君を後目に、さっき何かしらの虫に刺されて痒い所をがしがしと掻きむしる。 「…っ針間!その…ごめ」 「あ、別に良いよ」 「…………え?」 「ん?」 「…」 「あんた等が悪い訳じゃないじゃん」 「……針間…」 「貴女って人は…」 「……………」 「何って優しいんだ…!!」 「おお…メシア…!」 「……………」 おいおいと泣く真似を始めるきっと佐々木と多分真壁。それと何も読み取れない目で私を見る確か瀧。叶はクラスのリーダーみたいな奴だからこいつ等の信用は厚い。流石叶でしょ。ふふん。 こいつ等も解ってるんだ。叶の事。 「…行こう」 「えっ何処へ!?」 「僕達も行くべきですか!?」 「……針間、お前叶と帰ったんじゃなかったのか?」 「帰ってたんだけど忘れ物取りに来たんだよ」 「叶は?」 「悪いから先行ってて貰った!きっともう着いてる」 叶だよ。叶なんだよ。浮気何かしない。 「…叶のとこ、行くのか?」 「うん!」 「お、俺一緒に行きましょうか!?」 「俺もっ」 「良いよ別にー。大丈ー夫」 「いえっ行きますよ!!」 「良いってば」 背負ったバッグが重い。殆ど漫画だけど。 「んじゃっ」 あんなにストイック気取ってんのにこれでホントに浮気何かしてたら、 「やっぱ行きます!」 「行きます!!」 「………」 指差して笑ってやる。 「来なくてだいじょぶだってば」 「行きたいんです!」 「俺も!」 「…良いけどさ」 後ろのドアを開けて、足を踏み出す。叶の所に、確かめに行くんだ。 「針間、」 「かっ」 「かっ」 「…」 「…叶…っ!」 さっき私が座ってた所に、パンパンに詰まった重そうなバッグを背負って真面目な顔をした叶が、腕組みして立っていた。じとっとした面白くないって目で私を見てる。 「………叶、今の聞いてた?」 「うん」 間髪入れずに返事が来た。これはヤバい。 「あの、さ」 「うん」 叶、怒ってる。 「……………」 「……何?」 怒る所見るとやっぱり浮気なんてしてないんだ。良かったなんて不謹慎だけど安心した。 さあ、どうする。後ろの三人は黙りでそれぞれ違うところを見てる。なんか悪いなあこんな気まずい空気吸わせて。 「………針間」 「…ん、」 「俺が、浮気するとか思ってんの?」 叶の目が、きっと光った。 「思って無いよ」 組んでた腕は下に下ろされ、握り拳を作った。 何とかしなきゃ。このままじゃ、喧嘩になる。 「じゃあ何なんだよ。思ったから疑ったんだろ」 「ちょっと思ったけど、考えたらそんな訳無いって思ったんだよ」 「…今思って無いって言ったじゃん」 「っちょっと説明が足んなかったの!そん位目を瞑ってよ!」 叶が目をそらして俯いた。こっちを見てない。 「…でも、ちょっと思ったんだろ?」 「―――ッ!!仕方ないじゃん私だって不安になる事位あるよ!」 「…仕方ないんだ」 「っ」 俯いたせいで叶の目は見えない。これじゃあ何を考えてるのか解らない。何を思ってるのか解らない。予想しか立たない。喧嘩は嫌なのに、このままじゃ。 痺れを切らして叶の前まで行き、肩を掴んだ。 「…叶!」 「……離せよ」 「っかの」 「俺今みっともないから離せ!!!」 音を立てて手が振り払われて、でもそのまま、ぎゅっと握られた。 その手は気付かないくらいに小さく震えていて、冷たい。私はこの大きな手が好きだけど、今は、小さく弱く見えた。 「お前が辛いのは十分解ってるんだけど、不安になるのも解ってるんだけど、考え直して信じてくれたってだけで嬉しいんだけど、でも、」 「…………」 「何か、何か、頭ん中もやもやして、…ごめん」 「叶…」 手を握る力がだんだん弱くなって声の怒気も下がっていく。叶はまだ顔を上げてくれない。そのまま離れそうになった手を握り返した。どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。 「あのっあのね、叶っ」 「………」 励まさなきゃ、どうにか、元気付けなきゃ、だって叶は。叶は別に何も。 「疑ったけど、そう言う事になるけど」 「……………」 「それはっ…それは私が叶の事を大好きだからだよ!」 「…!」 「…何の弁解にもなってないけど」 ふっと持ち上がった顔には、笑顔が広がってた。 そうだよ、 その笑顔が見たくて 「ほあー」 「凄いんだな愛の力って」 「なー。俺もいい加減彼女欲しいわ」 「俺も俺もー。可愛い彼女欲しー」 「…………」 「…まあまあ、瀧、」 「なに」 「そう気を落とすなよ」 「別に」 「ピリピリすんなって。今日はパーッと飲もうぜ!」 「うちにポカリ2リットルペットであるからそれでいいよな!」 「…ああ。全部飲んじまおうな」 ‐‐‐‐‐‐‐‐ 三星学園のシステムがいまいち解らない…寮なの? そして変に長いな^^ 20101114 [#まえ]|[つぎ*] |