「神田くん、またそんな無茶をして」

「治るんだから別に良いだろ」

「そう言う問題じゃないだろう?馬鹿」

「バカって言う奴がバカなんだよバカ」

「僕は実質的に馬鹿じゃないから良いんだよ馬鹿」

「意味がわかんねえよバカ」

「さすが馬神田くん馬鹿だね」

「黙れバカコムイ」

「おっとそろそろ行かなきゃだな。じゃあね馬神田くん。大人しくしてるんだよ」

「死ねバカ」

個室のドアを騒がしく嘶かせてバカは出て行った。出て行く時くらい静かに出来ないのかあのバカは。
此処はとある国のとある病院だ。解らない訳ではない。断じて。この病院には片手で足りる程しか個室がない。だから、よっぽどでない限りそこには入れて貰えない。しかし、教団名義だからこそ此処に寝ていられる。他人と同じ部屋なんかで眠れる訳がない。こう言う時は教団は役に立つ。

さて。寝るとするか。こんな所に閉じ込められて、出来る事と言えば寝る事くらいだろ。コムイは無駄に心配していたが、俺の傷はもうとっくに塞がって、跡も消えている。だから包帯も取った。今日の診察(要らん事を…)も終わった。コムイもやっっと帰った。睡眠の障害はない。
痛みと長く付き合うことを経験しなくて済む身体なのはあいつも解っているのだ。他の奴等のように便利だと馬鹿みたいに言っていれば良いものを。

この治癒力を、どんな人間も皆好奇の目で見た。今回の主治医も、看護婦も例に漏れない。ファインダーも、科学班も。エクソシストも、事情を知っている上層部は尚更。
そして、何も知らない奴等ほどぺちゃくちゃと口を動かす。指を指してひそひそと、許可もなく会話の肴にする。影では陰湿な笑みを浮かべている癖に、俺が近付いていくと途端に青ざめて、言い訳しながら逃げていく。別にお前なんぞに用がある訳ではない。影で言う奴等に限って肝が小さくて弱い。自意識過剰も甚だしい。
まあどうでも良いのだ。そんな事は。
不愉快だが仕方がない。他人がどうだろうが関係ない。

目を瞑り、睡魔が寄ってきた。寝るしかないのなら寝るしかない。
暗闇に堕ちていくと思った、その時。

「ちょーっとお邪魔しまーっす」

迂闊だった。窓の鍵が開いていた。その窓を見ず知らずの女が開けて、入ってきた。

そんなまさか。そんなまさか。あまりの行動に口を開けて数秒硬直する。そんな。まさか。しかし、何度睨んでもこめかみをつついても、見た事の無い顔だ。

「ごめんねー急に入ってきちゃってー」

「………………………何の用だ」

隣に置いてある六幻に手を添える。アクマか…?

「やー。ちょっと今追われててさ、匿ってください」

「無理だ」

「まじでか!ありがとー!助かるぅ!」

「話を聞けバカ!」

「まあまあキレんなよアホ」

「あっ!?」

アホだと!?なんだこいつは!アクマか!?アクマだな!?だから斬って良いな!?よし。
六幻を握り、布団を千切らないよう気を付けて(コムイが五月蝿いからな)構え

「って、ねえ。君さあ、昨日運ばれてきた人だよね?」

ようとした手が止まる。昨日もこの病院にいた。この病院内で死人が出たなど医師からも看護婦からもコムイからも聞いていない。アクマならば大量に死ぬ筈だ。ならばこいつはアクマじゃない。仕方なく六幻を元あった俺の隣に寝かせ直して、俺も寝る事にした。アクマじゃないならばこんなのは放っておけば良い。

「あら、寝ちゃうの」

「悪いか」

「悪いわアホ」

「あっ!?また言ったなお前!今度こそ殺す!!」

「やっぱり」

気付いたら窓辺に立っていたそいつは近付いていたらしく、起き上がって振り返った途端目の前に居た。一時停止してしまった。

「なっ」

そいつは俺の腹をまさぐっていたのだ。何かを確かめるようにも見えたが、変態か!兎に角触っていた手を掴んで制止させた。

「包帯取ったって事は、傷、もう治ったの?昨日あんな血塗れでワゴンに寝てたのに?」

「ほ、放っておけ。関係ねえだろ」

「まあ良いじゃんよー。患者よしみで教えてよ」

「…………」

「何で治ったの?そう言うあれなの?神さんのご加護?」

「…そう言うあれなんだよ」

「……………」

こいつも、そう言う目で見るんだろ。解ってるぜ。

「えっまじ!?すっげー!!!」

「…は、え、」

「ボケたのかと思ったびびったー」

「………」

「まさか今更嘘とか無いよね?」

「…嘘じゃ、ねえよ」

「うん。そしたらKYだもんね」

「だまれ」

そう言う目じゃ無い訳ではない、けれど、違う。
馬鹿にされてる気がしなくもないが、でも、違う。こんなヤツは、滅多に見ない。希少価値過ぎる。変な奴だ。最初見たときから変だと思ったが、変だ。やっぱり。

「ちょ、試しに一発殴ってみて良い?」

「黙れ」

感情理論

矛盾だからどうした



「そう言えば名前なんて言うの?」

「…………………」

「ああ。名前はまだ無い。みたいな?」

「神田ユウ」

「は?」

「神田ユウだ」

「ああ!名前か!」

「何なんだよお前は」

「イニシャルはKYだね!」

「YKだ!」







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よく解んないなこれ
神田くんです


20101128







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