手を繋ごうとしたら弾かれるとか、普通に誉めたら真っ赤になられるとか、うっかり手が触れてドキッだとか、そう言う次元じゃない壁が、俺とこの娘の間にあるみたいだ。 「えーと…針間?」 「っ」 ギシッと言う音が聞こえた気がした。石みたいに硬直したまま俺から目を反らして黙っている。こんな空気の中で何分保つ人なんだろうかとちょっと考えた時丁度、大きな音を立てて針間は立ち上がり、逃げる体制を取る。 え? 「ちょ、待って!」 「!!ッ」 「ぎゃっっ」 とっさに手首を掴んだら、彼女の身体が大きく飛び上がった。こっちもビックリして唖然としていたら、そのままぐしゃりとしゃがみこんでしまった。身体同様だらりとしている腕の、掌との接合部分はまだ俺の手の中にある。離すタイミングを失った。このまま急に離したら床にべちって当たって痛めるかもしれないし。とりあえず、腕も身体も同様に意思を示しては居ない。 何だか心配になったので握る手に力を込めたら、起動し始めたポンコツのパソコンみたいにまたびっくりどっきりはね上がり、わなわなわなわなと震え出した。 どうしたら良いのか解らなくて、とりあえず手は離さない。 どうしよう。 元々、この針間ちかはこんなおっかなびっくりな娘ではなくて、特に目立つわけでは無いけど存在感のある、普通の娘なのだ。仲の良い女子と普通に笑ったり、ふざけたり、ちょっと怒ったりするような。その笑顔が印象的で、俺が最近ちょっと気になってる…のはおいといて。とりあえず普通の娘。特に男子が苦手とか言う素振りを見せた事もない。普通に花井と話してるのも見た事ある。ここ数ヶ月同じ空間に居て直接話した事が無いってのも希少価値だけど、話してみたい。あわよくば。みたいな。 だから、数学の補習みたいなのの呼び出しで名前が二人分呼ばれた時はちょっと嬉しかった。 んだけど。 「えーっと…針間?」 「〜〜ッ」 胃がひっくり返ったみたいな音がした。や、今の、声? 「だ…いじょうぶ…?」 や、ばい。やばい、多分。だって掴んでる手首が今までに見た事無いくらいガチガチに震えてる。どうしよう。 「…………………………………………………て……」 「へ?」 「………………て、を…………………」 「?」 聞こえない。 「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」 「あっ!」 手を振りほどかれた。びっくりして変な声出しちゃったよ…。 今さっきまで握ってた手は、へたりこんで居る少女の胸の前でもう片方の手に握られている。彼女の肩の揺れは全然治まらない。 ど、どうしよう。 俺、知らない間に何か…。 「ち、がう、…の」 「え?」 「ちが………う」 「違うって?」 「っ!……………あ…、と、」 「…」 やっばい。ドキドキする。 「違う。あの……………………………………………うち、」 「…」 「こんな、感情……………はっはじ、初めてだから、」 「!嫌いだからじゃないって事!?」 「っっちがうっ」 凄い勢いで振り向かれて、またもやびっっっっくり。針間の顔は真っ赤っ赤で、でも何だか青冷めている。 違うの? 「嫌いなんじゃ、無いの。た…だ…あの…」 「うん」 「ぎゃ………」 「ぎゃ?」 「……………………………………………………………ぎゃく、と言うか…………………………」 「ああ!!好きって事か!!!!」 ろくじゅうぶんのいち たった一分程度の会話でも、世界が変わる事がある 好きって、こう言う物なんだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐ やりすぎな位極端な娘を書きたかった気がする 20101116 [#まえ]|[つぎ*] |