※めちゃくちゃシリアス
※しかも絡みが少ないです
※自殺的表現があります

苦手な方はバックプリーズ







私、貴方のお陰で生きてきた。貴方が居たから生きてこれた。貴方が居たからあんまり寂しくなかった。貴方が居たから笑えた。貴方が居たから幸せだった。貴方を信じたままで生きて、信じたままで死のうと思った。

うん、重いよね。私だってちょっと引いたもん。あんまり重いから、こんな気持ちは心の中にしまった。言う気もないし言いたくもない。一緒にさえ居られれば良かった。隣に座ってお話ししながら笑い合うんだよ。それが一番の幸せ。
だから。




「ちか!何で逃げるんだい!?」

「来ないで!!!」

「ちか…っ」

「…………ごめんなさい…っ」

明らかにショックを受けたコムイの顔に、謝罪の言葉が飛び出す。その声は思いの外小さくてどんどん離れていくコムイに届く筈のないものだった。でも、今私は駆け寄ってハッキリと謝れるような心境ではない。て言うか駆け寄れないし。今足を止めたら完璧に直ぐ捕まってしまう。一番のスピードで進んでいるつもりでも、端から見ればスピードなんか微塵もないんだから。出来るだけ早く、出来るだけややこしいルートを使って外に出よう。本当はコムイに会うつもりもなかったんだけどな。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。伝わらないけど、せめて自己満足でも。




何でこんな事になっちゃったんだろう。
お爺ちゃんは“適合者”だった。当然のようにこの戦争に連れ込まれて闘ったんだろう。その証拠に、私はお爺ちゃんに会った事がなかった。物心ついた時には親戚は殆ど居なくなってて、辛うじて直接は血の繋がって居ないお母さんと二人暮らし。お母さんは明るく振る舞っていたけれど、いつも何処か怯えていた。毎晩二人でダブルベッドの真ん中に固まって寝ていた。お母さんは寝ている間一時も私の手を離さなかった。彼女が寝付くまで、震えて仕方ないその肩を、私がずっと抱き締めていた事もあった。お父さんやお爺ちゃんの事や、教団やアクマについての話を聞いたのは確か七歳か八歳の頃。話してくれたのは鳩子のお姉ちゃんだった。その時はアクマや何かなんてお伽噺か何かかだと思えなくて、でもとにかくお母さんが怖がってる理由と私がお母さんを守らなくちゃいけないことは理解した。それからは余計にお母さんに迷惑を掛けないように掛けないように精一杯頑張った。

此処にお母さんと連れてこられたのは、その二年くらい後。

どうしてこんな実験があるんだろう。どうして教団があるんだろう。どうしてアクマなんか生まれたんだろう。どうして伯爵なんか居るんだろう。どうしてこんな世界なんだろう。どうしてお爺ちゃんの孫に生まれたんだろう。どうして私、生まれてきたんだろう。
そんな思考ばかりが止まらない夜が幾度となく訪れた。
そして、適合実験に耐えられなくて逃げ出した時に偶然、コムイに出会った。コムイは私を見るなり私を肩に担いで走り出して、それで私は何か知らないけど笑ってしまって、それ以来仲良くなったのだ。

教団の事とかアクマの事も沢山話したけど、それ以外の事はもっと話した。楽しかった。コムイは月に一回は話しに来てくれたし、科学班の話や妹さんの話をする時のうれっっっしそうな顔ったら無いのだ。私はコムイのその顔が凄く好きで。
それに私は思いの外身体が丈夫らしくて、二年が経った今でも視覚と聴覚が働いて、歩くことも一応出来た。顔も大きな外傷はなかったから、会う時はちょっと化粧すれば良かった。

でも、もう、会えない。
顔に今日の実験で、遂に右の頬と額の一部の肌が死んだのだ。色がひどくて、化粧では誤魔化せない。もう会えない。会えない。こんな顔じゃ、会えない。

もう、終わりだ。
いつの間にこんなにコムイに依存してたんだろう。コムイ迷惑じゃなかったかな。迷惑だったろうな。でも、私の事嫌いじゃなかったら良いなあ。好きじゃなくても、嫌いじゃなければ良いかな。ちょっと悲しいけどさ。

あーもう、良いや。
コムイ、優しくしてくれた分、返せなくてごめんね。コムイのお陰で生きたいと思えたよ。コムイのお陰で楽しかったよ。そう言うだけでも、コムイの奴は笑ってくれただろうな。

流石にこの絶壁から降ちれば死ねるよね。余裕で死ねるよね。うん。怖いけど、恐いけど、生きていくにはこの障害は辛すぎる。私はなんでこんな弱いんだろうな。でも、そんな嫌いじゃなかったんだけどね。


「ちか!!!!」

三階くらいかな。その辺りの窓からコムイが身を乗り出して私の名前を叫んでいた。

「コ……ムイ…」

寒いでしょ。そんなに乗り出したら落ちちゃうよ。って言いたかったけど、喉が痛くて声が出ない。雪も降ってるし、きっと叫んでも届かないな。

「何してるんだ!!」

困ったな。

「………………」

流石に見てる前で落ちるのは嫌だ。

「………っ!今!行くから!!行くから!其処で待ってなさい!!解ったね!?!?」

ねえコムイ、

「……………」

そんなに叫んだら、声がかれちゃうよ。急がなくて良いよ。急いで転んだりしたら痛いでしょ。それに外は寒いからさ。来なくて良いよ。

私のために無理しないで。
って言うのはまあ、一回は言ってみたかった台詞ランキングで三位くらいの台詞かな。

「っ!!!」

良かった。コムイは窓から遠ざかったようで、私からは見えなくなった。
最後に見た顔が怒った顔か…。笑顔が良かったけど、私の為に怒ってくれてるならまあ、良いかも。

さあ降りよう。落ちよう。さよならだね、コムイ。あれ、本当にコムイしか浮かばないな。でもまあ、いっか。

初めて真正面から向き合った絶壁は真っ暗で、何も見えなかった。思うように動かない脚をちみちみと前に進めて、遂に端の端。バランスを崩すだけで、落ちるところまで来た。

ばいばい。コム
「約束破った」

「えっ」

振り向いたらコムイが居た。

「待ってなさいって言ったでしょう」

「…………」

「確かに君は返事をしなかったけどさ」

左腕を捕まれている。これじゃあギリギリ落ちる事ができない。何て事だ。

「………………」

どうしよう。

「………………」

「………………どうして」

「………」

「…落ちるつもりなのか?」

「うん」

「どうして」

「見れば解るでしょ」

「何がだい?」

「………解るでしょ」

「…解らない」

「………………肌だよ」

「肌がどうしたんだい。確かに鳥肌は立ってるけど」

「……………………………………なんで言わせるの」

「何を」


こんなコムイは初めて見た。
怖い。
解らない。
怒ってるのか。
そうじゃないのか。

わからない。


「右の頬」

「…」

「肌が死んだの。言わなくても見れば解るでしょ」

「…それで、死にたいの?」

「そうだよ」

「………」

「…」

左腕を掴んでいた手が離れていく。理解してくれたんだきっと。良かった。良かった。目の前で死ぬのは嫌だったけどまあ、いっか。


「っぁっ!?」

身体が宙に浮いて、変な声が出た。まだ踏み出してないのにおかしいな。しかも私の身体は持ち『上がって』『教団の黒い建物の方へ後ろ向きに』進んでいるらしい。



そうか。コムイか。

「…………………コムイ」

「何だい」

「重いでしょ?下ろしてよ」

「はは。重くないよ。軽いじゃない」

「……………そう?」

「………うん」

「……………………そっか」

向きは違うけれど、初めて会った時と同じように、コムイは私を肩に担いでいた。見ている景色は反対方向だけれど、同じ方向へ進んでる。変な感じだな。

それにしても自棄に早く降りてきたな
と、ふと見たコムイの脚は黒っぽい赤に染まっていて、ああ、スピードが無いのは脚が痛いからなのだ。

良くないよ。コムイの脚が痛そうで痛そうで、涙が出た。全然、何も良くない。コムイ、脚痛いよね。

ごめんなさい。





千切れて桜

雪のように消えたいと思った
嘘だった


絶対にこんな実験は止めさせるから、自分が室長になって止めてみせるから、必ず廃止するから、約束するから、誓うから、必ず、最後にするから、
だから、死なないで
とコムイは連呼した。
涙が止まらなくて止まらなくて、廊下に点々と水滴の跡が残った。
彼が頑張っていたの、知っていた。当たり前でしょ。いつも忙しそうにしてたもんね。コムイの瞳にはいつも、奥の方で燃えている火がみえる気がしていた。いつも怒っていた。きっと、伯爵に対して。だから信じた。コムイをいつだって、信じた。

あのさ、本当に小さい声で
軽くなったね
って呟いたの、聞こえちゃったよ。
それで気付いたんだけどさ、コムイも、泣いてた、ね。





‐‐‐‐‐‐‐

完全に自己満足で書いたものです
でもふざけているつもりは全く無いです
(だから読んでくださった方、しんどかったですよね。ごめんなさい)

そして、けして自殺を推奨するつもりもありません
人に頼ったっていいんだよ


20101224




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