肉人形と少年執事

ノックから一呼吸おいて、主人の入室許可が下りる。
黒服を纏った3人の少年の内のひとりが、ドアノブに手を伸ばし扉を開ける。
「失礼します」と一礼して入室し、扉を閉めると、黒服少年たちは壁際で整列し、長椅子に腰かける人物に向き直った。
艶の濃い黒髪をおかっぱに切り揃え、華奢な体に黒い振袖を纏い、口許の黒子が印象的な、一見すると少女のような風貌をした――少年たちよりも年若い彼の名は、カルト=ゾルディック。ゾルディック家当主の第五子であり、同家最年少の暗殺者。そして、黒服少年たちの主である。

「ただいま参りました。カルトさま」
長椅子に腰かけているのはカルトだけではない。
主の隣にいる人物を一瞬だけ盗視したあと、若い執事たちは揃って、改めてお辞儀をする。
カルトは「うん」と返事をしながら、不愛嬌な面持ちで少年たちを順に見渡す。そして開口一番にこう問いかけた。
「どうして君たちを呼んだか分かる?」
聞くなり少年執事たちは顔を見合わせ
「……いえ」
「分かりません」
「特にご要件は伝えられておりませんので……」
と、困惑した口調で各々答えを返した。
(どうしよう)
(何か気に障ったのか?)
(オレら、叱られるようなヘマしてねェよな)
少なくとも規則違反にあたる行為はしていない。主の不興を買うような粗相も、おそらくはないはずだ。
青ざめ不安げな視線を交わす使用人たちの姿を見据えるカルトは、隣に置いた人物の頭を抱き寄せ、髪を撫でながら、少年たちが狼狽する様子をしばらく観察したあと、表情のない声でこう切り出した。

「お裾分け」
「?」
意味が分からず首を傾げる少年たちに向けて、カルトはなおも続ける。
「君たちにもこの人を抱かせてあげる」
少年たちは一瞬遅れて息を呑んだ。
「え」
「はい?」
「……カルトさま。失礼ながら、今なんとおっしゃいましたか」
「この人」というのがカルトの隣にいる人を指すことは間違いないのだが……耳に入ってきた言葉が信じられなくて、少年たちは思わず素っ頓狂な声で訊き返した。
一方のカルトは相変わらずの無表情で、抱き寄せた人物のうなじに指を這わせながら、言った。
「君たちセックスしたことないでしょ」
「それは、そうですけど」
「知ってるよ、君たちがコソコソ話してること。いつもボクがフェイタンを抱いてるの盗み聞きして、羨ましそうに指くわえてるものね」
少年たちの背中に冷たい汗が伝い落ちる。
「カルトさま、それは、あの……」
「怒ってるわけじゃないよ。君たちだってそういう年頃だし。『興味を持つな』っていう方が無理だもんね」
カルトは長い睫を伏せ、口元をわずかに歪め微笑む。その美少女じみたかんばせには一足先に男になった自信と余裕が浮かんでいる。
「そんなに気になるなら味見させてあげようと思って。見せびらかすだけじゃ可哀想だから、君たちにも」
「……」

少年執事たちは互いに顔を見合わせた。
どういうつもりだ?自分たちを試しているのか?
ここでまんまと食いついたらどうなる?後になって主人の物を盗み食いしたと難癖をつけて罰を与えるつもりではないか?
しかし、もし本気で言っているのだとしたら? 厚意を突っぱねれば、それはそれで機嫌を損ねるのでは?
使用人たちの心中を知ってか知らずか、カルトが徐に口を開く。
「なに心配してるのか知らないけど、ボクは何も企んでないよ。いやだって言うなら他の子誘うだけだし、このまま出てってくれていいよ」
3人の目の色が変わる。目の前にぶら下げられた美餌を取り上げて、あろうことか他の誰かに食わせると言う。
「いや、あの」
「カルトさま!」
「お待ちください!」
三者三様、我先にとカルトに詰め寄る。
「そのお役目、是非とも我々に!」
「喜んで拝命させていただきます!」
「どうかよろしくお願いいたします!!」
「そ。じゃあ決まり」
3人の必死の形相を目の当たりにしてカルトは僅かに目を細めた。
少年執事たちは目の奥まで熱い血が昇るのを感じつつ、カルトのすぐ隣へ視線を定める。
そこに腰かける人物――肉人形――フェイタンもまた少年たちを見据えていた。ぎらぎらした若い欲情を向けられて、離れた眉間をぎゅっと寄せながら、呆れとも軽蔑ともつかない表情を浮かべている。
カルトと揃いの振袖の裾から覗く両手首は赤く擦り切れ、首筋には赤黒い痕が点々と散って、生臭い情事の残り香を色濃く漂わせている。

(これが、カルトさまの……)
主人が味わっている肉の味を想像し、少年執事たちはごくりと喉を鳴らした。股間はとうに熱を持って痛いほど張り詰めている。
「フェイタン。ボクにいつもしてるみたいに、この子たちの相手してやって」
命じるカルトを横目で睨み、フェイタンはふんと鼻を鳴らす。ぼそりと、苦々しく、聞き慣れない言葉で何かを吐き捨てながらも、徐に立ち上がり寝台へ上がって少年たちを受け入れる姿勢を取った。

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