流星街にて

(1)
「バカ。子供できたらどうするか」
快楽の余韻を引きずる幼顔が、繋がったままの彼を非難がましく見上げる。
「産めばいいんじゃね?蟻のせいで沢山人死んだしよ。人口回復には丁度いいだろ」
彼女に覆い被さったまま彼が答える。普段撫で付け固めている前髪は額に落ちており、そのおかげでいかつい顔立ちが幾分かわいらしく見える。

流星街にある殆んどの民家は電気が通っていない。ふたりが借りている家も例外ではない。
部屋の角に置いた小さな蝋燭が、しっとりと汗ばんだ彼の肉体を照らす。彼女の視点からは彼の首筋から続く隆々とした肩と、彼女を跨いで継ぎ接ぎのシーツを押し付ける腕の陰影がよく見える。柔らかな橙と漆黒に彩られたその肉体はまるで美術品のように美しい。

「そういう問題違うよ」
「じゃあどういう問題だよ」
揚げ足を取るような言い草にムッとしながら、彼女は答えにならない答えを返す。
「とにかく、ワタシ子供なんて産まないね。もし妊娠したら堕胎するよ」
「ふーん。そぉ」
彼は興味なさそうに相槌を打つと、再び腰を動かし始めた。胎内に注ぎ込まれた白濁液がかき混ぜられてグチュグチュと淫猥な音を立てる。

「ちょと、フィンクス。まだする気か」
「ダメ?」
「ダメ。」
「ダメじゃねーし」
「ハ?」
抗議の声を上げようとするも抱きすくめられ強く突き上げられる。
抱きすくめると言っても、吊るした左腕を避けてくれているおかげで圧迫感はない。ただ抽挿に容赦はなく子宮に響く衝撃で頭の中が真っ白になる。
「今ので孕んだかもしんねーだろ。どうせ堕ろすなら、何回中出ししようが同じじゃねェか」
「お前最低ね。そんなの……あ、」
反論の言葉を口にしようとするが、その声はすぐに甘い喘ぎ声に変わる。
「『そんなの』?」
大きな三白眼をきょとんと見開き、動きを止め、続きを促すように尋ねる。
「……そんなの、知らない……」
悔しげに唇を噛んで黙り込む彼女を見た彼は満足気に笑うと、耳元に口を寄せる。

「オレの子孕んじまえよ」
低い声で囁くと同時に一気に貫かれて、意識を持っていかれるような快感に襲われる。そのまま何度も奥を突き上げられ、冷えかけた情欲があっという間に熱を帯びる。
彼は喘ぎを圧し殺す彼女の一番感じる所を狙って執拗に責め立てる。彼女は自由の利く右腕を彼の背中に回し、その胸に縋りついた。
互いの体温を感じながら快楽を貪り合い、やがて二人は同時に果てた。夜はまだ長い。

(2)
「おかえり」
帰宅すると彼女が台所に立っていた。真っ直ぐな黒髪を一つに束ね、黒いタンクトップにショートパンツ姿で生成りのエプロンを身に付けて。ギプスを巻いた左腕は三角巾を外していた。

「何やってんのお前」
「見て分からないか?家事」
「いや分かるけどよ。何で?」
「ヒマだから」
それはそうだ。この田舎には娯楽らしい娯楽がない。
彼が外に出て、犠牲者の埋葬だとか蟻の巣の撤去を手伝ったり、議会に顔を出し手出し口出ししている間、彼女は暇をもて余しているのだ。
片腕が潰れているのでは彼を手伝うこともできない。ろくに動けぬ怪我人が居ても、作業の邪魔である。
彼女にできる暇潰しと言えば、古ぼけた本を読むか、教会に行って黙祷を捧げたり時代遅れのビデオを借りたりするか、あとは惰眠を貪るか、己のペースで家事をするくらいであろう。

「無理すんなって、そんなんオレがやっから」
「ダメね。フィンクス働いてるのに、ワタシだけ家でぐうたらしてるの気まずいし」
「別に働いてねぇし。やることねーからあっちこっち首突っ込んでるだけだぜ」
「それ働いてるて言うよ。ワタシだて何かしたいね」
「お前は黙ってケガ治してりゃいいの。何も気にすんな」
「気にする」
「いいから」
「よくない」
案外彼女は頑固者だ。いつもはおとなしく彼の後ろをついてくるくせに、こんなふうに言い出したら聞かないところがある。

「……じゃあ頼むわ。なんか手伝うことあったら言えよ」
「うん」
彼は彼女の説得を諦め溜息をつくと、汗を洗い流すべく風呂の方角へ踵を返そうとした。が、正面から彼女の姿を見て歩みを止めた。
「ていうかお前」
「何?」
「今の格好、裸エプロンみてぇだな」
面積の小さい服がすべて隠れて、エプロンの下には何も身に付けていないように見える。
まるでエッチな漫画に出てくる若妻のようで、何とも背徳的なにおいがする。
「……ああ、確かに」
自分の体に視線を落とした彼女は特に恥じ入りもせず笑う。
「こういうのって裸よりスケベだよな」
「ハハ」
「ヤらせてくれ」
「ヤダ」
冗談めかした口調だが、彼は本気だ。
「ヤじゃねーよ。たまには寝床以外ですんのもいいだろ」
彼女の小さな尻をがっしりと掴んで、既に臨戦態勢に入っているものを擦り付ける。
「ダメだてば。エ(ッ)チしてたらご飯作れないね」
「終わったら一緒に作ろうぜ」
彼女の抗議を軽くあしらい、ショートパンツをつまんで割れ目に食い込ませたり、横にずらして女陰を露出させ指先でグリグリと弄んだりする。
「何だよお前、濡れてんじゃねーか」
耳元で囁きながら、空いている手で胸をまさぐる。タンクトップの下は肌着を身に付けておらず、胸の突起が硬度を増していくのがエプロン越しにも確認できる。
「だて、フィンクスが触るから」
身を捩らせて逃れようとする彼女を追い詰め、テーブルに上半身を押し付けてショートパンツをずり下ろし、L字に突き出した尻を掴んで後ろから犯す。

「あ、ぅ、」
卓上で彼に食べられながら、彼女は声にならない声を上げる。結合部から溢れる愛液と我慢汁の混合液が、引き締まった太腿を伝う。
彼は律動を続けながら背後から覆い被さって彼女の耳に舌を這わせた。耳の穴に舌先を挿し入れ、ぴちゃぴちゃという水音を彼女の脳髄に直接響かせる。
「ヒ!あ、やぁ」
耳への刺激に感じ入った彼女は、膣内を締め上げて悦びを示す。
「お前変態だな。耳舐められて感じてんのか」
「違う、お前が、」
「オレが何だって?言ってみ?」
「フィンクスが、こんなふうにした、ね」
彼女は快楽に蕩けた表情で振り向き、彼を睨む。切れ長の目を潤ませ、頬を上気させたその顔はひどく扇情的だ。
「ハイハイ。オレのせいね」
彼は苦笑しながら腰の動きをさらに速める。パンパンと皮膚がぶつかり合う音に混じって粘液がかき混ぜられる音が響く。

「フェイお前、オレがいない間に男くわえ込んだりしてねェだろうな」
「するわけない、ね。フィンクス以外とヤるなんて無理」
「ホントか?」
彼は嬉しげな声でそう言うと、彼女の背中に胸を密着させ、小さな体を抱きすくめる。
「他の野郎とは絶対こんなことすんじゃねーぞ」
「クドいよ。しないて言てるね」
交尾中の雄猫が雌猫にするよう項に噛みつきながら、激しく突き上げる。彼女は身を強張らせて快感に耐えていたが、やがて絶頂を迎えた。切なげな声で喘ぐと同時に潮を吹き出し、同時に彼のものも強く締め付ける。彼女の中で肉棒が脈打ち熱い白濁を放つ。
射精が終わると、彼は脱力して彼女の肩口に顔を埋めた。彼女の首筋を伝った汗の雫をぺろりと舐めて強く吸い付き赤い痕を残す。
彼女は暫しの間陶然としていたが、やがて目的を思い出したように身を起こし、彼を退かして立ち上がった。

「ああ……最悪。せかく掃除したのに」
そして、先程自分が作った床の水溜まりを眺めて顔をしかめる。
「いーよ。オレ拭いとくから」
「お股もグシャグシャで気持ち悪いね」
「んじゃ風呂入れ。その間にメシ作っとくわ」
「フィンクス、さきと話違うよ。一緒(いしょ)に作るて言わなかたか?」
「あーもうめんどくせぇな。ゴチャゴチャ文句言ってんなよ」
「文句違うてば」
何がそんなに可笑しいのか彼女は呆れたような笑いを浮かべて肩を落とし、こう提案した。

「そしたら二人でお風呂入るよ、フィンクスも一日頑張て汗かいただろうし。その後一緒にご飯作りね」
「別にお前がそうしたいならいいけどよ」
「……ワタシお風呂の支度するから。フィンクス床拭いといてね」
彼女は苦笑しながらショートパンツを上げ、彼にそう言い残すと風呂場の方角へ歩いて行った。

(っていうか。フェイのくせに生意気じゃね?)
はたと疑問を覚える。何故自分がフェイタンごときに指示されなくてはならんのだろうか。
それに、なんかほんのり小馬鹿にされているような気がするが……まぁいい。そういう生意気なところも可愛いと思う。ここは海のように広い心をもって許してやろう。
彼はしみじみと己の優しさに酔いしれながら、雑巾とバケツを取りに物置きへと向かっていった。

(3)
彼は寝付きがよい。どんな環境でも寝ることができるし、寝起きも頗るよい。
「ねぇ」
「……」
「フィンクス」
「……」
「寝ててもいいけど返事くらいするね」
「……」
「フィンクスてば」
それにしても、今宵はいつにも増してよく眠る。
すやすやと寝息を立てるさまを見下ろしながら、彼の鼻をつまんだり瞼を抉じ開けたり、洗いっぱなしの頭をわしゃわしゃと掻いてみる。
やがてそれにも飽きて手持ち無沙汰になった彼女は、小さく溜息を吐くと窓の外を一瞥した。
夏の日没は遅い。半年前ならとうに日が暮れる時間だが、今はまだ充分に活動できるほどには明るい。
二人が借りている家屋の二階。東向の寝室からは、青とピンク色に彩られた地球影が見える。

今日、彼は犠牲者の処理を手伝ったという。
殉教者の埋葬は昨日の時点であらかた終わり、キメラアントのなり損ないに手をつけ始めたという。
いかに彼の心身が強靭とはいえ、奇形化し腐敗しかけた同郷者の成れの果てと一日中向き合うのはさすがに堪えただろう。帰るなり体を清め、めしをかき込んで、彼女を抱くこともなく、さっさと寝入ってしまった。
彼女は彼の隣に寝転んで自由の利く右手で彼を抱き寄せ、頭を撫でてやった。
「お疲れさま」
その慎ましやかな胸に彼の頭を埋め、労いの言葉を呟く。やはり答えはない。

とにもかくにも、このまま起きていてもすることがない。
ここには電気が通っていない。テレビゲームなんてものは当然ないし、携帯端末の電源はとうに切れてしまった。
本を読むという手があるにはあるが、どうもそんな気になれない。いくら日が長いと言っても、あと数十分もすれば夜の帳が下りて真っ暗になる。蝋燭の灯りを頼りに読書をするのも億劫だ。
考えた結果、彼女も眠ることにした。ベッドに潜り込み、彼の腕を枕にして目を閉じる。

……
…………

(……眠れない)
彼女の眠りを妨げるものがあった。
彼の鼓動ではない。寝息でもない。外から聞こえる虫の声でもない。腹が減って寝つけないというわけでもない。
今夜も彼を受け入れるつもりでいた。
彼が満足するまで交わって、くたくたになって、そのまま朝までぐっすり眠るはずだった。それが肩透かしを食らってしまった。
やり場のない劣情が体の奥で燻り、ぶすぶすと黒い煙を上げている。

彼の呼吸音を聞きながら、無意識のうちに己の下腹部へ右手を伸ばす。割れ目に触れると、すっかり濡れて熱を持っていた。
目の前の人間をおかずに自慰に耽る背徳感に興奮が高まる一方で幾ばくかの惨めさを覚えつつも、情事の最中の彼の体温、匂い、声、息遣い、表情、感触を想起しながら指先で陰核を弄くる。
彼の男根が膣襞を伸ばし、胎内を押し拡げ、激しく出入りする様を想像しながら、膣に指を出し入れする。
まるで海水を飲んで喉を潤そうとしている気分だ。余計に欲しくなって堪らない。
彼女は自慰を中断した。彼の股間に手を伸ばし、下着に手を忍ばせ、柔らかく萎えたものを握って愛おしむように摩る。
刺激を受けたそれは彼女の掌の中で大きくなっていく。その様子がまた彼女の欲を煽り立てる。
自慰を再開したいが、左手の自由が利かない。次第に硬度を増していくそれを眺めながら、もどかしさに太腿を擦り合わせる。

「……ん」
彼の喉から掠れた音が漏れる。
脱力していた手を持ち上げ、少し頭を掻いたかと思うと、その腕を投げ出して再び規則正しい呼吸を繰り返し始めた。
(起きては、ないか)
恐る恐る、しかし期待を抱きながら様子を窺うが、彼はぐっすり眠っているようだった。
継ぎ接ぎのシーツに投げ出された腕に目を向ける。大きく、分厚い、ぼこぼこと静脈の浮く節くれ立った手を眺める。
彼女はごくりと唾を飲み込むと、愛撫を止めて、今度は彼の手を自分の股間に導いた。温かい。力の抜けきった指が茂みに触れ、割れ目に沈み込む。
「ん、」
予想以上の快感に身を震わせ、小さく声を漏らす。
己の手を添えながら、彼の中指と人差し指を膣に挿し入れる。親指を使って陰核を弄んでみたり、掌を押し当て転がしてみたりする。
「はぁ、あ、」
腰を揺らして悦楽に浸るが、足りない。これでは到底達することができない。熱く太いもので貫かれたい。

(どうせ起きないなら)
勝手にしてしまおう。彼女は彼のズボンを下着ごとずり下ろし陰茎を取り出した。半勃ち状態のそれを口に含んで、舌先で愛撫する。亀頭のくびれたところを強く吸い上げ、裏筋に沿って舌を動かす。その一方で己の秘所を擦り上げ自慰に耽る。
やがて彼のものが硬く反り返ってきた頃、彼女は口からものを離した。唾液にまみれてぬらぬらと光るそれに頬を摺り寄せる。彼に跨がり、膣口にピントを合わせて、ゆっくりと腰を落とす。

「テメコラ、何してんだ」
眠そうな声で咎められ、動きを止める。
彼が覚醒していた。眉間に皺を寄せ、少し充血した半開きの目で彼女を見つめている。
「フィンクス……いつから起きてた?」
「お前がオレの手でマスかき始めたあたり」
「……」
「したいなら起こせばいいのによ」
「起こしても起きなかたんだてば」
「へぇ。まぁいいや」
彼は寝転んだまま彼女の腰を掴むと、一気に下ろして貫いた。
串刺しになった小さな体が弓なりにしなる。

「ぁ、〜〜〜…!!」
待ち焦がれていた快楽に酔い痴れる間もなく激しく突き上げられる。結合部から泡立った愛液が溢れ出し、ベッドのスプリングが激しく軋む。
「ぁ、あ、はぁ」
彼女は甘い喘ぎを上げながら、与えられるままに快楽を味わった。
「うぁ、ん、フィンクス、気持ちいい」
「フェイお前、どんだけスケベだよ。ここんとこ毎日ヤってるってのにまだ足りねぇのか?」
「もぅ、うるさいね。黙る」
彼は眠たげな表情のまま彼女の乳首を摘まんで捻り上げ、同時に子宮頸部をぐりっと押し潰す。痛みさえ感じるほどの刺激に脊髄が痺れる。
「あ!フィンクス、それダメ」
「『ダメ?』じゃあヤメだな」
あっさりと引き抜こうとする彼を恨めしげに見下ろす。
「……バカ。何故そんな意地悪するか」
「意地悪じゃねーよ。ダメなんだろ」
「ダメ違う。もと」
彼は少し唇を尖らせ、暫しの間黙り込んだ。
「『もっと』何?」
「……」
「お前の言う通りオレはバカだからよ、どうして欲しいかハッキリ言ってもらわねーと分からんぜ」
緩い抽挿を繰り返して彼女を追い詰めていく。
「……、」
「ほら言えよ」
「……もと、突いて」
「ナニで?どこを?」
「……」
「早く言わないと止めちまうぞ」
彼は浅く挿入したまま腰の動きを止めてしまった。彼女が懇願するまで動くつもりはないらしい。
「う、」
彼女は暫しの間彼を睨み逡巡していたが、ついに根負けして口を開いた。
「、……」
「聞こえねェ」
「……ワタシのまんこ、フィンクスのちんちんで奥まで突いて」
「それで?」
「いぱい掻き回して。めちゃくちゃにして」
「上出来」
彼は満足げに笑うと、彼女の尻を掴んで持ち上げ、勢いよく落とした。

「ひ、……〜〜〜!」
深く刺さった陰茎が膣壁を擦り、子宮を突き上げる。脳天にまで響くような快感に背が仰け反る。
「あ、ぁん、んッ、ぐ」
彼が律動するたびに結合部から淫猥な水音が響く。痛いほど強く肉を掴まれ、雑に揺すられるのが堪らない。激しい抽迭によって膣内を滅茶苦茶に犯され、さらに彼の陰毛が陰核を擦る。彼女は押し寄せる悦楽の波に身を委ね、声にならない声で喘いだ。
「は、あ、はぁ、ん、ん、はぁ、」
やがて絶頂が近づく。膣内が痙攣して陰茎を締め上げる。
「フィンクス、イク、イキそ」
「おぉ。イケよ」
「あ、あぅ、ぅ、あ、〜〜〜、……」
彼女が達した後も、彼は構わず動き続ける。オーガズムに達したばかりの身に与えられる容赦なき責めに、彼女は泣きそうな声で許しを乞うた。
「ひ、ゃ、フィンクス、ダメ。ワタシ今イ(ッ)てるから」
「知ってる」
「いや、やだ、また来る、あぁ、あ、〜〜、」
「出すぞ」
「ぁ、あぁ」
彼のものが脈打ちながら射精する。熱い精液が流れ込んでくる感覚に女体が震える。
最後の一滴まで絞り出そうとするかのように強く腰を押し付けて、ようやく脈動が終わって、強張った筋肉が徐々に脱力していく。

「はぁ……」
充たされきった体を彼に預けて息を整える。彼の腕が背中に回され、労るように優しく撫でられた。
「これで満足かよ」
「うん」
分厚い胸板に顔を埋めて甘えると、彼の匂いと浴用石鹸の匂いが混ざった芳香が鼻を擽る。
流星街で生産消費される石鹸にも一応の香りづけはしてある。世間一般が思い浮かべるような、花をイメージした合成香料ではない。カヌカやブルーガムの精油を用いるのが一般的だ。
どこもかしこも汚く悪臭に満ちた街の中で、この匂いだけは唯一快いと思う。彼の肌の香気とよく合っていて、なんとも幸せな気分で満たされる。

「フィンクス」
「何だよ」
「怒てない?」
「何が」
「ぐすり寝てるトコ無理に起こして」
「別に怒ってねーぞ。気持ちよかったし」
「途中から起きてたのに。何故寝たフリしたか」
「寝たふりっていうか、状況が読み込めなくて固まってたんだがな」
「……」
「フェイのエッチ」
彼が愉快そうに恰好を崩す。彼女は少しムッとしながら反駁する。
「フィンクスだて勃てたくせに」
「あんなん反応しねェ方が無理あるわ」
そして彼は彼女の耳元に唇を寄せて囁く。
「なぁフェイ、もう一回しようぜ」

――ああ。今夜もよく眠れそうだ。

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