まさに(彼女が)自分でまいたタネだけどね

彼女の体が快楽に震える。小ぶりな乳房が揺れる。熱い吐息とともに声にならない喘ぎが漏れる。
彼女の膣内はどろどろに蕩けきっていて、ぬるぬると男根に絡みつき収縮を繰り返している。
彼はその熱く柔らかい肉壁をゆっくりと擦り上げながら、子宮頸部を押し上げるように腰を密着させる。
すると彼女は背筋を大きく仰け反らせ、逃れようと腰を引いた。

「ヤダ、フィンクス、それダメ」
「ダメ?何で」
「赤ちゃん潰れる」
「潰れねーよ、大丈夫だって」
彼は逃げる彼女の体を引き寄せて、再び最奥へと陰茎を突き立てる。
「ん、!」
「フェイ、もうちょい腰上げろ」
「ん、ん」
彼は小刻みに腰を動かしながら徐々に抽挿を深めていく。その度に結合部から粘液が溢れ出て、やがて一塊となって、どろりと彼女の太股を伝う。

ふと彼は後背位で繋がる彼女を見下ろした。
結合部のすぐ上にある窄みがひくついている。桃色の小菊のようなそれは、女陰が刺激を受けるたびに物欲しげに小さく開閉を繰り返している。
何を思ったか彼はそこへ利き手の人差し指を這わせ、愛液を掬いとり、その滑りを借りて、ぐりっと第一関節まで押し込んだ。

「!?」
突然のことに驚いて彼女がびくりと肩を震わせる。
「……何してるか」
「いや、ヒクヒクしてやらしいなと思って。つい」
「バカなことしないで。指抜く」
「別にいいだろ、減るもんじゃなし」
「よくないね。ウンコついたらどうするか」
「洗えばよくね?」
「……そういう問題違うよ」
呆気に取られる彼女を適当にあしらいながらより深く捩じ込み、くりくりと円を描いてみたり腸壁を撫でたりしてみる。
「フィンクス、ヒトの話聞いてる?指抜いてて言てるんだけど」
「なぁ。こっちでしてみねぇ?」
「……ハ?」
何を言っているんだコイツは。と言わんばかりに振り返り顔を顰め、離れ眉を非対称に歪めて冷たい視線を送る彼女。
対する彼はどこ吹く風といった様子で、更にこんなことを言った。

「こっちなら奥まで突いても平気だろ。ちょうど今ゴムつけてるし、クソついても大丈夫じゃね」
「意味分からないよ。イヤに決まてるね」
「何で」
「何でも何もないね。無理」
「やってみなきゃ分かんねーだろ」
「やらなくても分かるよ。そもそも入るわけないし」
「だからそれを試そうって言ってんだよ。分からん奴だな」
「分かりたくないよ。駄目。無理。ゼタイイヤ」
「フェーイ。ビビってんじゃねぇぞテメー」
「ビビるに決まてるね」
言い合っている間も彼の逸物は彼女の膣内に、指は肛門に入りっぱなしである。
彼女はどうにか尻穴への悪戯をやめさせようと足掻くが、こう尺取虫のような体勢で犯されていたのではどうにもならない。
「おいコラ」
もがく肩に彼の左手が伸びる。そのままぐいっと引き寄せられて身動きが取れなくなる。
「逃げんなってば」
低い声が耳朶を擽る。同時に、人差し指に加えて中指が彼女の直腸内に侵入する。
「ぅ、く……」
「ほら、二本目入った。全然いけるじゃねーかよ」
「ダメ、痛いよ。ムリ」
「無理じゃない。我慢しろ」
「いや、我慢とかそういう問題じゃないと思う」
彼女の抗議を無視して、二本の指が根本まで埋まる。ズブズブと出し入れして、バラバラに動いて、直腸をほぐし、狭い入り口を拡張していく。

「う、んん……ん」
「フェイ。声は我慢しなくていいぞ」
「最低、お前ヤダ。キモすぎね」
「へいへい。キモすぎてごーめーん」
聞き覚えのあるメロディだ。『かわいくてごめん』とかいうアニメソングの替え歌のつもりか、棒読みかつ全く可愛げのない低音で呟くさまが何とも腹立たしいやら可笑しいやら……そんなことを考えているうちに新たに薬指が挿入される。

「ん、ふぅ……、う」
ああ、もういいや。抵抗するだけ体力の無駄だ。
彼が満足するまで心頭滅却して耐えようかと半ば悟りの境地に達しつつある彼女は、ある変化を感じ始めていた。
異物感の奥に、仙骨から腰椎を通り抜け、脊髄を駆け上がり、じわりと脳全体に広がるような快感がある。
日頃のセックスとはまた違う。痛みを凌駕する快楽が、徐々に彼女の緊張と嫌悪感を薄めていく。

「そろそろいいか?」
「……」
「力抜いてろよ」
逸物が膣から引き抜かれ、柔らかく解れた肛門に押し当てられる。怒張した肉茎が彼女の腸内に侵入を始める。
「、……!!」
ゴムが突っ張る感覚。自分の排泄物より太い直径。異物の侵入を拒もうと括約筋がぎゅっと締まり、緊張で全身が強ばる。
「っ、おい。力抜けってば」
「ん、んん、むりぃ」
「息吐け、ゆっくり」
言われるままに深呼吸を繰り返す。
「そうそう、そのまま。『あーワタシこれから死にまーす』って感じでダラーンとしとけ」
……それは一体どういう例えだ。
彼は時々ボケた発言をする。それを指摘した時の反応は大概の場合、怒るかポカンとするか弁解を始めるかのどれかなので、おそらくわざとではない。素で言っているのだ。
ともあれ彼女は彼の台詞のおかげで苦笑し、脱力し、緊張が解れて力が緩む。陰茎が更に深く沈み込む。
直腸の中が満たされていく。彼女の喉から切なげな吐息が漏れる。

「ねぇ、そろそろ全部入る?」
「んー。あと半分弱だな」
「……ウソ。まだ半分?」
「なに言ってんだ。もう半分だぜ」

挿入する穴が違うと感覚が掴めないものだな。と思うと同時に、古い記憶が蘇る。
幼い頃に熱を出したことがある。
流星街で暮らす人間など免疫力の塊だ。廃棄物の山を駆け回り、ゴミ漁りを宝探しと称して遊んでいる子供たちなど尚更である。彼女もその子供の一人だった。
その歩く(むしろ走り回る)免疫力のような生き物が、高熱を出して寝込んだのである。
今にして思えば大したことはない。軽い風邪を引いただけなのだが、慣れない体調不良で不安になっていた当時の自分にとって、その発熱は死を予感させるほどに恐ろしかった。
(あの時も尻に何か入れられた気がする)
朧気な記憶を辿る。医者に診せられて、下半身の衣類を剥かれて、肛門に異物を挿入された。それが何だったのかは判然としないが、状況から鑑みるに多分あれは座薬だったのだと思う。
長い間忘れていた記憶だ。それを呼び起こしたのは、今まさに彼女の尻を犯しているこの男である。

「よっしゃ。全部入った」
「はぁ……、はぁ、ぁあん」
「フェイ。大丈夫そうか?」
「多分」
「じゃ動くぞ」
「……ん」
ずず、と彼のモノが引き出される。内臓を引きずり出されそうな恐怖と、排泄に似た解放感が同時に訪れる。
「ん、ぁ、あ」
再び埋め込まれる。引き抜かれる。それを繰り返して緩やかな抽挿が始まる。腸壁越しに子宮をズリズリと擦られ、その都度脊髄に電撃が走る。
「ぁ、フィンクス、だめぇ」
「何が駄目だよ」
「子宮、当たてる」
「子宮……ああ。これか」
直腸を押し拡げる亀頭が、いよいよ質量を増しつつある子宮の裏を小突く。
「あ、あぅ、んん」
「へへ、感じてんじゃねぇか。あんだけイヤだって言ってたくせによ」
「ぅ、るさい」
「ここ好きなんだろ?ほらほら」
「あ、やぁ、やめ、やめて、〜〜〜!!」
亀頭が執拗に責め立てる。ゴリゴリと容赦なく押し潰されるたびに脳天まで突き抜けるような快感が走る。

「フェイお前、とんだ変態だな。妊婦のくせにクソ穴ほじられてよがってんのか」
「お前に言われる筋合いないね。このケダモノ。ド変態」
「オレはいいんだよ。自覚してっから」
「開きなおるな。み(っ)ともないよ」
「うるせー」
「ひ、!」
一挙に根本まで捩じ込まれて視界が明滅する。
弱いのは子宮だけではない。直腸の行き止まり、S状結腸を刺激されるとどうしようもなく気持ちいい。体の内側から直接快楽中枢を弄られているような錯覚すら覚える。
「はぁ、あ、ぁん」
「フェイ、こっち向け」
言われるまま振り向いた瞬間、唇を奪われる。熱い舌が口内に侵入してきて、我が物顔で暴れまわる。
歯列をなぞり上顎を舐められ、唾液を流し込まれる。酸素を求めて開いた口を塞がれ、貪るように蹂躙されて、飲み下せなかった二人分の唾液が顎を伝い落ちる。
「ふぅ、ん、んぅ」
キスをしながらも続くストローク。結合部から響く淫猥な音と、肌同士がぶつかり合う乾いた音が鼓膜を震わせる。
愛液に加えて腸液が潤滑液となって彼の動きを助ける。絶頂の予感を感じながら、どうかすると膣でのセックスより早いピストン運動に耐える。そんな彼女を追い詰めるかのように、彼の律動はますます激しくなっていく。
「んん!ん、ぐ、ぅ〜〜〜…」
一際深く穿たれて彼女の背中が大きく仰け反った。
弾かれた弦の如く揺れる意識の中で、腸内にゴム越しの生暖かい感触が広がるのを感じる。彼も絶頂に達したのだ。
ビクビクと脈打つ陰茎がゆっくりと引き抜かれていく。ずるりと抜け出たソレにはまだ硬度が失われていない。

「な、もう一回ケツでヤらせろよ」
「ダメ。もうムリ」
「ケチんなって」
渋る彼女の意向を軽くあしらいつつ、彼はずり落ちかけたコンドームを外し、口を結んでゴミ箱に投げ捨てた。
彼が新しいパッケージに手を伸ばすさまを半目で眺めながら、彼女は力なく呟く。
「……本当に次で終わらせるよ。約束ね」
「OKOK」
そう言って彼女をひっくり返して、正常位の姿勢で覆い被さる。そしてぽっかりと口を開けた肛門を再び犯し始める。

――ああ、どうしてこうなってしまったのだろう。
同居を始めた当初はあんなに気遣ってくれていたのに。

記憶を辿る。原因を探る。考える。
初めてここに来た時、最初に誘ったのは自分の方だった。
胎児に障るとまずいと言って遠慮する彼に「浮気してやる」だのなんだのと揺さぶりをかけて、半ば無理矢理性交に及んだ。
それ以降も劣情に任せて誘惑して毎日のように……下手をすれば一日に複数回、彼を押し倒して快楽を貪った。
そんな感じで来たものだから、案外彼女が平気であることを学習してしまった。
彼を調子づかせたのは他でもない彼女である。

(ああ。ワタシのせいか)
自分の蒔いた種だったのだと理解すると同時に諦念の溜息を吐いて、再び快楽に身を委ねる。
チェストに置かれた電子時計に目を向けると、日付の変わり目を迎えようとしていた。

「いつまでもサカってないでさっさと寝ろ」と言わんばかりに腹の児がぽこりと蹴ってくる。
その振動に微かな痛みを覚えて、しかしすぐに忘れてしまうくらいには行為に没頭していった。

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