眠る君を見てる2

リズミカルな打音で目を醒ますフェイタン。
どうやら音の出所は隣で眠るフィンクスらしい。地を駈けるよう足を動かし、打楽器のごとく軽快に壁を蹴飛ばしているのだ。
また変な夢でも見ているのか。安らかな寝顔から察するに、うなされているわけではなさそうだけれども。
「フィンクス」
声をかけるも目を覚まさない。
「フィンクスてば」
肩を揺すりながら少し大きめの声で呼びかけると、ようやく気が付いたらしい。ビクッとして目を開け、こちらを見つめ、若干煩わしそうに悪態をつく。
「……あんだよ。うっせぇな」
「それ、こちのセリフね。寝ながら壁蹴て何してるか」
寝ぼけ眼を瞬かせる彼は、まだ半分以上夢の中にいるらしい。
「また楽しい夢でも見てたか?」
「あー……ノブナガがオリンピックの短距離走出場してな、銀メダル取るんだけどよ。『なんで金メダルじゃねーんだ』『詐欺だ』『流星街代表だからって差別してんのか』って噴き上がってやがんの」
フェイタンは陸上選手のユニフォームを身に纏い銀メダルをぶら下げながら怒り狂うノブナガの姿を思い浮かべてみた。想像にみる彼の可笑しさときたらなくて、思わず吹き出してしまう。
「……それで?」
「『いやいや、ろくに練習してねーのにメダル取れたんだからすごくね?』ってフォロー入れたら『そういう問題じゃねー!』とか余計怒り出してよ」
夢の中でまでめんどくさい男だ。
「んでその後、何故かオレが女になってマラソンに参加する夢見たんだわ。おそらく、そん時に壁蹴ってたんじゃねーかな」
「ハハハ。意味不明」
「ま、夢ってのは支離滅裂なもんだろ」
いけないとは思いつつもその絵面を想像してしまう。
やはりというか、苦しい。笑いが止まらない。まず女になる必要性がないし、フィンクスがマラソンに参加するというシチュエーションがまた可笑しい。
一頻り腹を抱えて笑った後、フェイタンはハタと思い至り、震える横隔膜を落ち着かせながらこんなことを問いかけた。
「そういえばフィンクス。ワタシの夢は見ないね」
「や。けっこう見てるぜ」
「ウソ。一度も聞いたことないよ」
「んなこといちいち言わねぇし」
「何故?」
「『何故』って、別に深い意味はねぇけど。起きた瞬間あやふやになっちまったりもするし、覚えてるにしてもわざわざ『こんな夢を見ましたー』とか報告する必要はないだろ」
「じゃ覚えてるやつ教えて。例えば?」
フィンクスの腹に馬乗りになり、しなだれかかり、指先で彼の頬をつまみながら尋ねるフェイタン。フィンクスは暫し逡巡していたが、やがて観念したらしく徐に口を開いた。
「……聞いて怒んなよ?例えばお前がすげぇエロい格好してオレに迫ってくる夢」
「へぇ」
なんだ。別に怒るほどのことではない。

「あとは、なんか知らんがお前にボコボコにされたりとか。オレもしばらくは我慢してるんだが、だんだんムカついてきて反撃するわけよ。で、思いきり頭殴ったらアッサリ死んじまってな……あん時は割と焦った。しばらくお前の顔直視できなかったぜ」
「ハハハ。フィンクスの中でワタシどんな人か」
「まぁ、そんな感じじゃねーの」
フェイタンの頭を撫でながら言うフィンクス。
「そういうお前こそ、オレの夢とか見ねぇのかよ」
「たまに見るよ」
「ほぉ。どんな内容だ?」
身を乗り出し食い気味で訊いて来る。フェイタンは苦笑いを浮かべ、視線が交わらないよう彼の肩に顎を乗せる。
「内緒ね」
「なんだそりゃ?言えよ。気になるだろうが」
「ダメ。教えない」
「はー?人にはしつこく聞き出しといてテメーはだんまりかよ」

しつこくせがむ彼の唇を唇で塞ぎ黙らせる。舌を差し入れ絡めるとすぐにお互いスイッチが入り、再びベッドへと沈み込んだ。
「ねぇ。ワタシが本当にエロい格好(かこう)で迫て来たらどうする?」
囁き、太い首筋に噛み付く。彼はちりりとした傷みに小さく息を呑み、ほどなくしてニヤリと笑いこう答えた。

「お望み通りメチャクチャにしてやるぜ」
「そうこないとね」
「っていうか、もう迫られてるけどな」

物欲しげに揺れる細い腰を無骨な手が包み抱き寄せる。
あとは欲望に任せてひたすら貪り合うのみだ。

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