眠る君を見てる

フェイタンは驚愕した。
隣で眠っているフィンクスが突如笑い出したからである。
心地好さそうに微笑んでいるとか、いい夢を見てにやついているとか、そんな可愛いものではない。もう可笑しくてたまらないと言わんばかりに声を上げてゲラゲラ笑っているのだ。
「……」
何だろう。普段の顰め面とのギャップがすごい。
こいつはどれだけ面白い夢を見ているのだろう。と思いつつ、眉間を歪めながら事の成り行きを見守るフェイタン。
そうしているうちに笑い声は落ち着き、規則正しい寝息だけが残る……かと思いきや思い出したようにクスクス笑い始め、さらに数秒後にはまた大爆笑し始める。
(何だコイツ)
あまりに不可解な現象を目にして、フィンクスがおかしくなったのではないかと疑ってみる。
何処かでヘンな念能力でも植え付けられたんでないかと思い、凝を使ってみる。特におかしなものは見えない。
頭のてっぺんから爪先まで眺めても特に変わったところはない。寝ながら笑ってる他はいつも通りのフィンクスだ。

もともと眠りが浅かったのか、己の寝言で覚醒してしまったのか。よほど相方の視線が気になったのか。
彼が薄く目を開く。半眼でキョロキョロと辺りを見回し、フェイタンと目が合うと、眠たげな、少し笑いを含んだ声で「なに見てんだよ」などと宣った。
「……フィンクス、大丈夫?」
「あ?」
「寝ながらすごい笑てたけど。ヘンな夢でも見てたか?」
「あー……」
思い出したら可笑しくなったのかフィンクスは軽く吹き出し、気怠げな声を軽く震わせながらこう言った。
「なんかウボォーの奴が新しい技開発してよ。『ミネラル天然塩の術!!』とか言って掌擦り合わせて手汗の塩分を粉末にして、味噌汁か何かに振り撒く夢見たんだわ」
「……」
「夢の中の話だからあんま詳しくは覚えてねーけど、もう可笑しくて可笑しくてよ。こんなん笑っちまうだろ」
いや全然。考えただけで吐きそう。
という感想を飲み込みつつ、ひとまずフィンクスが正気であることに安堵するフェイタン。
「まぁ握り飯作るときなんか便利だろうな。オレはあんま食いたくねーけど」
「誰だて食べたくないね、あいつトイレのあと手洗わないし。なんか知らないけどいつも脂ぎてるし。そんなの食べたらゼタイお腹壊すよ」
(そういえばとある漫画で己の汗を霧にする能力を持つキャラクターがいた気がするな)と思いながら相槌を打つフェイタン。
よほど自分の夢がツボに入ったのか再び笑い出すフィンクス。それからしばらく腹筋を震わせ悶絶していたのだが、やがて何か思い至ったらしい。
急に改まった顔をして、黙り込み、やおら口を開いて、こんなことを言った。

「……ていうかよ。『ミネラル天然塩』っておかしくね?」
「ハ?」
「『天然塩』ってのは分かる。人体も自然の一部だし。そこから取り出した食塩ってことだし。工場で薬品使って精製したわけじゃねーんだからな」
「うん」
「しかし『ミネラル』ってどういうこった?食塩って塩化ナトリウムだろ?ミネラルの一種じゃねぇか。わざわざ『ミネラル』とかつける意味が分からんぜ、『頭痛が痛い』とか『危険が危ない』とかじゃねぇんだからよ」
「まぁねぇ」
「やっぱウボォーって頭悪いよな」
「……」

いやいやいやいや。それはお前の夢の中の話で、実際にウボォーギンが言ったわけではない。
あと自分に言わせれば「ミネラル天然塩」はそんなにおかしくない。
人間の体液は塩化ナトリウムの他に、マグネシウムだとかカルシウムだとか他のミネラルも含まれているではないか。
人間の体液である汗を原料とした食塩にも、それはもうふんだんに含まれているはずだ。
『色々なミネラルを豊富に含んだ天然塩』という意味合いで呼称する分にはそれほど変ではないのではなかろうか。
……つらつら考えはするが、あくまでもフェイタンには突っ込む気概がない。こんなことで議論をするなんてばかばかしいにも程がある。

「ワタシもそれ見たいね」
「あん?」
「フィンクスと同じ夢見てみたい」
あまりにくだらないと思う一方で、その夢を見てみたいと思う自分もいる。
「なぁんだよ。可愛いこと言うじゃねぇか」
フィンクスはニヤリと笑いながらフェイタンを抱き寄せ、胸に埋めた。ボディソープの残り香と彼のにおいが混ざった芳香が鼻をくすぐる。

「くっついて寝れば夢共有できるかもな」
「ハハハ。乙女ちく」
「『同じ夢見たい』とかのたまうテメーに言われたくねーわ。明日また仕事あんだから、さっさと寝ちまおうぜ」
「うん。おやすみ」
彼の鼓動を聞きながら目を閉じ、体温を感ながら眠りにつく。
……ああ、本当にいい夢が見られそうだ。
そう思った時には既に意識が蕩けかけていて、フェイタンはそのまま眠りの世界へ落ちていった。

(※なお、あまりにもよく眠れすぎて夢は見なかったらしい)

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