オレたち気が合うよな

一体何をそんなにクサイ顔をしているのか。
彼の視線の先を追う。
そこではイートインスペースで女性が軽食と珈琲を喫食していた。
いや、正確に言うとまだ飲み食いはしていない。
SNSに写真でも投稿するのだろうか。片手に携帯端末を握り締め、ごてごてしたネイルを施した手元や洒落た背景が写り込むように卓上を撮影し、そうかと思えばいつまでも飲食物に手をつけず長いこと画面に指を滑らせている。
せいぜい着飾ってはいるが暮らしぶりは芳しくなさそうだ。よく見ると携帯端末の画面が割れているし、巻いた髪はカラーリングが落ちかけて色ムラになり、鞄や靴もどことなく薄汚れて見える。

「あーやだ。オレ嫌いだわああいう女」
開口一番に出た台詞がこれだ。
「何故?別にあの人誰にも迷惑かけてないね」
笑いを孕んだ声で問い質す。
「なんつーか『都会でお茶しちゃうオシャレなアタシ』に酔ってる感が受け付けん。別に誰が何処で何飲もうか勝手だがな、それをわざわざアピールする必要はねーだろ」
「それはそうね」
だからってお前が憤慨することはなかろう。と思いつつ適当に相槌を打つフェイタン。相方の内心を知ってか知らずか、フィンクスは更に捲し立てる。
「ス○バにマ○クのパソコン持ち込んでカタカタしてる意識高い系の野郎と同じ臭いがすんだよ。大したことねぇ奴がテメェを現実以上に見せようと背伸びしてケチくさい承認欲求満たしてよ、そういうのが理解できねぇっつーか陰キャ的に許せんわけ。分かるか?」
「……」

フィンクスは「陰キャ」の意味を間違って覚えていないだろうか?自分達は日陰者であるが、「陰キャ」とはそういう意味ではない。「陰気なキャラクター」の略称だ。
確かに彼は特段明るいわけではない。おおよそ友好的とか社交的とか言える性分ではなく、警戒心が強く用心深い。シャルナークのような明朗さもノブナガのような愛嬌もない。
いわゆる「陽キャ」とは言い難いが、だからといってネクラというわけでもない。主張すべき所は誰が相手でも臆せず主張する。本当に陰気な人間にはできない芸当だ。
彼がどう自己分析しているか知らないけれど少なくとも「陰キャ」という表現は当てはまらないように思うのである。
あくまでもフェイタンには口論する気概がない。正直フィンクスの自己評価なんかどうでもいい。こんなつまらないことで言い合いをしても仕方あるまい。

「ま、ワタシもああいうの下らないと思うけど」
「な?そうだろ」
同調してやると少し表情を緩めて相槌を打つ。頑固で我が強く面倒臭い男だが、こういう素直なところがあるから憎めない。
「やっぱりオレら陰キャ同士気が合うよな。お前といるとすげーラクだもん」
(陰キャ同士?)
ああ。この男は相方である自分も陰キャと認識していて、仲間意識を抱いているのか。
「誰が陰キャだ」と突っ込んだ方がいいのかと思ったが、やめた。実際自分で自分が陽気に見えないことは自覚している。否定しても虚しいだけだ。それに陰キャ呼ばわりされても腹立たしさより可笑しみの方が先立ってしまう。

まぁ、自分はその呼称を許容できる程にこの男のことを好いているということなのだろう。
そんなことを考えながら残りの珈琲を飲み干した。

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