しょうもない話

「ノブナガも髪切ればいいのに。次、やってやろうか?」
「あー?オレはいいんだよこれで」
「何で?」
コルトピの髪を漉きながら呟くマチ。マチの申し出を断るノブナガ。そのノブナガに何故かと問いかけるシズク。
「何でって…まぁ、人に頭触られんの嫌いだからよ。結んだ方がラクってのもあるしな」
頭をガリガリと掻きながら答えるノブナガ。いつもは高く結い上げている髪をほどいて背中に垂らしている。その癖のない漆黒はなかなか見事で、後ろ姿だけ見れば十二単が似合いそうだ。まぁクルッて振り向いたらヒゲぼうぼうの落武者でしかないんだけど。

「ふーん。床屋とかもダメなの?」
「ダメだな。ってか、ああいう所って決まって話しかけられるだろ?『お仕事何されてんですか〜?』『お休みの日はどうされてるんですか〜?』ってよ。ああいうの苦手でどうも敬遠しちまうんだよなぁ。フィンクス、オメーはどうしてんだ?」
「どうもしねぇよ。そんなの『無職ッス』で終いだろが」
意外な事実。ノブナガは案外コミュ障らしい。フィンクスはあっけらかんと答えつつ更にこう続けた。
「『いつも何してんですか』って訊かれたら『一日中ゲームしてます』『公園のベンチに座って時間潰してます』とでも言っときゃいいんだよ。話したくなきゃブスッとしてりゃいいし、別に悩むほどのことじゃねぇぜ」
「ハハ、無職て」
声を上げて笑うフェイタン。よほどツボに入ったのかクックッと喉を鳴らしながら腹を抱えて悶絶している。
確かに理容師の問いに対し食い気味にふてぶてしく「無職ッス」と答えるフィンクスの姿を想像してみると、えもいわれぬ笑いが込み上げてくる。

「いや、バカ正直に『幻影旅団っていう盗賊やってまーす』って答えんのもおかしいじゃねぇか。ヘンに怖がらせてもしょうがねぇし『うわこいつ嘘つきだな』って思われんのもヤだろ」
何やら弁解を始めるフィンクス。悩むほどのことではないと言いながらも、彼なりにきちんと考えてはいるらしい。

「確かになー。でもオレは嘘つくのヤだからちゃんと答えちゃうかな。『一応プロハンターです』とかさ」
シャルナークが話に割って入る。そういえばいつからだろう。彼の髪型が坊っちゃん刈りに落ち着いたのは。
「いやオレも嘘ついてなくね?日頃は無職みてぇなもんだし一日中ゲームしたり公園で時間潰してんのは本当だしよ」
「マジかお前」
「きも」
「公園で何すんの?」
「何もしねーよ。ただボーっとしてんの。なんか考え事とかして煮詰まったらジョギングとかするけどな」
「オメーでも考え事すんのか」
「するよ。お前らがどうしてるかとか、旅団の将来についてとか」
「あははは、将来って。らしくねー!」
「でも公園ってホームレスとかいるでしょ?『ここは俺の縄張りだ』とか言ってこない?」
「こねぇ。なんかそれっぽい野郎が遠巻きに見てくる時はあっけどな、威嚇すりゃ逃げてくしそれで終わり」
「ハハハ。威嚇て野良猫か」
「あ、そうそう。こないだ公園で野良猫の写真撮ったんだわ。こいつがまた不細工でよ…」
クロロ以外のメンバーは皆、雑談に夢中である。
(みんな楽しそうだな)
クロロも会話に参加したい気持ちがないわけではないのだが、いまいち口を挟むタイミングが掴めない。
昔だったらシャルナークに便乗して「オレはいつも『フリーランスです』って答えてるよ」とかなんとか話に割り込んでいくのだが、今は冷徹なる団長としての顔を崩したくなかった。
というか、みんな「もう昔のクロロじゃない」「団長はこういうもんだ」と思ってるだろう。
いきなり雑談に飛び込んだらみんな驚くに違いない。この場にいる面子が「え?」て顔で一斉に振り向く姿が目に浮かぶ。それは気まずい。
自分が会話に加わることで話が盛り下がってしまうくらいなら黙っていた方がいいだろう。そう判断したクロロは無関心を装い手元の本に視線を落とす。

「ボノもお洒落してみたらいいのに。アフロとかリーゼントとか」
「いや、俺はそういうの似合わないしな」
「似合う似合わないは関係ねぇって。お洒落なんざ自己満なんだからよ」
「それにしたってチョイスが極端すぎないか?いくらなんでもアフロはないだろ」
「そう?かこいいのに」
「流星街じゃいけてる髪型なのにな」
「……」
髪型について盛り上がる様子を聞き流しながら、クロロはぼんやりと考える。
(やっぱりみんな気付いていないみたいだな)
フランクリンの背中にでっかい蛾がとまっていることに。

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