フィンフェイがポリネシアンセックスする話

まだ日も高いうちから二人は裸で絡み合っていた。
壁に手をついたフェイタンをフィンクスが後ろから抱きすくめて、胸や脇腹を撫でながら首筋にキスを落とす。
強く吸い付いて赤い痕を残し、時に舌先で愛撫しながら、指先は性感帯を避けつつ肌を這い回る。

「……ふぅ、ん」
焦れったい手つきに喉から吐息混じりの声が漏れて、無意識のうちに内腿を擦り合わせてしまう。
「フィンクス」
「ん?」
「ギブアプ、しない?」
「しない」
大真面目な顔をして、フェイタンの外腿を撫で回しながら、きっぱりと断り愛撫を続けるフィンクス。
触れてほしい箇所を徹底的に避けて際どいところを掠める。
その度、その部分にじくじくと熱い疼きを覚え、身体の奥底がいっそう火照る。

「ねぇ、ワタシもう無理。こんなの拷問ね」
「人聞きの悪いこと言うな。してみたいって言い出したのお前だろーがよ」
……確かに、それはそうなのだが。
「早くヤリてぇのはオレも同じだっての」
そう呟くとフィンクスはフェイタンの肩口に歯を立てた。甘噛み程度の強さだったが、感度の高まった肌には充分な刺激だ。
びくんと跳ねる腰をその武骨な手で押さえつけ、もう一方の手で下腹部に触れる。
あと数センチメートル下へ……という所で彼の手が止まる。臍の真下で円を描きながら、内臓を温めるように擦られる。
心地よいような焦れったいような感覚にじりじりしながらフィンクスの手首を掴むフェイタン。

「もう、それダメ」
「コレがダメなら何すりゃいいんだよ」
「アソコ触て」
「ダメだって。本番は最終日にあたる5日目だけ。その前の4日は性器への刺激は避ける。って書いてあっただろ」
そうなのだ。4日前に読んだ本には、そういった事が書かれていた。
射精よりも精神的な交わりやらスキンシップやらに重きを置くことで、よりパートナーとの絆を深めることができるだとか何だとか。

試したいと言ったのはただの興味本位だった。
別に彼との精神的繋がりを確かめたいとか思っているわけではない。
10年そこらの付き合いではないのだし、今更確認する必要がない。
正直、フェイタンとしてはもう降りたくて仕方ないのだが……フィンクスの性格上、それはできそうもない。
フィンクスは意外に頭が固い。蜘蛛の活動に限らず、何をするにも「ルール遵守の上で目標達成」というスタイルを好む。
今回のコレもある種のミッションとして捉えている節があるようだ。
目標達成まであと一歩。こんないいところでご破算にするのも可哀想な話である。

「んなクセェ顔すんなよ。明日んなったらイヤってほどぶち込んでやるから」
黙り込んだ恋人を見かねたのか、フィンクスは宥めるように、フェイタンの小さな頭をぽんと叩いた。
「……」
こくりと首を縦に振る小さな身を抱きすくめ、胸元に手を這わせながら頬にキスを落とす。
背中一面にフィンクスの温もりがじわりと広がる。フェイタンはその感覚に劣情を煽られ、我慢できず股間に手を伸ばすも、あえなく腕を掴まれ阻まれてしまう。振り払おうとするが、握力でフィンクスに敵うわけがない。
「今日はこれくらいにしとこうぜ」
「…………」
無言でふてくされるフェイタンをひっくり返して向かい合い、額にキスを落とし、そのまま首筋へ唇を滑らせて、再びうなじを強く吸う。チリッとした痛みと共に新たな赤い花が咲く。
それでは飽きたらないらしく反対側にも噛みついて所有印を増やし、更には肩、背中にも痕を残す。痛覚と快感を同時に与えられ、そのえもいわれぬ感覚に翻弄される。

「フィンクスぅ……エ(ッ)チしたいよ」
「だから、明日になったら。分からん奴だな」
駄々っ子をあやすような口ぶりで返されて、軽く唸りながら諦めたように脱力するフェイタン。
フィンクスはフェイタンを解放すると、その背中をポンと軽く叩いて、さっさと服を身に着け始めた。そのさまを横目で見つめながら、フェイタンも服を着込み始める。
お預けを食らった身体はまだ疼いている。勃起は治まらないし後ろの穴はむずむずして落ち着かない。

(ああ、早くぶち込まれたい)
心の中のぼやきは切なげに溜息に変わる。
「あーあー、早く明日になんねぇかな」
同じことを考えていたらしいフィンクスが顔を見せないままぽつりと呟く。
フェイタンは(そんなにヤりたいならもう解禁でいいじゃないか)と言いたいのをぐっと堪えて、「ね」と軽く相槌を打つに留めることにした。

***

「そういやフェイタン、アレどうなった?」
ぷしゅりと音を立てて、カップ酒を開封しながら問うノブナガ。アレというのは例の本に書いてあったアレのことである。
「アレ?やと4日目終わたところね。日付変わたらミションクリア」
答えるフェイタン。その表情と声音は気怠げに沈みながらも苛立ちを孕み、欲求不満の色がありありと滲み出ている。

廃ビルの一階。共用スペースとして使用している応接室では、ノブナガ、シャルナーク、シズク、コルトピが瓦礫をテーブル代わりにしてUNOに興じている。
フェイタンはその輪に入らず、少し離れた場所で体を横たえて雑誌に目を落としている。心なしか彼を取り巻くオーラは、流星街の廃棄場を流れる溝川のように澱んでいるように見えた。

「実際のところどうだい、そのブラジリアンワックスとかいうのはよ」
ノブナガの問い。「ポリネシアンセックスでしょ」「それじゃ脱毛だよ」と突っ込むシズクとコルトピ。
「『どう』て?はきり言て拷問ね。例えば何日も食事抜いて、すごいお腹空いてる時に好物目の前にぶら下げられて、匂いだけ嗅がされて、一口も食べられないままお預け食らてる状態」
鮮やかなボケとツッコミを見てもにこりともせず、苦々しい顔で答えるフェイタン。
「そんなに?」
「そんなに。」
「飢えてんなぁ」
「いやもうホント餓死寸前。しなければしないで別にいいけど、中途半端にイチャつくからかなりツラいね」
「そりゃ生殺しだね」
「ツラいなら中止すればいいのに」
「ダメね、フィンクス真面目だし。ワタシ何度も『ギブアプしたい』て言たけど『最後までやらないとダメだ』て」
「真面目っつーかバカだろ。たかだかセックスにどんだけ熱くなってんだ」
「ま、アイツそういう人間だからね」
「で、それに惚れてるお前はアホだな」
「ハハ。否定できない」
ノブナガからのアホ呼ばわりに抗議することもなく、フェイタンは力なく苦笑した。
「まぁ、今日まで我慢すればいいわけだろ?明日には目標達成じゃん。思う存分可愛がってもらいなよ」
「そうね」
そしてシャルナークの言葉に頷きながら、UNOを再開する面々を横目で見やる。

「ていうか、ポリネシアンセックスの目的って『精神的な繋がりを深めること』じゃないの?そのせいで苦しんでたら意味なくない?」
シズクがもっともな疑問を口にする。
「どうなのフェイタン?フィンクスに対する愛とか深まった?」
「……さぁ」
「ははは!なに?『さぁ』って、ダメダメじゃん」
「それじゃただの我慢大会だろうが。2人揃って大バカ野郎だな」
「……」
みんな好き勝手な事を言って、シャルナークなどゲラゲラ笑っている。
フェイタンはぶすくれながらマスクの中で唇を尖らせて、ふいと顔を背ける。
そして、そのまま立ち上がって出口の方へと歩みを進めた。
「あれ、フェイタンどっか行くの?」
「眠いから帰るね」
背後でシャルナークの「あそ。おやすみ」という声と、コルトピが「ウノ」と宣言するのを聞きながら歩き去る。

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