フィンフェイがいちゃついてるだけの話

ピンピンと跳ねたコシのある毛先が、服を剥かれた素足をこしょこしょと擽る。
「フェイ。それやめてくんねーか」
こそばゆさに耐えかねて、フィンクスは口を開いた。
「何をやめるか?」
「べたべた触んな。噛みつくな」
「何故?」
「ウゼェ」
いまフィンクスはフェイタンに脚部を弄ばれている。何がいいのか知らないが、尻を撫で回したり太腿に頬擦りしたり、その小さな唇でかぷりと皮膚を咥えてみたり執拗に愛撫してくるのだ。

「我慢する、こういうの慣れ。そのうち気にならなくなるね」
「ざけんな、何で俺が我慢すんだよ。そんなに触りたきゃ自分の触ればいいだろうが」
「ワタシじゃダメよ。フィンクスだからいいね」
「意味がわからねーよ」
抗議するもフェイタンは全く動じない。それどころか、なおさら熱心に手を動かし始める始末だ。

フェイタンはフィンクスが好きだ。気が合うというだけではなく、外見も気に入っている。その中でも彼の肌が好きだ。
フィンクスは体毛が少ない。髪、腋、股間の毛量は人並みだが、眉や髭はないに等しく、胸や脛の毛もほとんど見当たらない。さすがに全くの無毛ではないにしろ「よくよく目を凝らせば腕や背中に金色の産毛が見えるかも…?」と思う程度しか生えていないのである。
無駄毛が少ないだけでなく、肌自体の触り心地も申し分ない。いかにも血行のよい小麦色のそれはどこを触っても温かく、鞣し革のようにすべすべして、しっとりした弾力がある。
皮膚の下に隠された肉体の感触もまた格別だ。上背のある均整の取れた骨格。引き締まった筋肉。ほどよく乗った脂肪。それらの組み合わせが極上の皮膚と相まって、なんとも官能的な造形美を織り成している。
おまけに何とも言えない良い匂いがする。汗臭さや体臭と呼ぶにはあまりにささやかな香りだが、それは確かに存在している。ふつうの男のようなむさくるしい悪臭ではない。爽やかでありながらどこか甘みのある、不思議な芳香なのだ。
筋肉質で体毛や体臭が少ないのはフェイタンも同じだ。けれどもフィンクスの皮膚とは決定的に違う。
自分の肌は生白くて冷たく、何となく乾燥していて、よい香りもしない。皮膚が薄すぎるせいで冬場など毛細血管が透けて青黒く見えて気味が悪いし、僅かに生えた産毛は真っ黒で美しくない。こんなものを触っても楽しくないのである。

「どうせ触んならこっちにしろよ」
そう言ってフィンクスは太股を撫で回すフェイタンの手を取り股間へ誘導した。さんざん刺激を与えられたおかげでそこは既に勃ち上がりかけている。
「ハハハ。なにこれ」
「お前のせいだろ。責任取れ」
笑いながらフェイタンはフィンクスの下着をずり下ろして性器を露にして、まだ少し柔らかいそれを口に含んだ。
フェラチオをしながら陰部を観察した。さすがにここは太い縮れ毛が密集して、饐えた男のにおいがする。けれど不思議と不快ではない。むしろ好ましい。何だかんだで彼の身体の中でここが一番好きかもしれない。
先端から根元まで舐め回し、裏筋に舌先を当てながらゆっくりと扱きあげる。徐々に硬くなっていくそれを口腔全体で包み込み、唇を使って締め付けながら上下させる。
口淫を施すうちに陰茎はますます硬度を増していく。唾液が溢れてくる。喉の奥の方まで飲み込んで、歯を立てないように注意しながら頭を前後させた。じゅぽっ、ぐちゅっと音を立てて吸い上げるたび、頭上から声にならない声が漏れ聞こえてきた。
赤黒い亀頭がパンパンに張り詰めて脈打つような鼓動を感じる。今にも射精してしまいそうだ。口を離して顔を上げると、フィンクスが不満げな顔でこちらを見つめていた。

「なんて顔ねお前」
「ふざけんなよ、いまイきそうだったのに」
ここで満足してもらっては困る。この行為にはまだ目的があるのだ。フェイタンはフィンクスの股間に割り入ったまま服を脱ぎ始めた。まずは上着を放り投げ、次にズボンを下ろす。下着に手をかけたところでフィンクスの視線を感じた。
見られている。それも食い入るように。こうしてじっくり観察されると気恥ずかしいものだ。
脱いだ衣服はその辺に放り投げ、改めて彼に覆い被さり、軽くキスをした。
「挿れていいんだよな」
「当然ね」
「今更念を押さなくても」とフェイタンが呆れたように笑うと、フィンクスも釣られて笑った。
笑うと言えば。いつからかこの男が大笑いするところをめっきり見なくなった。
別にシズクのように無表情なわけでも、マチのようにすかしてるわけでもない。怒りたい時は怒るし気分のいい時は上機嫌だし、まぁ依然として喜怒哀楽がはっきりしている方だとは思う。
問題は笑い方だ。昔のように。あるいはウボォーギンやノブナガのようにバカ笑いはしないし、シャルナークや自分のように「ハハハ」と自然に声を出すわけでもない。
歯茎を見せず、声を上げずに口角を上げる。たまに声を出しても「プッ」だの「へへ」だの実に控えめで、しかも直ぐに止んでしまう。
落ち着いた、あるいは大人になったと言えばそうなのだろうか?相変わらずふてぶてしく粗野で横柄なくせに、なぜ笑い方だけはこう奥ゆかしくなってしまったのか。それを指摘したり、「今のお前も好きよ」「ギャ(ッ)プ萌えね」とか言ったらどんな反応をするだろう。
そんなことを考えていると、不意に視界がぐるりと反転した。仰向けに転がされたのだと気付いたときには、既に両脚を抱え上げられていて、後孔を舐められているところだった。

「フィン、それだめ」
「なんで?」
「くすぐたいね」
「んなこと言ったって慣らさなきゃしょうがねーだろ」
ぬるついた舌先が穴の周りを行き来する。時折思い出したかのように中に入ってくるのだが、その度にビクつく身体を抑えられない。
舌では届かない場所が疼いている。そこが熱を持ってうずうずしているのがわかる。早くどうにかしてほしい。充分に唾液を塗り込むと、フィンクスは指を差し入れてきた。舌とは違う、硬い感触。節くれ立った男らしいそれが、自分の中に入っていると思うだけで興奮してしまう。

「……何してるかお前」
違和感を覚えて問いかける。フィンクスは右手でフェイタンの肛門をほぐす傍ら、左手で白い太腿を撫でていた。
「や、なんかいいなぁと思って」
そう言いながら、フィンクスはフェイタンの内腿に頬擦りしながら続けた。
「確かにこの辺、すべすべしててくせになるな。ずっと触ってたいかも」
彼らしからぬ変態じみた行為が可笑しい。どこぞのちびじゃあるまいし。いつもはもっと淡白というか、こんな風にしつこくないはずだ。

「それやめる。気持ち悪いよ」
「うるせーな。テメェはよくて俺はだめだってか」
そう言って今度は内腿に吸い付く。唇を当てたまま、ちゅっちゅっと音を立てて啄むものだから余計にいたたまれなくなる。
いつの間にか二本に増えた指がばらばらに動いて、腸壁を押し広げていく。そのうち、腹側のある一点を掠めた瞬間、フェイタンは小さく悲鳴を上げた。
フィンクスはフェイタンの反応を見て、執拗に同じ箇所を攻め立てた。指の腹で何度も押し潰されるたび、腰の奥の方から痺れるような感覚がせり上がってくる。
「もうそれいいね。挿れて」
「ん」
堪らず懇願すると、フィンクスは素直に従った。
ゆっくりと挿入してくるそれは太くて長く、先端を飲み込んだところで一旦止まる。息を整えてから一気に根元まで埋めると、今度は浅い抜き差しを始めた。
肉同士がぶつかり合う音が部屋に響く。抽送は徐々に速度を増していき、それに比例して快感が増幅される。結合部から聞こえる水音。肌を打つ乾いた音。そして互いの荒い呼吸。全てが二人の欲情を掻き立てる材料となり、行為はますます激しさを増していく。

「お前、肌白いよな」
律動の最中、フィンクスが呟くように言った。
「髪は真っ直ぐだし手も足も小せぇ。俺とは全然ちげぇわ」
フィンクスがフェイタンの外見について言及することは初めてだ。珍しいこともあるものだと、フェイタンは一瞬驚いた。けれどすぐに合点がいった。きっと自分のせいだ。自分のフェティッシュな行為に触発されて、これまで見向きもしなかった箇所に興味を抱いたのだろう。
フィンクスの視線はフェイタンの顔や秘部ではなく腹や腕、脚に集中している。普段目もくれない部分をじっくり観察し、記憶に留めようとしているようだ。
そんなことしなくても、お前にはいくらでも見せてやるのに。
フェイタンは心の中で苦笑しつつ、自分からもフィンクスの身体に触れ、抱擁した。心臓の辺りを舐めると薄い塩味がした。そのまま脇に逸れて、腕の付け根に鼻先を移動させる。やはりフィンクスの心地よい匂いがする。

「んあっ、」
ふと思いついて、胸板に張り付いた色素の薄い乳首を軽く噛んだ。頭上で甘い声が上がる。
「〜〜〜…バカ!変な声出ちまったじゃねーか」
一瞬身を捩って悶えるも、頭から湯気を出さんばかりに抗議するフィンクス。その反応が可愛かったので調子に乗って何度か繰り返すと、仕返しをするように激しく突かれた。
その頃には既に理性が溶け始めていた。頭の中ではただひたすら快楽を求めることでいっぱいだ。もう何も考えられない。
フェイタンはフィンクスの首にしがみつき、耳許で囁くように言った。その言葉が引き金となったのか、フィンクスの動きが激しくなる。まるで獣のように激しく、力強く突き上げてくる。
ああ、気持ち良い。このままずっとこうしていたい。
そんなことを思いながら二人は同時に果てた。

***

「スフィンクスって猫、知ってる?」
キーボードをカタカタと叩きながらシャルナークが問う。
「は?砂漠にある三角形のアレのことか?」
その辺にもたれ掛かって雑誌を読んでいたフィンクスは顔を上げて聞き返した。
隣にいたフェイタンもシャルナークの方に視線を向ける。

「それを言うならピラミッドですね。いま言ったスフィンクスとはネコの一種です。無毛とされていますが実際は非常に細かい毛に覆われており、このベルベットのような手触りが魅力のひとつといえましょう。被毛が薄いため高温にも低温にも弱く温度管理をした室内で飼育する必要がありますが、気性は陽気で人懐こく、飼いやすいと定評があるようです」
知識をひけらかすシャルナーク。こういう時の彼はなぜか敬語である。別にどうでもいいことなのだが。

「百聞は一見に如かずといいますからね。ちょっと検索してみましょう……ほら。こんな感じです」
モニターにあったのは奇妙な猫の写真であった。
獣特有のふさふさした毛皮はない。つるりとした質感の皮膚は弛みきって、体の要所要所で皺になっている。
白。黒。はちわれ。皮膚のパターンや皺の寄り方には個体差があるようだ。全身ピンク色で顔までしわしわで、脳みそを擬人化(擬猫化?)したような姿をした個体まである。目がやたら大きくて、頭蓋骨の輪郭がくっきりと浮いた頭部は、まるでSF映画に出てくる宇宙人のようである。

「げー…ブッサイクだなぁ。本当にネコかこれ」
思わず顔をしかめるフィンクス。一方フェイタンは興味を持ったようでしげしげと写真を見つめている。
「でもこれ、お前に似てるね」
フェイタンは写真のひとつを指差して言った。
「いや、俺こんなかよ?名前しか似てねーだろ」
「あー。毛薄いし人相悪いもんね」
「…おい」
「しかも人見知りしないて書いてあるよ。見た目だけじゃなくて性格も同じ」
「でもさぁ、フィンクスって室内飼いなんて柄じゃないよなぁ。飼い主殺して脱走した挙句野良猫のボスになってそう」
「あのな」
「ってか俺、飼うんなら普通の猫がいいなぁ。やっぱり生き物ってフワフワな方が可愛いもん」

さんざん好き勝手言って気が済んだらしい。シャルナークは他のキーワードで検索して、ディスプレイに表示された画像を見ながら、これ可愛いだの、この黒いのは団長っぽいだの、このでかいのフランクリンに似てるだのと独り言ちっている。

「ケッ。てめーら失礼にも程があんだろ」
よほど例の猫に似ていると言われたのが気に入らないらしく、フィンクスはすっかりいじけてそっぽを向いている。
その子供っぽい仕種がまた愛らしくて、フェイタンはマスクの下で口角が上がるのを感じた。


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