こいつはまだなにもしらない

「フィンクス」
黒髪が呼びかける。
「ん?」
誰かの連絡を待つように、携帯端末を片手に横になっていた金髪が億劫そうに顔を上げる。
黒髪は不適な笑みを浮かべると無言で金髪に跨がった。

「何だよフェイ」
「したくなた」
「怪我人のくせに?」
「怪我人のくせに。」
「オメーほんと好きもんだな」と溜め息を吐きながらも金髪は腕を伸ばして黒髪を抱き寄せる。
汗ばんだ肌同士が吸い付くのを感じながら、黒髪は自由の利く右手だけで下半身の衣服を下ろし始めた。

――女王蟻を仕留めたあと、フェイタンは暫しの間フィンクスとともに流星街に留まることにした。
出かける前に預けた赤ん坊のことを忘れたわけでも、ばっくれようとしているわけでもない。迎えに行ったところで片腕では満足な世話ができまいと考えたのである。
一般的に念能力者の肉体は非能力者と比べて強靭で治癒力も高い。
絶状態でおとなしくしているうちに産後の痛みも悪露も治まった。折れた骨も一週間もあれば繋がるだろう。その頃には子供を引き取りに行ってやるつもりだ。

(帰ったらまたガキのお守りか。うざってぇな)

つくづく自分には親の素質がないとフェイタンは思う。
存在に気づいて。胎動を感じて。産み落としたあとでさえ、一度として我が子を愛しいと感じたためしがないのである。
そのくせ人並みの親がましくシッターを探し、預けて、しかも律儀に迎えに行ってやる気でいるからお笑い種だ。
本当は多少なりとも愛着があるのか?と自問するが、やはりそうは思えない。
仮に自分がトンズラこいたとして。母親に捨てられた赤ん坊よりも、人のよさそうなシッターの方が気の毒だと思うくらいである。
あくまでも仮の話だ。そんなことはしない。赤ん坊は流星街に置いていくと決めている。
いつ頃連れて来ようかと胸算用する一方で、そんな面倒臭いことをする必要はないのにとも思う。
子供を捨てる場所なんか何処だっていい。その辺の路地裏だとか公衆便所にでも投げておけばいい。それなのに何故流星街に拘るのか、理由が分からなくて我ながら可笑しくなってしまう。
一部の回遊魚は己が生まれた場所に戻って産卵するという。ひょっとしたら自分もそういう不条理な義務感に駆られているのかもしれない。

(でもまだ早いな。今は街中が混乱してるし…)

キメラアントによる犠牲者の埋葬が追い付いていないらしい。
遺体を安置している寺院はここから随分と離れているが、風向きによってはけっこうな死臭が漂ってくる。このままだと疫病が流行るかもしれない。
臭いからといって空調もない部屋を閉め切っていては暑くてたまらないので、現在は仕方なく窓を開け放し、香を焚いてにおいを誤魔化している始末だ。

そんな故郷の香りにうんざりしながらも、フェイタンはフィンクスの汗ばむ首筋に舌を這わせる。
そのままま舐め上げ耳朶を甘噛みすると、逞しく伸びやかな肉体が僅かに身動いだ。
「少し塩ぽいね」
「暑ちぃんだからしょうがねぇだろ」
唇を尖らせる彼の手はすでにフェイタンの胸元にある。
親指の先が乳房の先端を掠めた瞬間フェイタンの体が僅かに硬直する。乳腺から何か溢れそうな気配を感じる。それと同時に下腹部にも熱が集まって、とろとろした熱い蜜が溢れるのを感じた。

「フィンクス、そこダメ」
「何で?痛いのか?」
「うん。生理前で張てる」
「ふーん」

咄嗟に嘘を吐く。
どうする?本当のことを言ってやろうか?
実は子供を産んだばかりで母乳が出るのだと告げたら?
お前は父親になったと教えてやったら?
その瞬間の反応を見たい気持ちは大いにあったが、へたに気遣われてお預けを食らうのは困る。
結局何も言わずフェイタンは逆にフィンクスの胸を愛撫しはじめた。
分厚い大胸筋を揉み、服を捲って乳首を転がす。そうしているうちに徐々に互いの吐息の温度が上がっていくのが分かった。

「そんな揉んだって何も出ねーぞ」
「当然ね。出たらびくりするよ」
自分は出るんだけど。見せびらかす気にはならない。左腕を吊るした状態でいちいち上着を着脱するのは億劫である。

「……お前、最近ヘンなことあったか?」
思いがけぬ問いかけに内心どきりとする。
「別にないけど。どうして?」
「あー、うまく言えねぇけど。なんつぅかこう女っぽくなった気がすんだよな」
「ワタシもともと女よ」
そう言って鼻で笑ってやった。フィンクスは納得いかない様子で、ない眉を寄せている。

「そりゃそうだがよ……まいっか。オレの勘違いかな」
「いいから早く続きするね」
わざとらしく腰を揺らしてねだる。尻の下敷きにしたモノが、ますます質量を増していくのが分かった。
大きく無骨な手が白い肌を撫でる。痛むという乳房への愛撫を避けて、腹や腰の括れを揉みしだき、下肢へと伸びる。すでに充分潤ったそこに節くれ立った指がズブズブと飲み込まれていく。

「あ……、」
待ち望んだ刺激に思わず声が出る。
「濡れるの早くねぇ?」
フィンクスの言葉に答えず彼の唇を奪った。舌を絡め唾液を交える。同時に指で膣内をかき回され、上下から快感の波が押し寄せる。長い接吻の後、酸欠になった二人はどちらからともなく唇を離した。

フェイタンは弾む息を整えながら、濡れそぼった陰唇で反り返った陰茎を挟んで、腰をスライドさせてしごき始めた。
いわゆる素股というやつだ。小柄な女体が動くたびに二人の性器が淫猥な音を立てる。
「は……あぁ……」
「あ、ヤベェこれ。めちゃくちゃ気持ちいい」
フィンクスの口から漏れる喘ぎに満足しながらフェイタンはさらに動きを速める。
確かに出産前に比べて幾分濡れやすくなったような気がする。
この男はバカだがバカではない。鈍感に見えて意外に神経が細かい。口に出さないだけで、他にも当人が自覚し得ない微妙な変化に気付いているのだろうか?

「ヤベ。出そう」
「まだダメよ。本番これから」
フェイタンは動きを止め、しかしフィンクスの身体に跨がったまま、性器を見せつけるように腰を浮かせる。
「ここをどうしたい?」
二人分の液でヌルついた亀頭が入り口に触れる。その先端がほんの少しだけ中に入り込んだところでまた引き抜く。
「分かりきったこと訊くんじゃねーよ」
「分からないね」
「挿れてぇんだよ」
むっとしながら言うフィンクス。今の状況と彼の外見には似つかわしくない表現だが、子供っぽくて可愛いと思う。
「どこに?何を?」
「決まってんだろ。ここにこれをだよ」
腰を掴まれ、ぐいと引き落とされ、深く杭打たれる。

「ひ、ッ」
突然の衝撃に情けない悲鳴を上げてしまう。勢い余って亀頭が子宮口を。つい最近赤ん坊をひり出したばかりの箇所をノックする。
脳天まで突き上げられるような錯覚さえ覚え、そのあまりの快感に一瞬意識が飛びそうになった。
休む間もなく抽挿が始まる。太い雁首でGスポットを擦られ、膣壁をゴリゴリ削るように最奥まで突き上げられる。そのたびにフェイタンの喉からは意味を成さない母音だけが押し出される。

「あ、あ、ああァ!フィンクス、もと、ゆ(っ)くり……」
「無理だって。なんかお前の中スゲェ熱いし、良すぎて止まらねぇ」
フィンクスはフェイタンの尻を鷲掴みにして、いっそう激しくピストン運動を繰り返した。その激しさに結合部から泡立った愛液が溢れる。
「あ、あん、あンッ」
「クッソ」
堪り兼ねた様子で体を起こしてフェイタンを抱き抱えるフィンクス。そのまま立ち上がり、駅弁の体位で突き上げる。

「いや、だめ、ね、深い!」
「悪ィ。マジで止まんねぇわ」
ズンズンと下から揺さぶられる度に、視界が揺れる。フェイタンは右手だけでフィンクスの肩にしがみつき、その胸元に熱い吐息を吹きかけた。
膀胱の裏辺りを擦られるたび尿意じみたものを感じる。このままだと失禁してしまいそうだ。
「そこダメ……漏れそう」
「おー、漏らせ漏らせ。屁でも糞でも引っかけろや」
フェイタンの訴えを無視してさらに責め立てるフィンクス。
「やめ、ホントに出る……あ、」

次の瞬間、フェイタンの尿道から無色透明の液体が吹き出した。それは水鉄砲のような勢いでフィンクスの陰毛を濡らし、下半身を伝って、ぼたぼたと音を立てながら床に落ちていく。
「あ……あぁ……」

母親のくせにお漏らしとは。
羞恥と屈辱で涙が出そうになりながらも、それ以上の快楽で放心してしまう。
フィンクスは「あーあ」などと言いながら暫し足元の水溜まりを凝視したあと、小刻みに震えるフェイタンの身体を床に押し付け正常位の体制を取る。彼女の左腕に響かないよう、そっと。

「イっちまったのか」
呆れたように言いながらも、その低い声はどこか嬉しそうだ。
「うるさい。くたばれ変態」
「そりゃお互い様だろが」
罵詈雑言を軽く受け流して、フェイタンの両足を大きく割り開き、真上から体重をかけて挿入してくる。フェイタンはその圧迫感に思わず顔をしかめた。
「あぁ……あ、ひぃ、い"」
再び始まる激しいストローク。フェイタンの口からは断続的に喘ぎとも悲鳴ともつかないものが漏れる。

「なぁ、お前やっぱりいつもと違うわ」
律動を続けながらそんなことを宣う。
やはり使い心地が違うのか。そりゃあそうか。この穴から人間をひり出したのだから。何も変わってない方がおかしい。
「またその話。どう違うか」
「分かんねぇけど」
……『分かんねぇ』ってお前。
「なんか、すげぇ柔らかい」
「柔らかい。緩い?」
「緩くはねぇよ。なんつーの?弾力があるってか…すげー密着するっていうか」
語彙力が追い付かないらしいフィンクスは動きを止め、奥まで挿入した状態で膣内の感触を味わいながら暫し考え、やがてフェイタンの腹に手を当てる。そして何かを探るような仕草をした。

「こことか」
臍の下あたりを軽く押される。子宮の辺りだ。
「分かるか?奥、吸い付いてきてんの」
「別に吸い付いてるつもりないね」
「あとこっちも」
今度は結合部をなぞるように指を這わせる。
「きついだけじゃねぇんだよな。ちゃんと俺の形になってて、ピッタリ嵌まってんだよ」
「なにそれ」
何言ってんだこいつ。気持ち悪いにも程がある。

「うまい表現が見当たらんが、とにかくヤベェくらい気持ち良いってこと」
そう言うなり抽送を再開するフィンクス。フェイタンは眉間にシワを寄せ、目を閉じ、その刺激に耐える。
さっきから何回気持ちいいと言うのだ。気持ち良いのは自分も同じだ。

「ふぅ、うぅ……ん」
「なぁフェイ、こっち向けよ」
「……」
「無視すんじゃねぇって」
「黙れ。口利くな。ささとイけ」
「お前よぉ、自分から誘っといて散々じゃねーか?」
「黙れ言(ゆ)てるのが分からないか…、ん」
文句を言う口を塞ぎながらフィンクスは腰の動きを速める。いやいやをするように頭を振るフェイタンの顔を固定し、より一層深い口付けを交わす。舌が絡み合い、互いの唾液が混ざり合う。
唇を解放した途端、フェイタンが荒い呼吸を繰り返す。その頬は上気し薄紅色に染まっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ」
「やべ、そろそろ出そう」
切羽詰まった声でそう告げるとフィンクスはフェイタンの肩を抱いた。
背中を丸め、ギプスを圧迫しないよう、彼女をすっぽりと覆うようにして。
絶頂に向けてラストスパートをかける。その顔はフェイタンからは見えない。
一際強く突き上げられ、ポルチオに亀頭がぶつかる感覚があった瞬間、熱いものを注がれているのを感じた。射精の脈動に合わせ収縮する膣内を更に押し広げるように、最後の一滴まで注ぎ込むよう深く突き刺される。彼女は快楽の中で、自分の肉体に遺伝子を刻み込まれている事実に高揚感を覚えながら、彼の屈強な腰に脚を絡め、二度三度小さく身震いした。

「……すげぇ出た」
吐精を終えて引き抜こうとして引き留められ、きょとんとしながらフェイタンを見下ろすフィンクス。
「どした?」
フェイタンは答えない。蟹挟みでフィンクスを捕らえたまま、甘えるように首筋に額を擦り付けるだけだ。
「あーもう、はいはいはいはい」
苦笑しながら抱き締め、赤ん坊をあやすようにぽんぽんと背中を叩く。
フェイタンは相変わらず無言のまま頭をもたげてフィンクスの首筋に口づける。そして強く吸い付いて、まるで自分の所有物であるかのように無数の赤い痕を残した。
「フェイ、キスマークつけすぎ。皆に見られたらどうすんだよ」
「見せつけてやたらいいね」
「マジかよ」
「恥ずかしいか?やぱりお前、乙女ちくね」
「うっせバカ」
フェイタンは満足気に微笑むと漸く足を離した。
萎えた陰茎が膣圧でずるりと抜け落ち、それ追うようにして白濁液が流れ出る。

「お前、いつか妊娠しちまうかもな」
もうしたんだけど。
そしてお前はもう父親なんだけど。
「そしたらフィンクスの子供産んでやるね」
ひょっとしたら何か気付いてカマをかけているのか?…と一瞬考えたが、この男はそんなまどろっこしいことをする性質ではないことに思い至り、冗談とも本気ともつかない口調で答える。

「産んでどうすんだ?」
「流星街(ここ)に置いてく」
「何だそりゃ」
「ここ捨て子沢山。仲間外れなることないし、きとそれなりに生きていけるよ」
「ふーん、よく分からんな。優しいんだか優しくねぇんだか」
他人事のように相槌を打つフィンクスを見上げながら、フェイタンはフンと鼻を鳴らす。

「馬鹿」
「は?何だそれ」
「そのままね。事実言ただけ」
「だから意味分かんねぇっての。やっぱ今日のお前おかしいぞ」
「いいから退く。重いよ」
「へーいへい」
適当に返事をして、気怠そうに立ち上がるフィンクス。
「あ。」
愛液で濡れたモノをちり紙で拭う最中、床を汚したことに思い至ったらしい。さっと服を整えて掃除を始める。

「フェイ。ボケーっとしてないで早くパンツ履け」
「うん」
「ま〇こ拭くのも忘れんなよ。で、服着たら飯でも食いに行こうぜ」
フェイタンはその姿をじっと見つめていたが、フィンクスに促されて身支度を始めた。
ひょっとして自分よりこいつの方が親の素質があるんではないだろうか。と思ったが、それを口に出すことはなかった。

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