シャルフェイがしてるだけの話

不意に愛撫を止められる。
中途半端に性感を高められたまま放置され恨みがましい目を向けるフェイタンをよそに、シャルナークは何かを閃いたようすでベッドを下りた。

「そうだそうだ。いいものあるんだった」
心底楽しそうな、それでいて裏がありそうな、人を小馬鹿にしたような。とにかく胡散臭い笑みを整った顔に貼り付けて。
こういう時の「いいもの」が本当であったためしがない。フェイタンの訝る視線を受けながらシャルナークはサイドテーブルの引き出しを開け中を探り、やがて目当てのものを見つけたらしく、「あったあった」などと独り言ちながらそれを取り出してフェイタンの眼前に差し出した。

「これ、なーんだ?」
それは男性器を模したバイブだった。
「これ、お前が買たのか」
「まさかだろ?こないだの盗品に紛れ込んでたのさ。使った形跡はないから衛生上は問題ないよ、多分だけど」
「……」

フェイタンは無言でそれを手に取り、くるくると回したり握ったりしてみた。
成る程。大きさといい質感といい申し分なく本物に近い。違うところを挙げれば、血が通ってないことと、竿全体にイボがあることか。
よくよく見るとイボの正体は大粒の真珠らしかった。
まさか真珠もこんなもんの一部になるとは思ってなかったろうに。
肉色のエラストマーに虹色の粒が点在するその外観は、なんだか悪い病気のようでもある。
これがただの突起ではなく棘なら拷問に使えそうなのだが。
…などと考えながら、卑猥なオブジェを真顔で観察するフェイタン。それを観察しながら口を開くシャルナーク。

「嫌なら無理強いするつもりはないよ?俺も興味本位でもらっといただけだしさ」
フェイタンはその言葉を聞き流し、しばらく思案したあと、おもむろにその先端を自分の後ろの穴にあてがった。
「ありゃ。使うんだ?」
「いちいちうるせぇな」と思いながらも、フェイタンは息を吐きながらそれを直腸に押し込んでいく。
先程まで指で散々弄ばれていたそこは難無く玩具を飲み込み、根元までずっぽりと収まった。

「どう?感想は」
「悪くないけど、所詮オモチャ。ただ入てるだけで気持ちよくも何ともないね」
バイブを抜き差しする度にピンク色の肉壁が捲れ、押し込まれ、何とも淫靡な光景が繰り広げられる。
フェイタンは特に感じ入るようすもなく無感動に抽挿を繰り返している。気持ちよくないというのは本心らしい。
シャルナークはその様子をまじまじと見つめていたが、ふいにベッド脇に転がしておいたカメラを右手に取り、録画ボタンを押した。
そしてレンズ越しにフェイタンを見据えると相変わらず笑みを浮かべてこう言った。

「ねぇ。せっかくだから動画撮らせてよ」
「……ハ?」
何が『せっかく』だ。ていうかお前、色々ガラクタを隠し持ってるな。
そう言ってやろうとした時、突然振動を始めた玩具のせいで喉の奥から変な音が漏れてしまった。
「あは。びっくりした?」
いたずらっぽく笑うシャルナークの左手にはリモコンが握られている。
まぁ、予期せぬ刺激に驚いたというだけで何ということはない。フェイタンは尻の中で響くモーター音を聞きながら、疎ましそうに眉間を歪めて黙っていた。

「なんか反応薄いねぇ。パワー上げてみる?」
「別にいいね。やぱり全然よくないよコレ。動き単調だし邪魔くさいだけ」
「でもさ、フェイタン勃ってるよね」
そりゃあしつこく攻められ続ければ何かしらの変化があるものだ。そんなものは生理的反応に過ぎず、無機質な震動は快感を得るには至らない。フェイタンは内心で溜息をつくとバイブを引き抜き床に捨て置いた。

「もういいの?」
「興醒めね。それより早く続きやるよ」
「おっと」
半勃ちのまま放置されていたシャルナーク自身に手を伸ばすも、その腕をがっしと掴まれる。
「しゃぶってくれたら挿れてあげる」
「……」

フェイタンは不服そうな表情で舌打ちすると彼の足元に屈み込んだ。そして躊躇なくシャルナークの性器を口に含むと頭を上下させ始める。
唇で扱き上げ、亀頭から竿にかけて丹念に舐める。時折尿道口に尖らせた舌を差し込むとシャルナークは小さく喘いだ。やがて完全に勃ち上がったそれを口から離すと、今度は手で擦り上げる。裏筋をなぞり、カリ首を引っ掻き、陰嚢までもみくちゃにして、それに飽きたら口淫を再開する。
そのようすはやけに手慣れており、気怠げでふてぶてしい態度も相まって手練れの娼婦のような雰囲気を醸し出している。

「いっつも思うんだけどさ。フェイタンってすげーフェラうまいよな」
「……」
股間に埋まる黒髪を撫でながら、弾む息で問いかけるシャルナーク。
「どこで覚えたの?実は普段、そういうお店で働いてたりしない?」
「お前少しは黙てられないのか」

さっきからいちいち疑問符で話しかけてくるのがまた鬱陶しい。
相変わらずカメラを構えたまま無駄口を叩く、その笑顔の小憎らしい事ときたら。
この口をこじ開け、顎を外して、バイブを胃袋まで突き刺してやったらどんなにいい気分だろう。
勿論そんなことはしない。思うだけだ。団員同士での殺し合いはおろかマジギレをしてもいけない。フェイタンはこの旅団のルールを思い返し、無表情に一匙の不快感を呈して奉仕を続ける。

暫し愛撫を続けるとシャルナークの背筋が強張り始めた。
絶頂に近づき精液を吐き出そうとしたようだが、寸前で手と口を離された為にそれは叶わなかった。

「ひどいや。今イきそうだったのに」
「ダメね。約束」
「はいはーい。わかってますってば」

シャルナークはカメラを置くとフェイタンを押し倒し、脚を開かせて怒張したものをあてがう。
そのまま一気に挿入するのかと思いきや、入り口付近をゆるゆると抜き差しし始めた。
焦らすような動作に苛立って文句を言ってやろうかと思ったその時。
ミチミチと腸壁を掻き分けて侵入する圧迫感を感じて、フェイタンの背中が大きく仰け反った。

「ぁ……」
――気持ちいい。やはり本物の味は違う。
バイブとは比べ物にならない程の一体感に脳髄が蕩けるようだ。

「あーすごい。たまんない」
「いいから早く動け。さんざん焦らしやがて」
屈曲位の姿勢で、シャルナークの肩に足をかけて快楽に身を委ねる。
ピストン運動の度に結合部から卑猥な水音が響く。次第に抽送のスピードが上がり呼吸が荒くなる。
「あ……ん、う、ぅ」
「もっと声出していいよ。欲しかったんでしょ?」
耳元で囁かれ思わずびくりとする。こいつは本当に嫌な奴だ。フェイタンは心の中で毒づいたが、身体は正直なようでいっそうの快感を求め強請るように腰を揺らした。

ふと視線じみたものを感じて、その方角に目をやる。
その正体を見て、あっと呻いた。
サイドテーブルに置かれたカメラがこちらを向いている。
その大きなレンズで二人の秘め事を凝視しているではないか。

「……撮てるか?」
「うん。バッチリ録画中」
「ふざけてるか。消せ」
指が食い込むほどシャルナークの肩を強く掴んで睨みつけるも、彼は悪びれもせず笑っている。

「なんで?別にいいじゃん、俺が個人的に楽しむだけだし」
「良くないね。お前ワタシが恥ずかしい思いしたら喜ぶヤツね。趣味悪いよ」
「そうかなぁ。俺はフェイタンが感じてる姿を見るのが好きなだけなんだけど」
「変態。物狂い。お前異常者ね」
「あはははは、それ褒めてんの?っていうか自己紹介か。おかしいのはフェイタンもいい勝負だもんな」
「……もういい」

だめだ。何を言ってもめげる気配がない。
きっとこいつは母親の股からではなく口から生まれたに違いない。
フェイタンは諦めてカメラの存在を忘れようと努めた。しかし意識すればするほど気になってしまう。
いまその記憶媒体にはシャルナークのモノで犯され、快感に溺れていく自分の姿が収められているのだ。
この情事がモニターいっぱいに映し出され再生されるさまを想像してみた。そこに見る自分はこの上なく浅ましく不格好だった。だがどういうわけか、その姿にひどく興奮もした。

「ちょっとフェイタン。集中しろよ」
シャルナークの声にはっと我に返る。
「何考えてたんだよ」
「別に何も」
「嘘つき。ま、知ってるけどさ」
シャルナークはフェイタンの腰を掴むと更に奥深くへと性器を突き立てた。内臓を押し上げられる感覚に息苦しさを覚えると同時に、今まで以上の悦楽を得る。

「ぎ、ッ……」
「自分が犯されてるとこ想像して興奮してんだろ?」
「……そんなわけないね」
「じゃあカメラの方チラチラ見てるの何で?」
「お前こそ集中したらいいね。さきから本当にうるさい」
「うん。ほら、こうやって突かれると堪らないだろ。フェイタンここ好きだもんね」
「〜〜〜…!」
前立腺を擦られ目の前に火花が散る。その瞬間、頭の中に白い霧がかかったように思考が停止してしまった。

「あれ、イッちゃった」
「……」
返事をする余裕もない。フェイタンは肩を上下させながら呼吸を整えていた。
「いじめすぎたかな。じゃあお詫びにもう一回イカせてあげる」
シャルナークはそう言うと再び律動を始めた。今度は先程よりも激しく打ち付ける。

「や、あ!待……!!」
達したばかりの敏感な身体を責め立てられて息も絶え絶えに制止を求めるフェイタン。だがシャルナークはそれを無視してなおも攻め立てる。
「いやだ……やめるね、今、は……ァ!」
懇願も虚しく、フェイタンは再び絶頂を迎えた。射精を伴わないオーガズムはより深い快楽をもたらし、彼の理性を蝕む。

「…うわ、すげー」
そう言ってゆるゆると腰を動かしながら、またカメラを手に取り結合部を撮影する。
「分かる?フェイタンのナカ、ぐっちゃぐちゃになってるよ」
シャルナークのものを飲み込んだそこは赤く充血し、泡立ったローションと腸液が入り交じってドロドロになっている。フェイタンからは見えないそれは、あまりにも卑猥な光景であった。
「あとで一緒に見よう。スナッフビデオより絶対面白いよ」
「……」
いいよ別に。見たかない。
「あ、そうそう。この前ネットで見たんだけど、ケツの穴に金属棒突っ込んで電流を流すと射精が止まらないんだってさ」
だからどうした。それとこれと何の関係がある。

「今度やってあげようか」
「冗談じゃないね。自分でやたらいいよ」
「え。なんで?」
「なんでもクソもないね。痛いの嫌い」
「そんなこと言わずに一度くらい経験してみれば?拷問のレパートリーが増えるかもよ」
「するのいいけど、されるの嫌いよ」
「俺がやるんなら文句ないでしょ」
「……お前絶対(ぜたい)殺すね」
「はい団員同士のマジギレ禁止」
そう言いつつ再びカメラを置いて、フェイタンの唇に口づけを落とす。そのまま舌を差し入れ絡めてきた。

「ン……ふ」
互いの唾液が混じり合い、口角からこぼれて顎まで伝う。
「っ、ぁ……」
「そろそろ出すよ」
やがて絶頂が近づいてシャルナークの動きが激しくなる。肌のぶつかり合う音がいっそう激しく部屋に響く。
陰茎が引き抜かれるたび、名残惜しいというように肉壁が絡みつく。その刺激にシャルナークの端正な顔が切なげに歪む。そして一気に奥へ突き入れ、引き抜き、射精間近のそれをフェイタンの唇に突きつけた。

「飲んでよ」
言われるままに口を開いて、喉の奥へと流し込む。扁桃腺への刺激と自分の味に思わずえずきそうになる。
「ぅ、おェ」
「おっと。吐かないでね」
吐き出す寸前のところで頭部を固定されてしまう。抜け目のないことに、噛めないよう顎関節を固定しながら。
「ほら、出すよ」
「……ッ」
鼻をつままれ、喉の奥に射精された。
シャルナークのモノが脈打つ感覚。込み上げる嘔吐感を押し戻すように流れ込む青臭い匂いと粘っこい感触。フェイタンはそれを、顔を顰めながら飲み下す。
「飲めた?」
「……」
目を白黒させながらも睨みつける。彼はどこ吹く風といった様子である。
顎を捕らえた手の力が緩む。フェイタンはその隙にシャルナークの萎えかけたモノを口から抜き取った。
「……ン、」
息をつく暇もなく唇を奪われ、舌で唇を割られる。
こちらからも舌を絡め、唾液を交換しながら思う。
――こいつは自分の精液を味わって気持ち悪くないのだろうか?

二人の唇がぱっと離れる。ベッドの下でモーター駆動音がして、何事かと飛び起きた。
どうやらシャルナークの肘がシーツに転がったリモコンを圧迫したためにバイブのスイッチが入ったようだ。
「あ、ごめん。なんか変なボタン押しちゃったみたい」
自身の振動で床をうねうねと這い回る、ブツブツだらけの男性器の姿が情けないやら滑稽やらで笑いが込み上げる。
シャルナークの間抜けな物言いも相まってツボに入ってしまい、堪え切れずにプッと吹き出すフェイタン。
「え?ちょっと、なんで笑ってるの」
「だ、だて…ひひひ……アレしんどいね、可笑しすぎ……」
こうなってはもう止まらない。笑いが笑いを生んで余計に泥沼に嵌り、腹を押さえて蹲ってしまう。

「……俺、フェイタンの笑いどころよく分かんないよ」
シャルナークは苦笑いをしながら、足元に転がる男性器型の玩具を片づけた。
(それから暫くの間、フェイタンの思い出し笑いが止まらなくなったのはまた別の話である)

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