Memo | ナノ


ハイテンションな女子高生の話

「ねぇ、ちょっとそこの馬鹿」
突然罵倒してくるとは一体何者。ていうか何奴。手に持ったお盆に気を付けながら、半ば喧嘩腰で後ろを振り返ると、そこには見慣れた顔。なんだよコイツか。
「なによ秀才」
「あぁ、アンタ馬鹿って自覚あんのね。そんならそこら辺の馬鹿よりはマシだわ」
小バカにしたように鼻で笑う。あ、露骨にバカにしたのか。
ていうかこの人本当何。いやまぁ馬鹿で返事する私も私だけど、秀才って言って反応する方もどうかと思いますよ?学年1位だから否定はしないけどさ。
「あ"ーもうその毒舌は今度にして。あとでたっぷり聞くから」
「え、アンタ何。そういう趣味あったの……?」
「本気で嫌な顔しないでよ!!ていうか違うし!!ちょっと日本語苦手なんだよ馬鹿!!」
「馬鹿じゃないわよ、秀才よ」
「自分で言うなよ!!あーもー何。用件を早く言ってくれません?」
私はこのお盆に乗っているぷるっぷるの杏仁豆腐と早く戯れたいんだから。あ、いや、戯れるっていうか食べるだけですけどね。全身で戯れるとかそんな変な趣味ないよ?そんな変態じゃないよ?
私なんて、この杏仁豆腐のために学校に来てるんだから。杏仁豆腐なかったらもう私不登校決定だよ。うん。
そして杏仁豆腐だけじゃないんだよ。私が気になってるのは。その素敵な杏仁豆腐の横に堂々と構えているのは味噌ラーメン君。学食で唯一美味しいと言われているこのラーメンは、濃厚な味噌スープが並々と入っていることが何よりの特徴である。メンマやチャーシューもたっぷりで具だくさん。ということで、お盆を運ぶのには一苦労だ。ちょっと揺れるたびに溢れそうになるから必死。耐えろ……耐えろよ、味噌ラーメン君。信じてるよ。
「その杏仁豆腐美味しそうね。ほら、……渡せ?」
普段見せないようなそんな素敵笑顔で言われましても。
「ぜったーい、や、だ!!!」
べー、っと舌を出して精一杯の断固拒否。伝わったか。私の気持ち!
「おこちゃま!ケチ!馬鹿!ろくでなし!人でなし!」
伝わってないうえに(そもそも聞いてくれてない)滅茶苦茶暴言吐かれた。
いや、杏仁豆腐くれないからって大声で人を罵倒してる人に『ろくでなし』とか『人でなし』なんて言われたかないよ。お前も大概だろ。
「何とでも言えばいい。私は食べないと命に関わんの!」
「嘘おっしゃい!」
「そうですけども!」
うーっと威嚇していると、奴は諦めたかのように首を振った。溜め息と共に仕方がない、と呟いて何をするかと思えば、
「漬け物あげるからそれよこせ」
「何で漬け物チョイスしたんだよ!?」
奴の手には日替わり定食。カラボナーラになぜか漬け物がついてくるような、よく分からない学食。ここのおばちゃんのセンスおかしいんだよな。……っていうかプリンついてるのに何故に漬け物チョイスしたんだよ本当に。
心優しい私は一つ提案。
「プリンなら考えてあげなくもないけど?」
「駄目よ。プリンは私が美味しく頂くから★」
こいつホント張り倒したい。
しばらくお互い無言で睨み合っていると。
「ハルちゃ〜ん!ゆうちゃ〜ん!」
後ろから女子より女子らしい女子の声が。振り返ると手を遠慮がちに振ってきた。何この可愛い生き物。
「あのねあのね!購買の『今日のおやつ』がプリンと杏仁豆腐だったの!美味しそうだから二人に買ってきたよ〜」
にこにこと笑いながら言うこの天使は架鈴かりん という。名前まで可愛いというハンデを持つ架鈴は私の親友の一人。
まぁもう一人は、杏仁豆腐の奪い合いをしてた優奈ゆうな とかいう女なんだけれども。
「さっすが架鈴!あたしのことよく分かってるね」
「ゆうちゃん、今朝杏仁豆腐食べたいって言ってたから」
まぁ、優奈は毎朝言ってるんだけどね。ちゃんと覚えてるとこ、さすが架鈴。将来有望。
「春ちゃん、プリンでいいよねー?」
春ちゃんこと、松島千春は首を折れるかってくらいに縦に振る。ああいや、私のことです。分かりにくくてすみませんね。一応名乗りたかったんです。
「ありがと!架鈴は何買ってきたの?」
「ん、あ……。」
「まさかアンタまた?」
優奈が呆れたように訊くと、案の定。
「自分の分買い忘れちゃった……」

他人に気を配りすぎるせいか、架鈴は自分のことにとても疎い。疎い、というか後回しにしてしまいがち、と言った方がいいか。
購買でこうやって嬉々として杏仁豆腐やプリンのようなデザートを奢ってくれることは珍しくないのだが、共に自分の分を買い忘れることもしばしば。いや、ほとんど。
人のことを思うのはとても良いんだけれども。もう少し自分を大事にと言うか、なんというか。
「ごめんねっ、二人共ついてきてもらっちゃって!」
──で。購買へ架鈴の分も買いに行ってます。勿論、優奈含め三人で。
「いいのいいのー」
のんびり優奈が返事をする。心なしか棒読みに近いことはここでは敢えて触れないでおこう。
……そりゃそうだ。だって、私と優奈はさっきの学食と架鈴が買ってきてくれたデザートを平らげてきたのだから。(学食は置いていくことできないし、食べさせろ、っていう優奈の言い分。)空腹でもないし、デザートは食べられたしで、こんな購買について行くぐらい、なんのその。奢って貰ったんだから当然だという男前な建前は一応あるものの、正直言ってしまえば暇潰し。
「あーそういえば架鈴何食べるの?」
すっごい気のない聞き方。聞く気ないなら聞くなよ優奈。
そんな問いにもいつものように返事をする。ぶれないなー二人とも。いや、そこが好きなんだけど。
「何食べようかな〜サンドイッチはいつも食べてるから……お姉さん、クロワッサン一袋くださ〜い」
大きめのクロワッサンが3つ入っている小袋を指差す。30代後半のおばさんに対してまで気遣いを忘れないとはさすが。お姉さん、だって。私は無理だよ、そんなの。お世辞とか大嫌いだもん。
「はーい、まいどあり〜」
普通の生徒にはこんな顔しないだろ、ってくらいの笑顔でクロワッサンを渡してくるおばちゃん。お姉さんって呼んだだけでこんな機嫌良くなるなら私もやってみようかな。改めて顔を見る。あ、これは無理なやつだ。
「おばちゃんこれ」
お姉さんと呼ばれテンションが上がっていたおばちゃんは凄い鬼のような形相で優奈を睨む。あのぉ……仮にもお客さんに向かってそんな露骨な……。確信犯の優奈もどうかと思うけどね?スマイルをお忘れですよ、お、お姉さん?
「ねぇ、おばちゃん聞いてる?こ、れ!」
「ハイハイ聞こえてるよ。杏仁豆腐だろ。ほら」
つっけんどんにも程があると思うけど。優奈は全く意に介さず、って感じでお金を渡す。
ってあれ。こいつどんだけ杏仁豆腐。
「まだ食べるのアンタ」
「あげないわよ?」
「いや、要らないけど」
さすがに私でも一日にいくつも杏仁豆腐食べれない。
「あ、ねぇねぇ」
前方斜め左。控えめに指を差す先を見ると、架鈴の言わんとしていることが分かった。
視線の先には一人の男子生徒に対し、某アニメの某ガキ大将のようないかつい体格の男子生徒とその他モブさん達。
「俺のものは俺のもの!お前のものも俺のものだって言ってんだろうが!!!」
某ガキ大将のような暴言を吐きながら行われるのは、当然暴力。(もうこいつ名前ジャイアンでいいよ。)よってたかって何やってんだ、と言いたいところだが、実際加害者はジャイアンだけで、周りのモブはガタガタと震えながら傍観しているだけだった。スネ夫にも及ばないな、こいつら。
「んー真琴じゃん」
杏仁豆腐を大切そうに抱えたまま呟く優奈。いじめられている男子を心配してるのか、杏仁豆腐を心配してるのか。



気が向いたら続き書きたい。つまり飽きた。まず長編書き切る気力がない。
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