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「十代目のお父様は門外顧問っつって、ボンゴレでありながらボンゴレじゃない」
「ふぅん。………あ、バジル君みたいな?」
「アイツはお父様の部下だ」
「へぇ、そんな繋がりがあるんだ!」

胸の前でぱん、と両手を合わせてにこにこ笑う柚木に脱力する。
………柚木とこうやって顔を合わせて話すのはこれで3回目だ。
1回目は、十代目の誕生日プレゼントを選んだ時。
2回目は、十代目が居なくなってしまった時。
そして今が、3回目。
いまいち柚木という人物がわからない。
山本みたいにくだらない噂に振り回されるつもりはない。だからこそ、俺の目で柚木という人物を見極めたい。
十代目が信頼、信用する、その人間。

「で?」
「ん?」
「『雪』ってなんだ?」
「………さぁ、」
「は………?!」
「詳しくはわかんない。でも、うん。私はティモの、九代目の『雪』なの」
「──────」

ふわり、と。
今まで見せたことのない微笑みに、一瞬言葉に詰まる。
ん? と首を傾げてこちらを伺ってきた柚木にいや、と微かに首を振った。

「それより、なんでお前、自分の属性を詳しくわかってないんだよ」
「えー………。じゃあ、獄寺君は自分のそれをわかってるって言うの?」
「あぁ。俺は嵐。『常に攻撃の核となら、休むことのない怒濤の嵐』」
「………なあに、それ」
「ボンゴレの『嵐』の使命、だな」
「ふぅん」

さほど興味が無さそうなその呟きに、少しだけイラッときた。
それからぱちぱちと目を瞬かせた柚木は口元に指を添えて、それから首を傾げる。
紐で結われている髪が揺れて、柚木の首筋を擽った。

「もしかして獄寺君、他のそれも覚えてるの?」
「あ? 当たり前だろ、そんなの」
「真面目だねぇ」
「は?」
「私は自分のでも覚えるのヤだなぁ」
「お前な………」
「だってなんか、偏りそう」

柚木の口からぽろりと零れた一言に面を食らう。
偏る? 何がだ?

「あ、えぇと、偏る、だとちょっと言葉が違うかもしれない。えぇと、」
「………なんだよ」
「そういうのを目標に頑張るのなら大丈夫そうな気もするけど、なんかそれに固執したら、息苦しそうって言うか、」

思わず眉を寄せて言葉を続ける柚木に、こちらも思わず眉間に皺を寄せた。
それはつまり、

「つまりテメェは俺が息苦しそうに見えると」
「え、獄寺君、それに固執してるの?」

聞き返され、再び言葉に詰まった。
固執、してる? 俺が?
固まった俺に対して柚木が手を伸ばしてきたので思わず払いのける。
ぱしん、と乾いた音がした後、かしゃん、と机の上から何かが落ちた。

「あっ、」
「………悪ぃ」

机から落ちたのは姉貴から渡された複数の匣だ。
慌てて席を立ってそれらを拾ってまた椅子に座れば、柚木は固まったまま止まっている。
ん………?

「柚木?」
「え、あ、ごめん、獄寺君」
「いや」
「なんか獄寺君って面白いね!」
「は?!」

えへへ、と砕けて笑う柚木に思わず頭を抱えた。
なんなんだ、コイツ。意味がわからないっ………!

「今の流れからどうしてそうなるんだ!」
「え、うん、なんか、獄寺君って堅苦しいイメージとか、十代目至上主義、みたいなイメージあったんだけど」
「…………………」
「綱吉関係ないところでお話すればそんなことないや。うん、なんか全然違うね」

別に堅苦しいつもりは元々ないし、って言うか十代目至上主義なのは同然なことだろうが、俺は十代目の嵐なんだからって俺はなんでこんな言い訳なんかしてるんだ?!
にこにこ笑う柚木を見てからそっと視線を外す。

「でさ、獄寺君」
「ん?」
「獄寺君は雷と知り合いなの?」
「ライ?」
「ほら、えぇと、獄寺君がジェネラーレって呼んでた、」
「あぁ………。アイツとは姉貴が従兄弟だ」
「ビアンキさんが?」

そう、アイツは母方の姉貴の従兄弟であって、俺とは実際繋がりがないはず。

「ねぇ、獄寺君」
「なんだ?」
「ビアンキさんの属性って、やっぱり獄寺君と同じ『嵐』なの?」
「あぁ、そうだが。それがどうしたんだよ」
「でも雷は、雷って言うから『雷』なんだよね」
「そうだろうよ」
「血縁者でもやっぱり違うもんなのかな」

呟くように言われた言葉に、思わず匣を握った。
そういや姉貴は、『嵐の波動が一番強い』って言ってたな。
………ん?

「『嵐の波動‘が’一番強い』………?」
「獄寺君?」
「柚木、お前ならこの意味どう思う?!」
「え? あ、え?」
「だから、『嵐の波動が一番強い』。そう言われたら、お前はどう思うんだ?!」

俺の迫力に負けたのか、柚木は少し戸惑い、そうして、自身を落ち着かせるように瞬いてから、ぽつり、言葉を吐き出した。

「数ある中で嵐が一番強い、ってこと、かな?」
「だよな。ってことは!」
「ってことは?」
「その数ある波動すべて使えたら戦術が広がるよな?」
「え? あ、えぇと、1人でたくさんの属性を持って、それを操れるってことだよね? そりゃあ、戦術は広がるかも、だけど」

がたん、と椅子から立ち上がる。
きょとん、と目を丸くした柚木は戸惑いのままに俺の名前を呼んだ。
そうだ、何を勘違いしていたんだ。
1人につき1波動、1属性。
『必ずしもそうじゃない』。そんなこと、当然『あり得る』話だ。
───そうか、俺は。
柚木の言うように、『嵐』にこだわり過ぎていたのかもしれない。

「ご、獄寺君?」
「………なんだよ」

再び名前を呼ばれて、慌てて座る。
だけど俺の手には、匣が握られたままだ。

「あの、自分の本来の属性以外って、使えるもんなの?」
「理屈から言えば可能だろ。………お前、炎の灯し方、誰にどう習ったんだよ」
「く、草壁先輩が、『雪』の炎を灯せますよっ、て」

なんだそのアバウトな教え方は………!

「やっぱりお前、そこに直れ」
「ふぇ?」
「1からちゃんと叩き込んでやる」
「えええ!」

俺が匣を開けるのはきっとその後でも間に合うはずだ。

そう思った理由を───匣を開けるよりも柚木を優先した理由を、俺はまだわかっていなかった。



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