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翌朝、京子ちゃんが言った通りに男子───綱吉と山本君主体の朝ご飯で、手巻き寿司だった。
最初獄寺君は渋っていたけれど、なんだかんだ言ってちゃんと楽しんでいたみたいだから、まぁ、良かったのかな?
ランボ少年もけたけた笑いながら食べていたし、少しは空気が明るくなったみたいだし。
こっちにいる時間が少ないからよくわからないけれど、少しなんかピリピリしていたような感じもあったしね。
何より、京子ちゃんに笑みが戻ってきたから、私的にはそれが一番。
………そんなことよりも。

「わっ、静玖姉? 久しぶりだね! って、当たり前か。静玖姉、僕が誰だかわかる?」
「い、」
「『い』?」
「いつぞやのフゥ太少年………?」
「ふふ、正解」

にこっと笑ったフゥ太少年は私よりずいぶんと背が高くて、思わず目を瞬かせた。
あ、あんな小さかった子がこんなになるなんて…。

「静玖姉が『イイ男育つかも』なんて言うから、僕、頑張っちゃったんだから」
「いや、意味わからないんだけど、フゥ太少年」
「ふふ」

にこにこ笑いながら言うフゥ太少年にああそう、と短く切り返して、思わず視線を綱吉に向ける。
すると綱吉は困ったように笑ってこちらに足を向けてきた。

「知り合いだったんだ」
「うん。ほら、君達の誕生日プレゼントを置きに行った時にね」
「そっか」
「あ、別にツナ兄に隠してたわけじゃないよ!」
「そんなこと気にしてないけど」

バッサリと切った綱吉に対して、フゥ太少年はどこか戸惑ったように笑っていた。
………ん?
違和感を持ったその表情をじっと睨み付ければ、フゥ太少年は少し言葉を濁しながらもゆっくりと口を開いた。

「この時代でも、2人は相変わらずって言うか、変わりようがないって言うか、そんな関係だからさ」
「ふぅん」
「なんか、懐かしくって」

泣き出しそうな表情(かお)されても、正直困る。
だって本当に彼が懐かしみたいのは『私達』じゃあない。
それは綱吉もわかっているのか、イマイチな顔を浮かべていた。

「………ごめんね、ツナ兄、静玖姉」
「いや、別に、謝る必要はないんだけど。ね、静玖」
「え、あ、うん」

だいたい、謝ってもらっても困るだけだし。
でもそれは言わない。だって面倒になりそうだし。
1つため息を吐いて気分を変える。
今日の朝食の片付けは男子じゃなく女子だ。男子はこれからすぐ修行だって言うし。
くるりと袖を巻き上げて、フゥ太少年と綱吉には一声掛けてからキッチンに戻る。
水を流しながら洗い物をしている京子ちゃんと三浦さんを眺め、ぽり、と首の後ろを掻いた。

「やること、ある?」
「あ、じゃあ、拭いてくれる?」
「了解」

布巾を取り出して洗われたばかりの皿を拭いていく。
大人数の食事だったから、それなりな量もあるのだけれど、3人でやればそれなりに早く終わるものであって、洗い物は思ったよりも早く終わった。
ふ、と静かに息を吐くと、京子ちゃんがこちらを見て来たので、なあに、とこちらから切り返す。

「あのね、静玖ちゃん」
「ん?」
「昨日はありがとう」
「………なんかしたっけ?」
「うん。してくれたの」

話、聞いただけなんだけどなぁ。
いや、そりゃあ、ちょっと深琴ちゃんについてはぼそぼそ言ったけれども。
だからって本当に何か言ったわけじゃないし、京子ちゃんにお礼を言われるようなことは言ってないと思うんだけどな。

「京子ちゃん、ハル、掃除してきます!」
「え、あ、うん、わかった」
「っ………」
「???」

京子ちゃんに一言そう言った三浦さんは、キッと最後にこちらを睨んで部屋を出て行った。
え、え、なに。
三浦さんの反応に、ぽかん、と口を開けて固まる。
そしてあぁ、と小さく呟いた。

「好かれる要素がないかぁ」
「え?」
「ほら、三浦さんとは出会い頭にやりあってるから。………うん、あの反応はしかないよね」

出会い頭に思わず喧嘩腰になってしまったのはついこの間のことだ。
それを考えたら、こういう反応と対応は致し方ない。
だって、私もそういうの気にしそうだもん。

「静玖ちゃん」
「うん、私は大丈夫。仕方ないもん」
「仕方なくなんて、」
「まぁ、ほら、またちゃんと話す機会があったらいいけど」
「うん」

どこか納得のいっていない京子ちゃんに苦笑する。
でも、こればっかりは私と三浦さんの問題だし、と考えてから、一度思考を止めた。
………いや別に、無理に三浦さんと仲良くする必要もないんだよね。
だって直接関わっているわけじゃなくて、綱吉経由で知り合っただけだもん。
綱吉や京子ちゃんが『友達』だからって、私まで『友達』になる必要はどこにもない。
………三浦さんがどう考えるか、待った方が良いのかな。
こっちからアクション起こして、さっきみたいにまた睨まれたら、そりゃやっぱり、ショックはショックだもん。
とりあえず自分の精神面、優先かな。三浦さんには悪いけど。

「静玖ちゃん?」
「ん?」
「なんか、辛そう?」
「………………」

言い当てられたような気持ちになって、思わずぎくりと肩を揺らす。
そんな私に京子ちゃんが困ったように笑って、それからぴとりと身体を近づけてきた。

「なあに」
「静玖ちゃんは、もっとわたし達に甘えるべきだよ」
「っ、」
「ううん、甘えてほしいな」

真摯な京子ちゃんの台詞と瞳に、何も言えずに押し黙る。

ごめんね、と謝るのも何だか変な気がして、力無く笑って対応するしかなかった。



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