06

ツーちゃんは可愛い。可愛いったら可愛い。もう可愛いの。だいすき。

その台詞は、言ってしまえば聞き飽きたもの。
よくもまあこの十うん年飽きないなぁ、と思いつつ、この先うん十年同じことを呟いても『飽き』なんてこないんだろう、深琴ちゃんには。
まぁ、別に良いんだけどね、私自身か言われているわけじゃないし。聞き飽きたけど、深琴ちゃん自身に嫌気がさしてるわけじゃないし、私もまぁ綱吉は可愛いと思う。

「ねぇ、静玖。マフィアをどう思う?」
「『どう』ってどういう意味で?」
「怖いか、怖くないか?」
「───漠然として捉えるなら、怖いよ。でも、怖くないかもしれない」

綱吉やティモみたいなマフィアは怖くない。
だけど、他は怖い。だって『知らない』から。
知ってしまえば、怖くないかもしれない。
なんて、第三者で冷静に言語ってるけど、実際に会ったらたぶん発狂して逃げる。

「あ。今日ツーちゃんの家に泊まってくるね」
「それ、綱吉や奈々ちゃんは知ってるの?」
「奈々ちゃんから誘われたんだよぅ」

うふふ、と笑う深琴ちゃんに、倖せそうでいいなぁ、と少し目を据わらせて彼女を見た。
それから、だからキッチンに立って料理してるのか、と妙な納得を得て、私は静かにため息を吐く。
ふわり香る甘い匂いに、思わず頭を抱えた。自身は甘いものが苦手で食べれないくせに甘いものを作るのが得意とかどういう了見だ、と口の中だけで呟き、すでにそのおこぼれを貰おうとしている自分に苦笑した。
なんだかんだ言って深琴ちゃんのお菓子美味しいんだよね。大好き。

「紅茶クッキー出来上がり」
「少しおいてってね」
「勿論だよ」

静玖にも食べてほしいもん、と呟く深琴ちゃんのシスコンぶりにでれっと破顔一笑した。結局は私もシスコンで、深琴ちゃんに溺愛されてるのが嬉しいってわけだ。
愛されて嬉しくないはずないし。

「それじゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」

ひらひらと手を振って深琴ちゃんを見送る。
クッキーに手を伸ばして口に含めば、さくりと欠けた。
あぁ、やっぱり出来立てが一番美味しい。

「今日はボヴィーノの坊主が来てるよ、姫君」
「………だれ」
「初めまして。オレは君の護衛をする晴だよ、我が雪の姫。どうぞ雨と同じように呼んで?」

後ろからした声に振り返れば、真っ黒な髪を撫で付けてオールバックにした青年が立っていた。
にこにこ笑っているけれど胡散臭い。

「子雨と一緒………?」
「そう。君の護衛だよ、姫君」
「そう、ですか」

じゃあ『子晴』だ、と口の中で呟いて、足元を見る。
よし、土足ではないんだね。
子雨とは違ってぴしっとスーツに身を包んだその人は穏和な笑みを浮かべて甘ったるい台詞を吐いているけれどどうにも胡散臭い。まるでティモの手紙みたいだ。
そしてどっから家に侵入したんだって話。

「部屋のベランダの窓が開いていたからね」
「………そうですか」
「うん」

にこにこと楽しそうに笑う青年にそっと目を伏せた。
彼もティモのものだもんねぇ。こう考えると、私がマフィアになるなら間違いなく『九代目』のファミリーだよね。綱吉のファミリーじゃないだろう。
まぁ、マフィアになるつもりはないけれども。
はむっとクッキーをもう一枚口にして、もごもご口を動かして咀嚼する。美味しい。美味しいけれど、目の前の青年が頂けない。
子雨のときもそうだった。
綱吉のところにアルコバレーノが居るのは納得。
だけれど、どうして私まで。
雪のリングをどうにかしたいなら、私の手元から奪えば良いだけの話だ。
わざわざこうやって護衛なんかイタリアから送らなくてもいいんじゃないの?
旅行費も何もかも無駄遣いじゃん。
マフィアってそんなに儲けるわけ? いや、それは別にしたってどう考えても本末転倒な気がする。

「私にその価値があるのかが気になるところだね」
「うん?」
「いや、私にはないか。………あの、『雪』はそんなに価値があるんですか?」
「あるよ。もちろん、君にもちゃんと価値はある。だってそれは君だけにしか使えない」

くっ、と眉を寄せる。
『雪』が特別なのは知ってる。だけれど、持ってる私にどういう価値があるんだろう。
首にぶら下がってるリングを撫でて、立ち上がった。
クッキーが入っている皿を持って子晴に向き合う。
ほんの少しだけ目を見開く子晴に笑って、二階行きましょう、と促した。
いつ誰が帰ってくるかわからないからね。
たんたんと階段を上がって自分の部屋へと戻る。隣の家から賑やかな声が響く。あ、綱吉と深琴ちゃんの声だ。

「姫君はオレに何が聞きたいんだい?」
「この『雪』は何なんですか?」
「『雪』の波動を持つ人間は『大空』より少ない。そして姫君ほどの純度の、まっさらな『雪』の能力(チカラ)を持つ存在はない」
「………?」
「ノーノは姫君が五つの時にそれを見抜いたからこそ、預けたんだよ」

ぱちくりと目を瞬いて、驚きのあまり呆然としてしまった。
ちょっと待って。私はこのリングを来るべき時まで持ってればいいんじゃないの。今の話まとめると、私がこれの持ち主ってことになるんじゃない?
でもそれって、ティモが言ってたことと矛盾するんじゃないの………?

「『あげる』と言われるよりは『預ける』って言った方が姫君も持っていられたでしょ?」
「………それは、」
「やり手だからね、ノーノは」
「………あの食えないクソジジイ」

ほろりと零れ落ちてきた言葉は間違いなく本音だったと思う。
まずいとは思ったけれど、吐き出しだ言葉は戻ってこない。
きょとん、と目を丸くした子晴はぱちばちと瞬いて「姫君?」と私を呼んだ。
私は姫でも何でもないっつーの!

「とりあえず、二発」
「何が?」
「ティモに入れる拳の数。さ、護衛さん。今日はお帰り下さい」
「姫君、オレ、護衛だってば」
「うんだから、私みたいな一般中学生は君みたいな大人の男性と知り合えないの。だから、外で護衛してくれませんか」

お願いなんて可愛らしいものをしていないのは理解してるし、自分の立場を弁えない発言であることも理解してる。
彼がここに居るのはティモの命令だ。私の発言を聞く必要なんてどこにもない。それはわかってるけど、言わずにはいられない。
私はそこまで機転が利かないから、この人達の存在がバレた時、家族に上手く嘘を付くことはできない。ましてや深琴ちゃんには両親以上に嘘をつき通すことなんてできない。
結局私は、自分のためにしか行動できないんだ。

それが歯がゆくて、少し曖昧に笑った。



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