05

最近綱吉の周りが煩わしい。───深琴ちゃんと京子ちゃんを除いてだけれど。
しかも『ダメツナ』として有名だった綱吉が持田さんの一件で『もしかしたらダメじゃないかもしれないツナ』として有名になってきた以上、話掛けにくい。
傍にいる不良、ゴクデラ君(彼は深琴ちゃん情報を経由して名前を知ったから漢字を知らない)が居るせいでもある。そして何より先日の屋上ダイブ。ヤマモトタケシ君(これは京子ちゃん情報で以下同文)は私の心の中のブラックリストにその名前に載せておいた。
綱吉と屋上ダイブ?! ただでさえマフィアのボスにさせられる綱吉をこれ以上命の危険にさらさせないで、と心の中だけで文句をぶちまけて、はぁ、と深いため息を吐く。
つぅっと目を細めて放課後の廊下からグラウンドを睨む。青春球児が疎ましい。
あの中の一人がヤマモトタケシ君だ。
まぁ、関わらないよね、私とは。

「静玖発見!」
「はいはい、なあに、深琴ちゃん」
「一緒に帰ろうと思って探したんだよ?」
「朝言ってくれれば良いのに」
「あ、そっか」

ふうわり、花が咲くような笑みを浮かべた深琴ちゃんに私も笑みを返す。
我が姉ながら本当に可愛い。
同じ血が流れてるとは思えないほど、私とは違う顔だ。
まぁ、深琴ちゃんと同じ顔になりたいかと聞かれたら「否」と答えるけれど。

「深琴、何群れてるの?」

私の後ろから声がした。
深琴ちゃんが弾んだ声で声の主の名前を呼ぶので、その流れで振り向くと、そこには学ランを肩に掛けた黒髪和風美人がいる。
ぽむっと後ろから私の肩を掴んだ深琴ちゃんは、じわりじわりと地味にテンションが上がってきたのか、さっきよりも弾んだ声で黒髪和風美人に話し掛けた。

「雲雀くん、この子がわたしの妹!」
「あぁ、噂の」
「姉がお世話になってます」

『噂』ってなんだ、『噂』って。
あぁ、大半は深琴ちゃんからの身内の目による偏った『噂』なんだろうけれども。
さっと視線を逸らすとぐいっと顎を掴まれて上を向かされた。
っ、痛いっ!

「なんで視線を逸らすのかな。草食動物は咬み殺すよ」
「平穏無事に過ごしてる一生徒に何たる仕打ちしようとするんですか」
「咬み殺されなかったら雲雀くんのお気に入りになった証拠だよ、静玖!」
「そんな情報要らないから、深琴ちゃん」

そもそも咬み殺すって何だ。
それよりも肩を掴む手に力が籠もってきてるから痛いんですけど。
顎痛いし肩痛いし、なにこれイジメ?

「深琴ちゃんとそれとヒバリさん? 逃げないのでとりあえず手を離して貰えますか?」
「「ヤだ」」
「あのですねぇ」
「視線を逸らした君が悪いんだよ?」

別に貴方から視線を逸らしたわけじゃないし。

「本当に逃げない?」
「一緒に帰るんでしょ?」

ぱっと肩から深琴ちゃんの手が離される。
ついと細い目をさらに細めたヒバリさんは歪むように口端を吊り上げた。

「面白いね、君。風紀委員に入りなよ」
「風紀委員ってあの遅刻検査とかしてる委員会ですよね? お断りします」
「ふぅん。どうして?」
「だって目立つ」

ブレザーが制服である並盛中で学ランを着た黒い集団なんて嫌でも目に付く。目立つ。
しかも『風紀委員』のくせにリーゼントで率先して風紀を乱しているような委員会には入りたくない。
私は普通に学生生活を送りたいだけだ。
だってきっとその内、私は『普通』じゃなくなる。
指先が異様にひやりと冷えているのは鎖に繋いでいる指輪が原因だ。
最近冷え性通り過ぎて私自身が氷みたい。
指輪を預かったのは私だけどさぁ。

「『目立つ』だけ?」
「私、『騒ぐの嫌い目立つの嫌い目立つ人嫌い』なんで」
「へぇ」

顎に掛かっていた手が離される。
温もりがなくなった瞬間にやっぱりひやりと身体が冷えた。
うう、寒い。

「許可してあげる」
「はい?」
「委員会に入らないこと。いいよ、君は諦めてあげる」
「はぁ」
「それと、」

ばさりと何か肩に掛けられた。
何かって、彼が着ていた学ランだ。
ぱちっと目を瞬いて反応したのは後ろでずっと黙っていた深琴ちゃんだった。

「雲雀くん?」
「ずいぶん身体を冷やしているようだからね。貸してあげるよ」
「ありがとうございます」
「ツンを通り越して先にデレ?! 何それ美味しいよ、雲雀くん……!」
「黙っててくれる、深琴」

うん、今のタイミングはよくないと思うよ、深琴ちゃん。
ヒバリさんは深琴ちゃんに向けていた目を私に向けてきたので、私もその瞳を見返した。
ギラギラといきり立つ何かを抱えた、捕食者の目だ。………ちょっと怖い。

「僕は雲雀恭弥。忘れたら咬み殺すからね」
「深琴ちゃんの妹、柚木静玖です。学ランは深琴ちゃん経由でお返しします」
「うん、それでいいよ」

じゃあね、と颯爽と歩いていくヒバリさん───雲雀恭弥先輩を見送って、まず学ランを外してブレザーを脱いだ。
それから学ランを着てその上にブレザーを羽織る。
何してるの、と深琴ちゃんに聞かれて、振り返ってにこりと笑みを作った。

「学ランじゃ目立つでしょ」
「徹底してるね」
「うん」
「じゃ、帰ろっか」

二人並んだ廊下を歩き、げた箱で一回別れた。
その後すぐに会えば、柚木先輩、と深琴ちゃんを呼ぶ声がしたので振り返ると、野球ユニフォームを着た野球少年がにかっと笑って立っている。
………あ、なんかイラッとした。

「柚木先輩、帰りっスか?」
「そうなの帰りなの。山本くんはまだ部活?」
「おう」

山本くん? 件のヤマモトタケシ君?
思わずきっと睨むと、私に気付いたのか少し視線を下げた。
あ、イラッときた。

「お前、」
「何ですか、何か用ですか、綱吉と屋上ダイブしたヤマモトタケシ君」
「ははっ。やっぱりそれ有名になったのなー」
「あの時は本当に心臓が飛び出るかと思ったんだよ、山本くん! ついでに言うならわたしはまだ山本くんを許してないんだからねっ」
「えぇ、そりゃないっスよ、先輩」

爽やかに笑うヤマモトタケシ君に、深琴ちゃんも負けじと笑う。
や、笑顔対決してどうするの、深琴ちゃん。

「わたしの可愛い可愛いツーちゃんを危ない目に合わせた山本くんを許すのはもうちょっと時間が掛かるよ。そんなの当たり前じゃない」
「どれだけ綱吉愛してるの、深琴ちゃん」
「ツーちゃんをお嫁さんに欲しいぐらい」
「いや、逆だから」

思わず突っ込めば、ヤマモトタケシ君はからから楽しそうに笑ってた。
どことなくほの暗く感じる笑みだよ、ヤマモトタケシ君。
………はっ!!

「深琴ちゃん、帰ろうか」
「うん」
「でもちょっと先に行ってて?」
「ん? うん」

深琴ちゃんを先に返して、にこにこ笑うヤマモトタケシ君と二人きりになる。

「あのさ」
「ん?」
「綱吉の傍にいれば大概深琴ちゃんと一緒にいれるよ。結局は他人に絆される人だから、頑張って?」
「………サンキュ」
「ん」

深琴ちゃんの笑顔に落ちたんだろうなぁ、ヤマモトタケシ君。
でもね、

「深琴ちゃんも綱吉も君には簡単にはあげないよ」
「──────」

簡単にくれてやれるほど甘くないんだ、私だって。
せいぜい足掻けばいいよ、ヤマモトタケシ君。
私も深琴ちゃんと一緒。綱吉との屋上ダイブ、許してないんだから。
先を歩いている深琴ちゃんの所まで走って、姉妹仲良く歩いて帰った。




「あぁ、あれが『噂』の静玖か。手強いのな」

ヤマモトタケシ君がぺろりと唇を舐めて笑っていたのを、私は知らない。



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