04

「凄い不愉快だった」

もきゅもきゅとご飯を食べてたらぽろりと零れ落ちた深琴ちゃんの台詞に、危うく箸を落としかけた。
い、一体どうしたの、深琴ちゃん………。

「ツーちゃんの家に住み込みの家庭教師が居るんだけど」

あぁ、アルコバレーノのリボーンね。
夕飯のおかずである唐揚げを箸で転がしてからぷすりと刺して口に運んだ。
キッチンペーパーでちゃんと油をきってあるから油っこくはない。

「わたしを見て何を言ったと思う?! 『俺の愛人にならないか』、だって!!」

よし、ティモに手紙で抗議しよう。
ん、でもあれ?
アルコバレーノって赤子でしょ?
小動物としてなら愛玩になるんじゃないの?
私が首を傾げたのを見て、深琴ちゃんがつんと口を尖らせた。

「わたし、ショタに興味はないし、あの家庭教師はまっったく可愛くない!! ツーちゃんとセットでも可愛くなかった!」
「力説だねぇ」
「だって外見が可愛くても中身全く可愛くなかったんだもん、だいたい赤ん坊のくせにエクスプレッソ飲むとかどういう神経してるわけ?!」

だんっ! と箸を握りしめたままテーブルを叩きつけた。
うぅん、熱いなぁ、深琴ちゃん。
やっぱり好きなものには妥協しないんだね。
───それにしても。
子雨に止められたけどやっぱり書いておくべきだったかな、脅し文句。
そんな危ないのを綱吉に付けるだなんて、何を考えてるんだろう。
………いや、それだけ本気ってことかな、ティモは。
こんな平和な日本で過ごした十代の少年をマフィアのボスにするなら、無理矢理でも鬼畜じみた奴を傍に置かなきゃいけないってことかな。
うんまぁ、私に被害が及ばないならそれで良いんだけれど。

「………赤ん坊?」

取って付けたように呟いた。
私がリボーンを赤ん坊だと知っているのはおかしいからね。会ってないんだし。
少し落ち着いた深琴ちゃんはにこっと笑って、

「顔は可愛らしい赤ん坊なんだけど、黒いスーツにカメレオン、ボルサリーノとキッチリした服装をして二足歩行する赤ん坊なんか可愛くありません」
「そ」

いやいや、深琴ちゃん。突っ込むところそこじゃないから。
どう考えたって赤ん坊がすでに喋っているところから疑問に思うべきだよ。
さらに言うなら二足歩行に注目すべきだよ。
まぁ、深琴ちゃんが気にしないならそれはそれでいいけど。
でも、深琴ちゃんがこうなら綱吉はもっとかもしれない。
苛立ちも、アルコバレーノの謎も、何もかも。
明日のお昼、綱吉を誘ってみようかな。状況聞きたいし。

「あぁそうだ。ツーちゃんね、パンツ一丁で京子ちゃんに告白してたよ」
「京子ちゃんに?」
「死ぬ気弾ってヤツを撃たれたの。後悔していることを死ぬ気になって叶えるっていうのが一番簡単な説明かな」
「………へぇ」

うん。京子ちゃんを優先しよう。
最近、先輩に付きまとわれてるって言ってたし。や、正しくは「付きまとわれてる」とは言わなかった。
でもちょっと迷惑そう。相手の勝手な暴走とも言える。

「ねぇ、深琴ちゃん。『持田』って奴知ってる?」
「剣道部の?」
「剣道部かぁ。面倒だな………」
「何かあった?」
「私の可愛い京子ちゃんに付きまとう勘違いヤローだよ」
「………あぁ、そう言えば。ツーちゃんが京子ちゃんに告白した時いたなぁ、その人」

思い出した、と呟く深琴ちゃんに、ふぅんと呟きを返した。
深琴ちゃんにとって綱吉と京子ちゃんはお気に入りだから、その二人だけを見たいのに視界に入ってしまった、と言ったところかな、この反応は。
深琴ちゃん、極端だもんね。
とりあえず、『持田』って人に関しては明日京子ちゃんに聞こう。
その方が正確だし、何より京子ちゃんの傍に居れば向こうから勝手に近付いてきてくれるだろう。
そして翌日の朝、私は京子ちゃんと綱吉のクラスを訪れた。
騒がしいのも目立つのも苦手だし嫌いだけど綱吉と京子ちゃんのためなら仕方ない。そう、仕方ないのだ。

「静玖ちゃん、どうしよう!」
「京子ちゃん?」
「あのね、あの」
「ほら落ち着いて、大丈夫だよ。で、どうしたの?」

私の存在を見つけた京子ちゃんが私に抱き付いてきた。あぁああ、目立つ。目立っちゃうよ、京子ちゃん!
ひぃ、クラスメートの目がこっち向いた!

「それが」
「沢田ってのが京子に告白してね、」
「それは知ってる」
「持田先輩が『京子を泣かせた奴は許さん』って言って今日剣道場で勝負だって」
「わ、わたし泣いてないよっ」
「───勘違いヤローが誰に手を出すって?」

京子ちゃんの友達なのだろう私と同じ黒髪の子の説明を受け、泣きついてくる京子ちゃんの耳元で思わず深く低い声で呟いた。
ぱちくりと腕の中で目を丸くした京子ちゃんににこっと笑う。

「静玖ちゃん?」
「京子ちゃんだけでは飽きたらず、綱吉にも手を上げるってことだよね? ふふ、いい気になりやがって、」
「静玖ちゃん、その」
「まぁ、深琴ちゃんに任せればどうにかなるよ」
「ほえ?」
「深琴ちゃんは京子ちゃんも綱吉も大好きだから」

むしろ綱吉マニアであるあの人がこの騒ぎを聞きつけないはずがない。
さぁて、どうしようかな。

「京子ちゃん、剣道場、行く?」
「………う、うん」
「大丈夫だよ。いざとなったら助けてあげるし、了平先輩だっているんだし、うちの深琴ちゃんだっているし」
「うん」
「大丈夫。君を不安にさせる要素はすべて私が叩き潰すよ」

たとえ目立とうとも、友達を守れないのは最悪だ。最低の人間だ。
だからこそ、私が出来る限りの範囲で守っていきたい。
それは京子ちゃんに対しても、綱吉に対しても一緒。

「やっぱり静玖ちゃんは格好良いね」
「ありがとう」

差し出した手に重ねられた手をしっかりと握りしめ、教室を出る。
綱吉は大丈夫かなぁ。

「静玖ちゃんは、沢田君と知り合いなの?」
「お隣さん───幼なじみだよ」
「へぇ、そうなんだ!」
「悪い子じゃないんだ。むしろ深琴ちゃんに小動物って称されてるぐらいの可愛い子」
「………大好きなんだね」
「ん」

笑みを浮かべる。
綱吉のことは大好きだ。
だからちょっとティモのやり方が気に入らない。いや、ティモが寄越したアルコバレーノが気に入らない。
剣道場に入った瞬間、ごっと鈍い音が響く。
なんだ、と思ったら見慣れた人が見慣れない剣道部員に跨って拳を握りしめてその頬を殴ったみたいだ。
え、ちょ、深琴ちゃん?!

「わたしの可愛い可愛いツーちゃんと京子ちゃんに手ェ出そうなんざ百年早いのよ、勘違いヤロー」

可愛らしい笑みを浮かべてもう一発ごっと殴る深琴ちゃんに深いため息を禁じ得ない。
あぁもう本当に何してるんだか。
もう一発鈍い音がして、深琴ちゃんが立ち上がった。あ、満足したんだ。
………あ、綱吉来た。引っ張られてるけど。
きょろきょろ視線を動かす綱吉にため息を吐いて、あぁでもとても彼らしいと思った。
視線が合った瞬間、顎で指し示して口パクで言葉を伝えると、綱吉は真っ青になった。

「十分間に一本でもオレからとれば貴様の勝ち! できなければオレの勝ちとする!」

声高に言っても深琴ちゃんに殴られた頬が赤いから格好悪いよねぇ。

「賞品はもちろん、笹川京子だ!」

竹刀で京子ちゃんを指した持田さんに同情した。
この試合、綱吉が勝とうが負けようが、彼の人生は終わっただろう。
京子ちゃんを賞品にした時点で、彼は深琴ちゃんと了平先輩を敵に回したのだから。
まぁ、馬鹿は仕方ない、か。
一度エスケープした綱吉が戻ってきた時、何故か彼はパンツ一丁だった。
それが昨夜深琴ちゃんの言っていた『死ぬ気弾』を受けた綱吉ならば、まぁ、負けることはないだろう。

勝敗は、火を見るよりも明らかだった。



- 5 -

[] |main| []
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -