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ぼふん、という音が響いたらと思ったら、気が付いたら全く知らない場所にいた。
きょろきょろと辺りを見渡して、そこが裏路地らしい場所であることを知る。
え、えぇ………?!
わたしは静玖や草壁くんと一緒に家に帰る途中だったはず。
それで、他校の少年がわたしに向けてバズーカを撃った。
それが当たって、気が付いたらここに。
………あのバズーカ、見覚えがある。そうだ、あれはランボの、

「10年バズーカ………?!」

なんでランボの10年バズーカを見ず知らずの少年が持っていたわけ?!
なにより、なにより、

「静玖と知り合い、だった………?」

静玖のあの驚き様からして、たぶんきっとそう。
呆然として、言葉にならなかったようだった。
あれは、バズーカを持っている事に驚いたそれじゃなかった。
長い間、あの子の姉をしていたからわかる。
あれは、居るはずの無い人が居たからこその反応だったはず。

「──────やっと見つけたぜ、子猫ちゃん?」
「っ!!」
「さ、ボンゴレ狩りを始めますか!!」

青い炎を吹き出して空を飛ぶ男の人は、片手に槍を持っていた。
その切っ先は、わたしに向いている。
かたかたと身体が震える。
かちかちと歯がぶつかって鳴り響く。
怖い、怖い、怖い───!!

「んん、なんか幼いなぁ。まぁ、いい。柚木深琴には変わりねぇだろ」
「っっ!」
「さぁ、綺麗な悲鳴を上げて死んでくれよ」

にやり、笑われる。否、嘲笑われた。
あ、や、いやっ………!!
ぶんと振り下ろされる槍。
あまりの恐怖に、きゅうっと目を閉じて身体を抱きしめた。

「───見つけたぜぇ」

ざしゅ、と肉を斬った音が聞こえたかと思ったら、つんと鼻を刺激する鉄の臭いが漂った。
どこかで聞いたことがある声だと思って目を開ければ、混じり気のない銀と金が目に入る。

「───あれ、お姫じゃねぇし」
「ああ゛?」
「っ、ベルフェゴールとスクアーロ!!! ってあれ、老けてる?」
「老け………テメェ、何言ってやが………………、」
「しし、若いねぇ、深琴。始まったわけだ」
「そのようだなぁ」
「───センパーイ、雪さん見つかりましたか、ってあれ? 誰です、その人」

かえるを被った少年がひょこりと顔を出して、わたしの顔を見て、深いため息を吐いた。
な、ななな………!!

「っかしーなぁ。反応は確かに此処だったよな」
「あぁ」
「ってことは、」

かえる少年の手がわたしに伸びて、両手を掴まれた。
ぐっと力を込めて握られ、上へ無理やり挙げられる。
痛い、と言ったところで離してもらえず、ベルフェゴールの手がピンキーリング───静玖が貸してくれたピンキーリングを掴んだ。

「だ、ダメっ! 触らないで、これ、静玖のなの!!」
「ししっ。だろうな」
「え、」
「ほら、スクアーロ」
「あ゛ぁ」

ピンキーリングが外され、それはベルフェゴールからスクアーロの手の内へと渡された。
スクアーロは大事そうにそれを弄る。

「間違いねぇぞぉ、静玖のだぁ」
「………なんでそんなこと、あなた達が………!!」
「なんでって」
「雪さんが雪さんだからですー」
「『雪』………?」
「ま、お前には関係ねぇ話だ。だがまぁ、お前の保護はしねぇとな」
「はぁ? お姫じゃないのに?」
「だから堕王子なんですよ、センパイ。この人保護しておけば、雪さんは安心するじゃないですかー」
「あぁ、そっち」

納得、と言ったベルフェゴールはそのままわたしを俵抱きした。
ぐっと腹にベルフェゴールの肩が入って、とても痛い。痛い、痛い!

「ちょっと待って、どこ行くの! ここはどこ!」
「行くのはヴァリアーの城だぁ。───ここはイタリア。10年後のな」
「は、はあぁぁああ!」

何それ、意味わかんない! と叫んだら、うるさい、とベルフェゴールに強制的に眠らされた。








草壁先輩に抱えられて、先ほどまで居た応接室に帰ってきた。
は、は、と、短く、そして無理矢理呼吸している私を見て、雲雀先輩が書類から顔を上げた。
苦しい、かなしい、寂しい、悔しい、痛い、辛い、苦しい………!!

「柚木静玖?」

相変わらずのフルネームだけど、そんなこと気にしていられない。
あまりの信じられない真実に、ただぼろぼろと涙を流すだけ。

「何があったの」
「柚木深琴が、消えました」
「!」
「ある少年が、バズーカを柚木深琴に放ったのです。被弾した彼女は、そのまま姿を消したのです」

淡々とした口調で報告され、息を飲んだ。
いやだ、やめて、現実を突き付けないで───!!

「そう」

ぐっと肩を掴まれ、身体を引かれる。
導かれたのは雲雀先輩の腕の中だった。

「わかった。じゃあ、調査を続けて」
「はっ」

一礼した草壁先輩はそのまま応接室を出ていった。
雲雀先輩に抱かれ、何も言わずにただ泣いていると、ぐい、と親指で涙を拭われた。
先輩らしくない優しさに、心が震える。

「───先輩。先輩、深琴ちゃんが、」
「うん」
「深琴ちゃんが居なくなっちゃったんです………!!」
「うん」
「綱吉や、リボ先生みたいに、居なくなっちゃった………!!」

怖い怖い、どうしたら良いの!
もう、わからない、わからない!!

「わかった」
「っ………、」
「わかったから、少し大人しくしてなよ」
「うぅ、」
「ちゃんと調べてあげるから」
「………んっ」
「───貸し1つだよ」

こくん、と頷けば、慰めるように黄色い小鳥がわたしの頭にぼすりと乗った。

この時点ですでに獄寺君、山本君両名が居なくなった事はまだ知られていない事実だった。




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