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リボ先生が居なくって、綱吉の部屋へ行ったあの日。
………綱吉までもが、居なくなっていた。
知り合いが忽然と、そして次々と姿を消しているその状況に、恐怖を抱かないはずがない。
学校の応接室に居る私達姉妹は、眼前で目を細めて話を聞いていた雲雀先輩にそのことを相談していた。
まぁ、「雲雀くんに相談しよう」と言い出したのは深琴ちゃんだけれども。
確かに並盛で起きたことを『並盛の秩序』である雲雀先輩に聞くのは間違いではないとはわかるから、私も一緒に来た。

「で?」
「雲雀くんは、どう思う? これ、誘拐なのかな」
「さぁ、どうかな。誘拐にしては手際が良すぎるし、何より痕跡が無さ過ぎる」
「それは確かに、」

綱吉にしても、リボ先生にしても、何1つ痕跡がない。
そう、忽然とその姿を消しているのだ。
家にいた奈々ちゃんさえも、綱吉が居なくなったことに気が付かなかったぐらいだから。

「深琴」
「なあに、雲雀くん」
「君達、それを僕に相談してどうしたいの?」
「どうって、雲雀くんなら何か良い案があるんじゃないかって。なんてったって、『並盛の秩序』なんだから!」

ついと目が細められる。
あああ、機嫌損ねられたらトンファーが飛んでくる………!!

「あの、雲雀先輩。私達が無責任なことを言っているのはわかっているんです。でも、私達にはもう、どうして良いかわからなくて………」
「そう」

捜すにも宛がない。
犯人の痕跡はない。
だけど、やっぱり綱吉は居なくて、リボ先生も居なくて。
ぐっと唇を噛み締める。
何も出来なくて、あまりにも自分が無力で、悔しくて悲しい。
だけど、悲しんでたり、悔しがってたりしてる場合じゃない。
だから、『並盛の秩序』である雲雀先輩にすがったのだ。
あぁもう、どうしたら良いんだろう。

「───深琴ちゃん」
「ん、なあに、静玖」
「これ。これ、持ってて」

左小指からリングを抜いた。
ティモから渡された、発信機付きの小さなピンキーリング。
もし、綱吉が『ボンゴレ十世』候補者として狙われたのなら、綱吉に付き添っていた深琴ちゃんも狙われる可能性がある。
仮に『九世の知り合い』として私をも標的にされたとしても、私には子雨達がいる。
そう易々と誰かに捕まることはないだろう。
だったらこれは、今は深琴ちゃんが持つべきだ。

「良いの?」
「今後、何がどうあるかわからないからね」
「???」

ピンキーリングの正体を知らない深琴ちゃんが首を傾げるのは当然だ。
思わず苦笑してから、とにかく、と深琴ちゃんの小指にそれを嵌めた。

「静玖」
「え、あ、はい!」

雲雀先輩に名を呼ばれ、ぴんっと背筋が伸びた。
え、何かな。

「深琴も」
「うん、なあに、雲雀くん」
「風紀委員を貸してあげるから、大人しく帰りなよ。原因不明の行方知れずについては、少なくとももう少し状況がわからなければ、動きようがない」
「雲雀くん………」
「闇雲に動き回って、同じように行方知れずになるような真似は避けろってことですね」
「うん」

よくわかってるね、とついと目を細めて薄く笑った雲雀先輩に、私も静かに笑んだ。
ここは雲雀先輩に感謝すべきだと思うし、賛同すべきだとも思う。

「誰かさんみたいに動き回っても、解決しない場合があるからね」
「誰か………?」
「笹川了平。走り回ってるようだからね」
「了平先輩………」

そっか、了平先輩はがむしゃらに捜すことを選んだんだ。
人は人だ。その道を選べる人もいれば、選べない人もいる。
私や深琴ちゃんは、後者に当たる。


「じゃあ、帰ろうか、静玖」
「うん」

いつまでも此処にいても仕方ない。
それに、せっかく雲雀先輩が風紀委員を貸し出してくれるって言うんだし、暗くなる前に帰らないと。
先にソファーを立った深琴ちゃんに続いて立ち上がると、雲雀先輩はやっぱりつい、と静かに目を細めた。

「じゃあ、これでお暇します、雲雀先輩」
「うん」
「またね、雲雀くん」

そう言って応接室を出た。
私達姉妹と一緒に応接室を出たのは、草壁先輩。
並んで歩いて、夕陽に染まる路を見て、ふぅ、とため息。
何事もないと良いんだけどなぁ。
そして、3つの影以外の影が見えた。
後ろから、しゅ、と伸びる、他人の影。
なんだか嫌な感じがしてくるり、振り返るとそこには、

「なっ───!!」

バズーカを抱えた正一くんがそこにいた。

「深琴ちゃん!」
「え、」
「いけない!!」

バズーカから放たれた弾は深琴ちゃんに当たる。
私はと言うと、草壁先輩に腕を引かれて被弾はしなかった。
しゅわしゅわと上がる煙が消えた後、そこに深琴ちゃんの姿は何処にもない。

「───っ!」
「………ぁ、」
「貴方は………、貴方が犯人ですか!」

草壁先輩に睨まれた正一くんはひゅっと息を飲んで、青い顔のままに走り去っていった。

「深琴ちゃん、深琴ちゃん………!!」

どうして居ないの、どうして居なくなっちゃうの!!

「いやぁあぁああ!!」

草壁先輩に肩を抱かれたまま、受け止めきれない現実にただ声を上げるだけだった。



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