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柚木、とやけに焦った声で名を呼ばれたので振り返れば、汗だくになって息を切らせた獄寺君が立っていた。
え、あれ、どうしたのかな。

「あ、えと、獄寺君? 私に何か?」
「お前、リボーンさん知らない、か?」

ぜぇぜぇと肩で呼吸をしながら聞いてきた獄寺君に、ぱちりと目を瞬く。
は? リボ先生?
………なんでリボ先生?

「私は何も知らないけど、何かあったの?」
「10年バズ………いや、お前はそれも知らないんだったな」
「???」

10年バズ?
よくわからない、と首を傾げれば、獄寺君は顎に伝った汗をぐいと拭って深いため息を吐いた。

「よくわかんないけど、リボ先生を探すの、手伝おうか?」
「あぁ」
「あ、それと、」

ごそごそとポケットを漁ると、目的のものはすぐに指に当たった。
獄寺君はきゅ、と眉を寄せて待っていたので、目的のものを握りしめて彼に差し出す。
きょとん、と呆けた獄寺君は、おずおずとゆっくり手を差し出してきた。

「はい」

ぽとり、と彼の手に落ちたのはあめ玉1つ。
きょとん、とさらに目を丸くした地獄寺君は、それからあめ玉を握りしめて、その手をポケットに入れた。

「疲れたら甘いもの。気分も落ち着くし、冷静になれるよ」
「………サンキュ」
「ううん。じゃあ、リボ先生を見付けたら、綱吉のところに行けば良いんだね」
「ああ」

じゃ、と言って獄寺君が走っていく。
その背を見送って、静かにため息。
リボ先生、ねぇ。
なんで居なくなっちゃったんだろ。
ティモがイタリア戻ったからついて行ったのかな。
いや、綱吉に何も言わずに居なくなることはないのかな?

「まぁ、いっか」

悩んでもわからないものはわからないし。
とりあえずリボ先生を捜さなきゃ。
でもどこを?
リボ先生が行きたい場所なんて知るはずないしなぁ。
そうなると、どこに居るのかな。

「うーん、」
「あ、静玖ー」
「! 深琴ちゃん」

ぱたぱたと走ってきた深琴ちゃんに手を振る。
額に汗の粒が見えて、慌ててポケットを漁った。
ハンカチを掴んで差し出せば、深琴ちゃんはにこりと笑う。

「ありがとう」
「ううん。それより深琴ちゃん、慌ててるみたいだけど、どうかした?」
「リボーンを探してるんだ」
「深琴ちゃんも?」
「え、静玖も、なの? なんか、駆り出されてね」

ハンカチが汗を拭いながら首を傾げて笑う深琴ちゃんに、私は苦笑を返した。
それにしても、なんで深琴ちゃんまで?

「リボーンの行く場所なんて知るわけないのにね」
「………あ、」

綱吉の行動に付き合ってる深琴ちゃんならともかく、思わず手伝うって言ってしまった私がリボ先生の行く場所なんて知るわけない。
そりゃ、リボ先生とは知り合いではあるけれど、私と直接的な繋がりはない。

「ツーちゃん、大丈夫かな」
「は? 綱吉?」
「ずっと一緒にいたリボーンが居なくなっちゃったら、やっぱりツーちゃんもショックは受けるわけだし」
「あぁ………」

確かに隣にいた人が急に居なくなることほど寂しいことはない。
だから、深琴ちゃんが言うことはわかる。
だけど、

「綱吉とリボ先生って、そんなに信頼しあってるの?」
「そりゃあだって、」

言いかけて、深琴ちゃんが口を閉ざした。
一体、なに。

「ううん、静玖は知らなくても仕方ないんだよね。二人のそういうところを目の当たりにしてるわけじゃないんだし」
「ん? うん、まぁ、そうだね。常に一緒なわけじゃないし」
「うん。だから、わからなくても仕方ないよね」

うんうん、と頷く深琴ちゃんに静かにため息を吐く。
まぁ、確かに深琴ちゃんよりは、あの2人の仲の良さを知らないのは当たり前だ。
私があの2人について知ってるのは、綱吉に対してリボ先生が足蹴にすることぐらい。
ふぅん、そっか。割と仲良いんだ、あの2人。

「あ、ね、静玖。ツーちゃんの所行こうよ」
「………リボ先生、帰ってきてるかも?」
「うん、そう!」

確かに無い話ではない。
闇雲に捜すより、原点に帰るべき。

「じゃあ、行こうか」

それが絶望への一歩とは知らずに、私達姉妹は揃って歩み始めた。



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